シンガポールはリークアンユー率いるPAP(People’s Action Party=人民行動党)政権が、1959年の部分自治政府の成立以来、マレーシア連邦への参加と分離を経て1965年のシンガポール共和国成立後、現在に至るまで50年以上にわたって一元的支配を貫徹していることで知られる。一元的支配の貫徹は、住民一人一人の多様な日常生活を標準化するという形で結実し、その細部にまで入り込んでいる。このことを端的に示すのが公共住宅団地で、人口の82%がHDB(Housing and Development Board=住宅開発庁)という政府機関の下にある団地に居住している。シンガポールは「総団地化」を実現した団地社会であると言える。


シンガポールにおける標準化と差異化の相克を取り上げるにあたって、団地社会である以上に重要な特徴としてあげることができるのは、「華人」「マレー人」「インド人」「その他」という複数の一見多様な住民から成ることである。人種という語が敢えて用いられ、住民は人種別に分類され、互いに区別しあわなければならない。団地社会と多人種社会は無関係ではなく、各エスニック・コミュニティにバランスの取れたエスニック・ミックスを確かなものにすることによって、人種別集住の形成を避けるという目的のため、各団地棟と各団地近隣区において人種別割合の上限が定められ、これを上回る場合、様々な制約を受けなければならない。
1965年8月9日、シンガポール共和国がマレーシア連邦から分離独立する際に行われた記者会見において、リークアンユー首相が
「シンガポールは多人種国家になります。シンガポールはマレー人の国でも、華人の国でも、インド人の国でもありません。誰もがそれぞれの所を得て、言語、文化、宗教すべてにおいて平等なのです。我々は多人種主義を信奉し、シンガポールをショービニズムから切り離し、多人種主義へと導いた政府です。多人種主義と統合をマレーシアにおいて達成できなかったことは残念です。しかし我々は、それをシンガポールで達成します。」
世界に例を見ない団地社会を実現しているシンガポールにおいて、団地に居住せずに生きていくためには、価格が遥かに高いコンドミニアムか土地付きの家を買うしかない。シンガポールの大多数の住民にとっては団地という標準化された居住空間以外に居住地の選択肢がない状態に等しいのである。しかも団地は、賃貸団地戸と分譲団地戸とに厳密に分けられ、相応の困難な事情が無い限り賃貸団地戸には住むことができず、分譲団地戸を購入しなければならない。総団地化だけでなく、「総分譲化」をも実現しているのである。
> えっ? 俺、住民だけど買わなくても大丈夫だよ、借りれば。
2000年の国勢調査によると、月間勤労所得と世帯月収の中央値は、華人が2335ドルと3848ドルであるのに対して、インド人は2167ドルと3387ドル、マレー人は1790ドルと2708ドルである。明らかに華人が多く、マレー人が少ない。
> シンガポール政府の出す”中央値”ってのはとても良いよね。所得格差が日本とは比較にならないレベルであるから、”平均値”が意味が無いんだけどね。日本人の大好きな”平均年収”なる概念でモノが言えるのは格差が誤差でしかないことの証明なのである。これも前に述べたことであるが、重要なので繰り返そう。平均という概念を理解できる賢い日本の民は、もう少し勉強して、分散の概念を理解しよう。あるいは中央値と平均値の違いも知っておくと良い。年収のように非負の分布においては、一握りの高額所得者の影響で、平均値は中央値より上がる。平均年収を見て悔やむ無かれ、中央値を見つめるようにしよう! (まぁ日本は平均と中央がシンガポールに比べれば遥かに近い水準だろうがなw)
1979年9月から「スピーク・マンダリン」キャンペーンが始まった。メディアにおける広東語や福建語等の華語諸語の抑制の徹底であった。テレビでは、1978年7月に華語諸語による広告が中止され、1979年11月に香港の連続ドラマが広東語から華語に吹き替えられ、1981年に華語諸語による番組が全面的に中止された。華語諸語による番組は現在2010年1月に筆者が現地で確認したところ、テレビの地上波放送では放送されず、香港の広東語によるドラマや台湾の福建語によるドラマでは、セリフが華語に吹き替えられ華語諸語を聞くことは主題歌以外にない。香港の広東語ヒット曲も華語ではないためラジオで放送されることは無い。この結果シンガポールの人気歌手・孫燕姿のデビュー曲「天黒黒」のミュージックビデオが、アジア各地の中国語圏で大ヒットしたにもかかわらず、2000年当時シンガポールのテレビで放送されないという事態を生じた。華語曲であるが、「天黒黒、欲落雨(空が暗くなって雨が降りそう)」という福建語が一言入るためであった。
