p6 1990年代アフリカ。油田の権益を巡って三井物産はBPと競り合っていた。ある日突然、BPが入札から手を引き、権益を手に入れた物産の資源部門は大勝利に沸いた。しかし資金を払い込んだ3日後、その国でクーデターが起こり政権は転覆。物産が払い込んだカネは戻ってこなかった。「MI6だかロイターだか知らないが、何らかのインテリジェンスを使って、英国はBPにクーデターの情報を与えていた。何も知らない我々は間抜けにも突っ込んでしまったわけだ」 ほとんど丸腰で資源ビジネスを戦ってきた日本の総合商社は何度も火傷を負ってきた。三井物産が参画して1970年にスタートした「イラン・ジャパン石油化学(IJPC)」プロジェクトは建設途中でイラン・イラク戦争が始まり、日本側は1300億円の精算金を支払って1989年に撤退した。
うん、今も全く変わってない。同じことがサハリンで起きてる。
p44 WHはすでに死に体だった
2001年米同時多発テロをきっかけに米国で原発を作るコストが大きく跳ね上がっていた。民間航空機が貿易センタービルに突っ込むのを目の当たりにした米原子力規制委員会(NRC)は、「今後、原発がテロのターゲットになる恐れがある」と考え、国内の原発に航空機衝突対策を義務付けたのだ。COL(建設・運転一括許可)と呼ばれる新たな審査制度を経て建設許可を得るには7年もの時間がかかるようになった。WHはこうした新たな状況に対応できていなかった。
p65 「初めての資源ビジネス」はカザフスタンで
東芝手掛けた最初の資源ビジネスは、2007年8月に決めたカザフスタンでの天然ウラン鉱山開発だ。カザフスタンの国営企業(カザトプロム社)でのハラサン高山プロジェクトに22.5%出資し、年間600トンのウラン鉱石引き取り権を手に入れた。
2009年5月、カザフスタン大統領のナザルバエフに近かったザキシェフ(カザトプロム社長)がウラン権益に絡む不正を理由に逮捕され、新ロシア派の人物が社長になると、ザキシェフが主張してきたハラサン鉱山のプロジェクトは事実上凍結された。
2010年には3750万ドルを米国のウラン濃縮会社USEC(ユーゼック)に出資した。ユーゼックは2014年3月連邦破産法11章を申請し、事実上倒産した。
p69 あまりに壮大なモンゴルプロジェクト
モンゴルを舞台にした「CFS(包括的燃料サービス)構想」である。2009年12月に東芝が原子力公社モンアトムとウランを含む地下資源開発のMOU(了解覚書)を交わしたところから始まる。
2010年7月にはモンゴル政府が「モンゴル原子力イニシアティブ」を閣議決定。2030年までにウラン輸出など国内の原子力産業を燃焼150億円規模に育て原発も建設して国内の電力の完全自給を目指す、という野心的な政策だった。
CFSは「国際燃料サービスセンター」を設立し、モンゴルで採掘されたウランを燃料成型加工工場で核燃料にして、原発を新設する新興国などに輸出する。さらに海外で使い終わった使用済み核燃料をモンゴルで引き取り、同国内で中間貯蔵するという構想だ。構想の背後には米国が居た。米国は1987年からネバダ州のユッカマウンテンに使用済み核燃料の埋設処分施設建設を進めてきたが、地元からの反対が強く、2009年、オバマ政権は計画中止に追い込まれた。使用済み核燃料が再び行き場を失い、処分に困っていたところで、目を付けたのがモンゴルだった。日米からすれば、モンゴル産のウランを利用し、使い終わったゴミをモンゴルに捨てるという、ムシの良い話である。
2011年5月毎日新聞が日米合意文書をすっぱ抜いた「モンゴルに核処分場計画」。モンゴル国民は「バカにするな」と猛反発した。エルベグドルジ大統領は、9月「政府安全保障会議の承認なしに、いかなる核廃棄物処理の協議もしてはならない」という大統領令を出し、計画は凍結された。
p75 2011年5月、産業革新機構と共同でスイスのスマートメーター会社ランディス・ギアを買収。23億ドル(約1863億円)で東芝が60%、産業革新機構が40%を出資。
2013年東電からの受注。2023年度を目指して東電管区2700万世帯にランディス・ギアのスマートメーターを設置することになった。ところが2015年、ランディス・ギアのスマートメーターと東電のスマートグリッドの通信方式に違いがあるため、2700万世帯のうち800万世帯しかカバーできなかったのだ。東電は「東芝に瑕疵がある」として作り直しを要請した。東芝はカザトプロム関連で1000億円ののれん代を計上しているが、企業価値が落ちているなら現存処理が必要となる。
2013年9月米フリーポートLNG社と結んだ天然ガス「シェールガス」の液化加工契約
その頃米国ではシェールガス革命の結果、電力料金が急激に下がっていた。東芝が米テキサスで改良型のABWRを受注して計画中の原発「サウス・テキサス・プロジェクト(STP)」は「発電しても電気の売り先がない」という状況に陥っていた。
p103 買収した会社の内情がボロボロで、巨額の買収資金を事実上だまし取られた上に、買収後も好き放題にカネを使われる。日本企業が海外の名門と呼ばれる会社を買収したときによく起きる現象だ。もっとも有名なのが1989年のソニーによる米コロンビア映画買収だろう。盛田昭夫が会長、社長が大賀則雄の時代に決断した大型M&Aで日本企業の強さを象徴する事例とされたが、買収後もソニーは2人の米国人大物プロデューサーに食い物にされていた。その様子を活写した「HIT&RUN」(ひき逃げの意)。邦訳「ヒット&ラン ソニーにNoと言わせなかった男達」 ナンシー・グリフィン、キム・マスターズ共著、エフツウ刊 はベストセラーになった。
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