軍事行動に無人偵察機は不可欠
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防衛庁が検討している機種は、イラクやアフガンなどで大活躍の「グローバルホーク」もしくは「プレデター」だ。グローバル・セキュリティによれば米国防総省調達価格がグローバルホークで約4800万ドル、プレデターで450万ドル。同じ無人偵察機でも機能がかなり違う。グローバルホークはターボファン機で、全長13.5m、ペイロード1t。巡航速度時速600km強、巡行高度は最高2万m、航続時間は最大で35時間、航続距離は最大で約22000kmである。それに対しプレデターはプロペラ機で全長約8m、ペイロードは約350kg、巡航速度は時速約130km、巡行高度は最高8000m、航続時間は最大で20時間、行動半径約740kmである。


防衛庁がはじめて防空システムの再検討に乗り出したのは95年である。これは93年のノドン試射実験、94年の核危機を受けての再検討ということだったが、実はこのとき最初から「アメリカで開発が進められているミサイル防衛をどう取り入れるか」という話がメインになっていた。おそらく膨大な開発費の一部を日本側に負担させる案が、その頃からアメリカ側にもあったのだろうと推測される。これが一気に加速するのが98年である。北朝鮮のテポドン発射事件を受けて、政府は次世代海上配備型のミサイル防衛に関し、日米共同技術研究に参加することを決定した。その予算支出は99年度から2005年度までで総額約262億円である。ところが、2011年9・11テロで風向きが変わる。アメリカは「国際テロ組織」や「ならず者国家」との対決を打ち出す超戦闘的態勢にシフトし、2002年12月には、すでに開発していた別のミサイル防衛を実戦配備することを決定する。同じ頃、2002年10月の「ウラン型核爆弾開発疑惑」をきっかけに北朝鮮が事実上の核開発再会に踏み切り、翌2003年には再処理工程も復活させた。日本政府はアメリカが配備を進めていた現有バージョンのミサイル防衛導入に急速にシフトし、同年12月に正式にその導入を決定したのだった。これは、総額8000億~1兆円規模の導入費用が予想される大決断だった。90年代初めの冷戦終結後よりほんの少しずつ動いてきた自衛隊のリストラが、このミサイル防衛導入費用のおかげでいっきに進展することとなり、「陸自主要装備の3割削減!」などという2004年12月の新防衛大綱へと繋がっていくことになった。
結局、当初は「次世代のミサイル防衛の開発費の一部を負担しましょう」という話だったのが、途中で「現有バージョンを巨額で買い取りましょう」という話に変わっていったという構図だが、なぜ変わったのかといえば「北朝鮮が脅威になってきたので、ともかく何か今できることをしないといけない」という理屈だった。具体的に現在、日本政府が導入しつつあるのは、イージス艦に搭載する新型艦対空ミサイル「SM-3」と陸上に設置する地対空ミサイル・システム「PAC-3」である。ノドンが発射された場合、まずは日本か海上に待機しているイージス艦からSM-3が発射され、高高度(大気圏外)飛翔中の筆頭を撃破する。撃ち漏らした弾頭は、上空から落下してくるところをPAC-3で迎撃するという2段構えだ。
アメリカは着々と日本の再軍備を自国の戦略に基づいて誘導していった。日本自身にとっても、ソ連に対抗するためにはそのほうが好都合だった。アメリカが最優先したのは、①日本に攻撃力は持たせないこと、もアメリカの揺るぎない基本政策だった。そのため、日本は「非核」で「専守防衛」だけれども、それを踏み出さない範囲において、ソ連軍と対峙する米軍の補完的役割を十分に果たすための戦力を獲得していくことになった。アメリカが意図してものとはいえないかもしれないが、「武器輸出制限」という日本のもう一つ”国是”も、アメリカの国益に合致するものだった。吉田茂以来の軽装備政策により、自衛隊発足当初は確かにそれほど強力な戦力とはいえなかったが、高度経済成長で日本が経済大国に成り上がるのに連動し、防衛費もうなぎのぼりに増えた。こうして成長した自衛隊は、大まかに言えば、「ソ連の戦闘機を在日米軍基地に近づけないこと」「米空母部隊にソ連潜水艦を近づけないこと」「ソ連軍の本格侵攻を北海道で食い止めること」の3つの役割をアメリカから与えられた。そのため、陸・海・空の各自衛隊は、個別の軍隊としての理想的な戦力構成とはほど遠い、いびつな戦力を持つ軍隊になった。
航空自衛隊は、とにかく要撃戦闘機の数を増やし、レーダーサイト網を完璧に張り巡らせて24時間365日の高度のアラート体制を維持することに主力を注いだ。敵艦艇や侵攻軍上陸部隊を攻撃する攻撃機は後回しにして、ものすごい数の要撃機を備えた。世界最高級機のF-15戦闘機を200機も運用する超豪華な要撃戦闘機部隊はこうして作られた。海上自衛隊はもっと偏った戦力の海軍になった。膨大な予算が超強力な対潜哨戒部隊を作ることに惜しげもなく注ぎ込まれた。そして、これもきわめて高価な対潜哨戒機P-3Cを100機も擁する豪華版の対潜水艦戦部隊が作られた。だが陸自が独自の戦略で本土防衛作戦を準備していたなどというのは嘘である。陸自はその予算のほとんどをはたいて戦車部隊を中核とする大火力軍団を作り、その主力を北海道に布陣させた。ソ連侵攻軍に備えるためだ。その一方、資金を正面装備に注いだため、弾薬の備蓄が極端に少ない陸軍になった。こうして国会やメディアで「自衛隊は合憲か、違憲か」などという議論をやっている間に、極東ソ連軍の強大化に合わせて自衛隊も東アジア随一の強力な軍隊を作り上げていた。それなのに90年代末頃まで、「自衛隊は軍隊じゃない」→「だから弱い」と信じていた国民も少なからずいたのは不思議なことだ。

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