経営の指針もしくは参考に兵書や戦記物を読み、さらに『作戦要務令』まで研究する、また「海軍式経営法」などという雑誌記事も掲載される、といった一時期があった。当時、こういった風潮についてある編集者から意見を求められたので、私は次のように答えた。
「それは少々見当違いだなああ、というのは、軍隊を存在理由または軍事行動の目的は敵の戦力を粉砕することにある。しかし、企業はそうではない。企業は何かを粉砕するために存在するのでなく、あくまで生産をして利潤を上げつつ存続するのが目的だから、存在理由と機能の目的が軍隊とは全く違うはずだ。いわば両者は基本が全く違うのだから、軍事はそのまま経営の指針もしくは参考にはならないはずだ」
この答えに対して、相手は一応納得したものの何か割り切れぬを感じたらしく、「でも企業に激烈な競争、いわば生存競争がありますでしょう」といった。それに対して、私は次のように答えた。
「確かにそれはある。しかし、企業の競争はいわばマラソンのような競争であり、一方軍事行動はボクシングのような闘争で、この2つの競技は同じ競技といっても基本が違うように思う。ボクシングは、相手の戦力を破砕してノック・ダウンさせればよい。だが、企業の競争はエンドレス長距離競争のようなもので、長期の競争に耐えうるように自らを鍛え、最も合理的な走り方をするようにあらゆる合理性を追求する。そして負けた者は脱落していくという競争だから、やはり基本が違うと考えねばならない」