国際法については古くから法ではないとする法的性質否定説があり、プーフェンドルフ、オースチン、ラッソン、ツォルンといった人達が知られているが、今日でもそのように主張する人は決して少なくない。彼等の主張はおおむね「法は違反者に対して権力による効果的な罰則が加えられなければならないが、国際法にはそのような上位の権力も効果的な制裁も存在しない、国際法は特に力のある大国によってしばしば無視され、違反状態は放置される。」というものである。国際法学者の反論は「国内法であっても独裁制のもとなどで、権力者は法を無視し、それに対して強制力が加えられない場合があるから、法的性質を否定するのはおかしい」という主張もある。


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砂川事件 - 憲法と日米安全保障条約の優劣関係
1957年、在日アメリカ軍が使用していた立川基地拡張問題をめぐって反対派が基地周辺でデモを行い、その一部の者が基地内に侵入した。この不法立ち入りをしたデモ隊員数名が日米安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法第2条違反で起訴された。1審の東京地方裁判所は、アメリカ軍を駐留させていることは憲法第9条2項によって禁止されている「陸海空軍その他の戦力の保持」に当たるとして、同条約の下の刑事特別法の適用を認めなかった。つまり、この判決においては、条約より憲法の規定を優先させたのである。その後、最高裁において、日米安全保障条約のような高度に政治性をもつ条約の合憲性、違憲性の判断は、一見極めて明白に違憲無効であると認められる場合を除き、裁判所による違憲審査になじまないとして、判断を回避する判決が下された。その意味では憲法という国内法と日米安全保障条約という国際法の関係についての最高裁判所による最終的判断は得られなかったが、いずれにしても国際法と国内法の関係は単に理論上の問題であるばかりでなく、実際上も意味のある問題なのである。
国際機構の主体性
1949年に国際司法裁判所が示したベルナドッテ伯爵殺害事件に関する勧告的意見がある。1948年第一次中東戦争の際に、国連から調停官として現地に派遣されたスウェーデンのベルナドッテ伯爵が、任務の遂行中に殺害されたことに端を発している。ここで問題となったのは、国連が国家ではないのに、従来の国家に求められてきたような保護権を行使して、同伯爵殺害に関してイスラエルに対して、損害賠償を請求する権利があるか否かという問題であった。言い換えると国連は国際法上の主体性(法人格)をもち、したがって国際法上の請求権を国家に対して主張しうるかという問題であった。これに対する国際司法裁判所の判断は国連憲章に書かれている国連の目的から言って、そのような国際法上の法人格を国連はもっているというものであった。ぞして、その結果国連はイスラエルに対して国際法上の請求権を主張できると結論された。
企業・個人の主体性
企業の国際法主体性については、国際司法裁判所においてアングロ・イラニアン石油会社事件として争われた。1951年にイランがイギリスのアングロ・イラニアン石油会社を国有化した。イギリスは採掘に関する利権協定違反であるとして国際司法裁判所に提訴した。しかし、同裁判所は一企業と外国政府の間の利権協定の国際法的性格を認めず、イギリスの訴えを棄却した。この事件において明らかにされたことは、企業は、国際法上の固有の主体性を一般的には持たないということである。
犯罪人引渡しと国際法
日本では元ペルー大統領のフジモリ氏のペルーからの引渡し要請や、北朝鮮による拉致事件被害者の夫であるジェンキンズ氏の米軍法会議による訴追などが問題になった。慣習法上、国家は外国からの引渡し請求に応じる義務は一般的に無い。しかし両国間に犯罪人引渡し条約が締結されている場合は、条約規定に従ってその範囲内で引渡し義務が生じる。
一般慣習法の成立
第1は一般慣行の確立で、同様の国家の行動が長期間にわたり一貫して反復・継続されて一般化するという客観的要件である。しかし偶然に反復されていきた行為や、単に儀礼的な習慣と区別する必要があるから、第2の主観的要件として法的確信を伴っていなければならないとされる。
国際社会の共通の一般利益実現には、基準の平準化や統一という目的、ILOによる労働条約の作成によってかなりの程度達成されてきた。また国際航空機関(ICAO)においては、設立条約の附属書という形で締約国が従うべき航空規則について国際標準が設定され、これとことなる規則を採用する国は、背離という方法で、国際標準との相違をICAOに通告することが義務付けられる。他にも世界保健機関(WHO)の保険規則、世界気象機関(WMO)の技術規則で同様の方式が採用されているが、ここでは統一的な規則の存在と相違点の明確化というところに非常に柔軟ではあるが共通の一般利益が見出される。
国家の要件は、永続的人民、領域、政府、外交能力。国家承認の要件は、客観的要件、非承認国が、国家の要件を満たしていること。第2に主観的要件、非承認国が国際法を遵守する意思と能力を持っている、ということである。
国家の基本的権利
1945年にアメリカの連邦裁判所は、外国のアルミ会社がアメリカの領域外で行って生産制限のカルテルが、アルミの対米輸出を抑制する効果があるとして、アメリカの反トラスト法(独占禁止法)に違反する、と判決した(アルコア事件)。アメリカは、外国人が自国の領域外で行った行為に対して、自国の国内法を域外適用したのである。

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