> すごい世界ですね。シンガポールだけでなく、中国でもタイでもインドネシアでも言語統制(言論統制とは違う)を行っています。まぁ、前者のいくつかには言論統制もあるかw 「日本人は英語が話せない」とよく言われる日本の国際性の無さ、その強力な一元性は、”言語”統制など全く必要としない平和の象徴とも言えよう。
他の多文化主義政策との大きな違いとして挙げられるのは、アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)がシンガポールで行われないことである。シンガポールの憲法152条で、「政府はシンガポールの先住民であるマレー人の特別な地位を認め、その任にあたる」ことが定められているが、アファーマティブ・アクションは行われていない。シンガポールが現在マレーシアではなくシンガポール共和国である最大の理由は、マレーシアの「ブミプトラ政策」のような「優遇」政策は行わないことにある。
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タマンジュロン団地の4部屋型の価格は、調査当時の2000年8月の時点で現地紙によれば、26.3万ドルであった。これは2000年におけるシンガポール人世帯の平均月収3114ドルの7年分に相当していた。最新のHDB年俸によれば、新規分譲団地戸の価格は、三部屋型が11.6~21.1万ドル、4部屋型が18.4~32.7万ドルである。また2009年度の中古団地戸の価格は三部屋型団地戸の中央値が24万ドル、四部屋型の中央値が32万ドル、5部屋型のが38万ドルであった。なおシンガポールの団地戸は新規分譲時には内装がほとんど行われていない状態で分譲され、その購入者は部屋をリノベーションしなければならない。床や壁を装飾するだけでなく、キッチンの流し台等も1から作らなければならない。費用は2万ドル以上を要し、部屋数によっては7万ドル以上にも達する。
GIC、タマセク・ホールディングス、GLCはいずれも国家機関なのか企業なのか曖昧な位置づけであり、法定機関と同様あるいはそれ以上に、曖昧さと強力さを併せ持っている。この結果シンガポールにおいて、一元的支配は政治だけでなく経済にも及ぶ。マスメディアについても、事実上毎日購入可能な現地紙として英語紙三紙(The Straits Times,The Business Times,The new Paper)、華語紙三紙、マレー語紙1紙、タミル語紙1紙という計8紙が販売されている。一見多様だが、全紙がSPH(Singapore Press Holdings)という政府系の新聞社によって発行されているのである。言語は多様だが、内容に大差は無くPAP政府を賛美する記事で満ち溢れる状態である。テレビについても、メディアコープという政府系企業が「唯一の地上波放送局」として番組を独占して放送している。
> 言語は一様で、内容に大差は無く、国内政治を無駄に中傷する記事に満ち溢れている。 はい、クイズ、どこの国のことでしょうか?
分譲団地の取り壊し
SERS(Selective En-bloc Redevelopment Scheme=選択的全棟再開発計画)とは、古い、低層の分譲団地棟を政府がSERSに指定して公表し、近くの空き地に代替団地棟を建設する。既存の団地戸を土地収用法の下で強制収用し、住民に補償金を支払う。住民には代替団地戸を配分し、2割引きで購入できる。2009年まで合計73地区、299頭、33,882戸がSERSに指定されている。改装プログラム、MUP(Main Upgrading Programme)との差異は、住民投票によって最終決定されるMUP、一方SERSは「国家全体の利益に必要なため、住民の意見を取り上げると、再開発計画の実行が難しくなってしまう。」
> おっしゃるとおり。民には与えるだけでよいのだ。支配されるという特権をだ!

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