中国は2009年にアメリカを抜き、世界第1のエネルギー消費国になった。とりわけその石油消費量は10年前の2.3倍にまで増大したのだ。ところが生産量のほうは10年前の1.1倍にとどまっているため、エネルギー需給の逼迫が次第に深刻化している。石油の対外依存度は2010年上半期、55%以上に達しているのだ。中国経済は70年代末から今日にかけて30年間、年成長率約10%の高度成長を遂げてきた。その行動成長は、エネルギー・資源多消費型の重化学産業に依存している。そのため、石油・エネルギーの生産量がその消費増加量に追いつかなくなり、エネルギー供給ギャップが拡大しただけでなく、CO2排出量が増え、環境問題も深刻化しているのだ。
中国はエネルギー資源をほとんど一般の商品と同様にみなしており、お金があれば、国内開発・供給を強化するほかに、海外直接投資・貿易を通じて、独自に海外で石油エネルギーを確保できると考えてきた。しかしながら、2005年8月、アメリカ連邦議会の猛烈な反対により、中国海洋石油総公司(CNOOC)による米石油会社ユノカル買収が失敗し、また、アフリカなど産油国での活発な資源開発・権益確保活動が、独裁政府を支援していると欧米社会からの批判を招くようになり、これを機に中国の国家エネルギー戦略は、大きな転換が迫られた。すなわち、石油・エネルギーが単なるコモディティであるとともに、戦略的政治・軍事商品でもあること、またグローバリゼーションのなか、一国におけるエネルギー安全保障(安定供給)は、常に国際的な視野に置かなければならず、国際社会とりわけ日米欧など主要国との協力を通じて初めて、よりスムースにできることを認識し始めたのである。
重厚長大経済とエネルギー消費
中国のGDP構成を見ると、第2次産業の工業の割合は53%(2009年)を占めており、その中のほとんどが、鉄鋼、石油化学、機械、セメントといった重化学産業である。工業に占める重化学産業の比重は1998年に57.1%から2009年には70%以上に上昇している。GDPが世界の僅か8%であるのに対し、石油は世界の消費量の10%、石炭は47%、アルミニウムは30%、鋼材は44%、合成樹脂は39%、セメントは40%という高い比率を占めている。しかも、重厚長大型の産業構造と産業・プロセス技術水準の制約により、エネルギーの消費効率が日本などの先進諸国より遥かに下回っている。
中国には、比較的豊富な化石エネルギーがあるとはいえ、石炭がその中心的位置を占めている。09年現在の石炭資源保有量は1兆345億トン、確認埋蔵量(1145億トン)は世界第3位、世界の14%、これに対し、石油・天然ガスの埋蔵量は少なく石油確認埋蔵量1817億トン、天然ガス187兆4900億立方メートルの1.1%、1.3%を占めるにすぎない。エネルギー資源は広範囲にわたり存在しているが、埋蔵・生産地の分布は不均衡である。石炭は主に河北、西北の内陸部、水力資源は四川、雲南、貴州などの西南地域、石油・天然ガス資源は、主に東、中、西部地域・海域に分布。他方、エネルギー消費地は東・東南部の経済発達地域に集中している。資源の生産地は、エネルギーの消費地から大きく隔たっており、石炭と石油を北から南へ、天然ガスと電力を西から東へというわけで、エネルギー輸送の高いコストを産んでいるのである。その上、資源の開発・生産は極めて悪い地理・地質条件におかれている。石炭資源は採掘条件が悪く、露天掘りは少数で、ほとんどは坑内掘りが必要である。石油・天然ガス資源は地質条件が複雑で、貯油・ガス層が深く、深鉱・開発にハイテク技術が求められているために、常に高いコストをはらわざるを得ない。しかも未開発の水力資源は南西部の山奥に集中し、電力消費地から遠く、開発・発電コストが高い。
2003年3月20日、アメリカは対イラク戦争を始め、陸上部隊が侵攻を開始し、ウムカスルやルメイラ油田を攻略したが、その後、中国共産党の胡錦濤総書記と温家宝首相は、王濤 世界石油大会中国国家委員会主任(旧石油省大臣)、馬富才CNPC(中国石油天然ガス集団公司)総裁(現国家エネルギー局弁公室主任)および共産党中央政治局委員の周永康(元CNPC社長)らを呼んで特別会議を開催した。こんなに危機感・緊張感を抱いているのは、なぜなのか。
第1は、輸入ソース多様化・輸入ルート分散化の下で、海上輸送ルートは中国にとって常に不安材料であること。中国は世界最大の石油生産・供給先である中東地域からの原油輸入をますます拡大せざるを得ない。しかしながら、地政学的視点から言うと、中東地域にはイラクなど情勢の不安、テロの多発、地域紛争などを多々不安な要素が存在しており、いざ原油供給が途絶すると中国の石油セキュリティに大きな影響を及ぼす。また、中国輸入原油の8割はマラッカ海峡を経由している。特に中東からの原油輸入は中国全体の輸入量の半分近くを占め、ホルムズ海峡とマラッカ海峡を経由することになる。アフリカからの原油輸入(中国全体の約3割)もマラッカ海峡を通らなければならない。この2つの海峡は中国原油輸送の生命線である。海峡沿岸地域諸国の政治的安定、海峡ルートの輸送の安全などは、中国原油輸入にとって、欠かせない条件なのである。とくにマラッカ海峡はシンガポール、マレーシア、インドネシア3国によって共同管理されているが、実はシンガポールに軍事基地のあるアメリカは、この海峡を実質的にコントロールしている。03年11月29日、共産党中央経済会議の最終日に、胡錦濤国家主席は「中国の石油輸入の大半は中東、アフリカ、東南アジア地域から来たもので輸入原油の1/5がマラッカ海峡を経由して輸送されたものである。しかしながら、いくつかの大国がマラッカ海峡の水上運輸の通路に手を出し、コントロールしようとしている」と発言。
第2は、アメリカの世界石油・エネルギー市場への影響を常に懸念していることにある。9.11以後、ひいては国際エネルギー市場に与える影響は増大している。また中国政府は近年アメリカの金融資本・メジャーによる操作が原油価格の暴騰を招いていると判断している。それに伴い、中国は余計に莫大な外貨を支払うことになり、石油貿易収支の赤字が持たされているというわけだ。中国政府はアメリカ金融資本・国際メジャーの利益を代表するアメリカの政策・利益集団に対して、不信感を募らせているのである。
第3は、経済成長に伴うエネルギー需給ギャップの拡大に対する不安である。総じて中国政府は共産党が政権の材にある政治・社会体制を守るために、体制安定化につながる雇用拡大、国民生活水準の向上を図らなければならない。石油・エネルギー需給の逼迫問題は、中国国内の地域格差・貧富問題、少数民族問題、産業技術などの要因と比べ、持続的な成長にとっては最大の制約、ボトルネックとなっている。
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