美しいロシア語　ロシア映画　提督の戦艦

ロシア帝国の軍人アレクサンドル・コルチャークの生涯を描いたロシア映画『Адмиралъ』(Admiral、提督の戦艦)をご紹介したい。私の中では女映画＝恋愛映画としてカテゴライズしているが、恋愛映画と思ってみると戦争映画、戦争映画と思ってみれば、恋愛映画に思えるような作品である。
私はもう10回以上見ているが、この映画を見たことがない読者諸君も、せっかく2時間も使って鑑賞するならば、日本語吹き替え、英語吹き替えは論外なので、ぜひロシア語＋字幕で見ることをお奨めする。チャイコフスキー、ストラビンスキー、ムソルグスキー、ボロディン、ドビュッシー、挙げればきりがないほどの偉大な音楽家を生み出しているロシアの言語であるロシア語の響きが美しくないはずがない。
キャスト
アレクサンドル・コルチャーク　Александр Колчак ：　コンスタンティン・ハベンスキー

アンナ・ティミリョーバ：　Elizaveta Boyarskaya　Елизаве́та Миха́йловна Боя́рская

この日本語表記は非常に良くて、アレクサンド”ル”であり、音は英語風のアレキサンダーではない。シンガポール、オーチャードタワーのTop5に行けば、ロシア語・ロシア訛の英語に気軽に触れることができるのであるが、この映画を見た後で耳にする彼女らが話す”英語”はロシア語そのものの響きを感じることができる。アレキサンダーではなくアレクサンドルであり、ヴォッカではなくウオトカであり、ビアではなくビールなのである!　逆に言えばOTのTop5で遊ぶのなら、この映画を見てから彼女らの”英語”を聞くと、ロシア語の響きの美しさをより尊く感じることができるはずだ。Top5に行くならば、このページをブックマークしておき、iPhoneか何かで、随所にちりばめられたロシア語をロシアっ娘に見せてみれば、いくら彼女らがロシアで馬鹿女とはいえ、まったく知らないということはないはずだ。
そして、アンナ演じるボヤスカヤが、またかなりな幸薄顔で私好みだ。どんなに笑っていても、こんなにも悲しい顔をしている女性がいるだろうか?　ボヤスカヤは、日本人が期待するロシア・東欧美人とは多少異なるかもしれないが、動画で見てもなかなか魅力的な女性だと思うので、映画で見て確認して欲しい。

ロシアン・レディース七変化。寒さでこわばった顔が笑顔になる。

この映画の主題を2つ挙げるとするならば、
1.革命　ロシア革命
　私個人の好みではあるが、歴史的に、世界で見ても専制君主制から民主制への革命は面白い。日本の幕末、中国の清末、フランス革命、そしてこの映画の題材であるロシア革命。最後のロシア皇帝であるニコライ・アレクサンドロヴィチが、1917年ロシア革命、2月革命によって、皇帝を退位。ちなみにロシアの怪僧グリゴリー・ラスプーチンが死んだのは1916年と革命期は何かと面白い題材が豊富なのである。ラスプーチンは登場しないが、ニコライ・アレクサンドロヴィチに似てなくもない俳優は登場するのでお見逃しなく。映画後半は、トロツキー、レーニン率いるボルシェビキに、敗軍の将たるコルチャークが追いつめられていく。

二月革命　Февральская революция
十月革命　Октябрьская революция、ラテン文字表記の例：Oktiabr’skaia revoliutsiia
のリアルなロシア語発音は、Top5のロシアっ娘にでも読んでもらえば聞くことができるであろう。
2.不倫　禁じられた恋

　アレクサンドルもアンナも、出会いの時は既婚者であるが、二人ともその立場を理解しつつ、ダブル不倫で接近していく。世に一般的な「仕事と私とどっちが大事なの?」などという愚問は、当然、私自身の経験ではそんな台詞をはくような女性と親密な関係になったことはないが、この映画でもそんな台詞は出てこない。

アンナ　「私・・・分かるの。あなたが心から愛するのは海と戦争だけね。」
アレクサンドル　「手厳しいな。しかし他にもあるさ。」
アンナの手紙　時が来ればきっと願いはかなう。独占することが目的ではない。待つことは楽しみ。決して苦しみではない。
「仕事と私のどっち?」などという稚拙な台詞ではなく、このように言い切れる大人な女性を尊敬する。性格が悪い表現をするならば「家庭と子供などという矮小な社会集団を中心にしか、世界を見ることができない男には、私は興味が無い。」くらい言ってほしいものだ。

この映画を私は深夜にウイスキー　(スコッチなんか飲まずにウオトカをだろ!という突っ込みはさておき)　　を飲みながら、ウルウルしているのであるが、最後の10分は私の好きなБоя́рская　ボヤスカヤの迫真の演技を見ることになるだろう。ネタばれになるのでこれ以上は言わないが、決してスリリングで予想外なラストシーンという意味ではなく、まさに迫真の演技なので、最後までご鑑賞いただきたい。