小説なのだが、株主を軽んじている日本の経営陣の典型な部分を取り出してみた。
「議長交代だ!動議だから先だ!」 男は相手の反応を待たず一気にたたみかけた。
「交代の必要等はまったくないと考えております。しかしながら株主様から決を採るようにとのご発言がございましたので、議事進行に関する動議かと思われます。したがいまして、さっそく決を採りたく存じます」 議長役の蒔山の言葉にはさすがに少し苛立たしげな調子が混じっている。
「議長交代の動議に賛成します。私が議長をします。私が議長をすることに反対の方はいらっしゃいませんね。私は自分の株のほか、江戸銀行その他5社、総計1500万株の株式にかかる議決権について委任されております」
前列の席を占めている社員株主がいっせいに各田の方を見た。しかし、誰も声を出さない。ひな壇に並んだ20人ほどの取締役や監査役も押し黙ったままだ。
議長を交代いたしました。私から動議として株主のための経費節減と、現在の取締役の任務違背に鑑みまして今回は選任の数を4名とすることをご提案申し上げます。」


蒔山はこれまで幾度と無く株主総会を開催して議長をやってきたが、今日のようなことが起きてみると、自分が株主総会というものについて、いや、株式会社という法制度について何も知らなかったことに、いまさらながら驚くほか無かった。それでいて木谷産業という株式会社の社長を10年以上もやってきたのだ。
「それにしてもあの男は一体何を考えているんだ?」 蒔山の苛立った声が、総務・国際関係担当の荒井専務に投げつけられる。
「すみません。私にもよくわからないんです」
「君がわからないのでは、対策の考えようがないじゃないか」 蒔山は失望とやはりこの男は何も分からない、しょせんセールスマン上がりにはそれ以上のことはできっこないんだという妙な安心感とを同時に覚えた。
「じゃ、あの無茶苦茶な議長解任劇はどうなんだ」
「いや、あんなもの、駄目です!」 荒井は何を根拠にしてか、語調を強めて断言した。
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> 日本を支配する感情論は、株式会社制度や資本主義に向かないよなw
テレビに流れた各田のインタビューについては、城之内弁護士は冷ややかだった。 「テレビが決めるのではなく、裁判所における法律的な論争と究極は裁判所に提出された証拠が決めます。各田を取締役に選任する委任が有力株主からあったという事実が存在しない以上、取締役選任決議なるものは不存在か無効、少なくとも取り消しを免れないと考えるしかない。それに、株主の1/3が出席していなければ、そもそも法律上取締役選任の議決はできない。仮に1/3が出席していても、彼の言う取締役選任の決議など絵に描いた餅ですらない」
蒔山には城之内の言っていることの意味の大半はわからなかった。各田を取締役に選任する委任状など存在しなかったのは自明のことだ。それに、不存在、無効、取り消しなどの用語のどこがどう違うのかもさっぱり理解できなかった。

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