月: 2017年1月

三田氏を斬るシーズン3 7/9~期待値負のギャンブルに挑め

P.52  筆者個人の話だが、チャート分析家の意見・コメントを気にしたことは無い。新聞では、そういったコメントは必ず読み飛ばすことにしている。

デリバティブズ・ビジネスII 三田 哉 (著) – 2015/9/12

それは俺も同じwだが、

ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち

的発想は無視できない。この本では、クオンツのロジックにまでは踏み込めていないから読んでも明らかにはならないが、彼らの挑戦はサイコロの癖、確率は1/6ではない、ということを見出そうとしていたのは間違いないだろう。この本で出てくる「エド・ソープ」が何をやったのかは後述するとして、その前に、三田さんの

(1+2+…+6)/6=3.5として計算して答えを出す。

この発言が罪なのである。もちろん理論的に正しい。おそらく三田さんの人となりは酒もタバコもギャンブルもしない性格であろう。酒とたばこはどうでもいいが、「ギャンブルは期待値が負の時間の浪費」と決めてかかっていることだろう。ブラックジャックというカードゲームがあり、最適行使をすれば、期待値99%とも言われているが、でも99%。1%はカジノの取り分として設定されている。と考えるであろう。だが、エド・ソープは、「ラスベガスをぶっ飛ばせ」でおなじみのカードカウンティング、すなわち、ディーラーの手元にある残りのカードに何が残っているかを記憶し、有利であれば賭け金を増やすという賭け方で、ラスベガスに革命を起こした張本人である。我々が一度でもカードカウンティングの可能性を吟味したか?

(1+2+…+6)/6=3.5として計算して答えを出す。サイコロが、均一になるように精巧に作ってあるかは疑ってみるべきかもしれない。

この発言が罪なのはお分かりいただけよう。理論屋ではなく実務家を名乗るならば、俺も三田さんも「実務家」としての努力怠っていると反省すべき具体的事例だ。ここのところずっと米国市場の取引がメインになっているが見れば見るほど、米国市場と日本市場の資本市場としての質の差が大きいのが分かる。その原因として、

1.市場としての時価総額や流動性
2.市場参加者の多様性
3.市場参加者のリテラシー(フィナンシャルリテラシーの意味か)

が違いすぎる。というのがもっともな説明だろうが、それは我々の責任逃れの言い訳に過ぎない。

P.18 トレーディングでの失敗談を書かれたデリバティブズトレーダーが、一生に一度しかない失敗を本に書かれたと憤慨していると聞く。そこで、彼の話題を再び紹介しよう。(後は略、本を買って読んでくれw)

P.89 モンテカルロシミュレーションの誤差より
「なぜ、試行回数が10万回なの。そこで止めた理由は?」この質問に対して統計的な用語を使った説明ができなければ、ソイツはもしかしたら・・・いつも銀座の1番窓口で宝くじを買うために朝早くから行列に並んでいるヤツかもしれない。

この憤慨している彼と、銀座の窓口で並んでいる彼には罪はないのだ。もうちょっと言うと扱う価値もないどうでも良い存在だ。

つまりね、ラスベガスの収益を向上させるためには? 客を増やすことだ。中国人なり、石油王なりを連れてくることだが、それは営業マン、三田さんの言う所のセールスの仕事であり、我々には関係ないことだ。だが、エド・ソープはたった一人で(正確にはMITの連中を大勢連れて行っているのだが、考えた張本人という意味で)カードカウンティングを行い、シングルデッキから6デッキ、さらに現在では、オートシャッフルのローリングの機械がテーブルに備え付けられているのをギャンブラー諸君は見ているだろう? カジノにおいて期待値1以上のプレイをすれば、カジノには革命がおこり、すべてのオペレーションが変わったのだ。

中国人や石油王をたくさん連れてくれば、カジノの収益は上がるが、カジノのルールと運用は変わらない。

我々(とは三田さんと俺であり、憤慨しているトレーダーと宝くじを買うために並んでいるヤツではない)がすべきことはシングルデッキから6デッキに変えさせる革命なのだ。日本市場では、ホリエモンがそれを行った。デリバティブはあまり関係ないが、分割の際の新株発行や、メディアにおける親子のねじれの解消には一役買ったわけで、彼は一人で「ルールを変えた」=革命を起こしたのだよ。ホリエモンは頭は良いが株式市場に関してはアマチュアだ。だが、プロたる我々が、彼ほどの革命を起こせていないこと、そのものが「罪」なのだ。

憤慨しているトレーダーや宝くじを買うために並んでいるヤツにデリバティブを理解させるのは、カジノで脳みそ垂れ流している馬鹿なギャンブラーに「ソフトセブンティーン(エースを含む17)の場合はヒットしたほうが良いですよ。単純に考えて、ソフトセブンティーンが悪くなるのは、5~9が出た場合のみ。その確率は5/13なのだから有利ですよね?」と滾々と説明するくらい意味がない。エド・ソープがカウンティングしていた同じカジノにバカギャンブラーが100人以上居ただろう。流動性だ、参加者の多様性だ、リテラシー? そんなもんは一切ルール変更には関係ない。


三田氏を斬るシーズン3 6/9~裏か表の確率は50%ではない

2-3 モンテカルロシミュレーションの悩み
P.75 ~76 
サイコロを振るとやめらない
確率計算ができる人ならば、1から6までの目は等確率で出現するから (1+2+…+6)/6=3.5として計算して答えを出す。これが、解析的に解く場合に相当する。解析的開放は常にエレガントだ

サイコロが、目の穴の質量×重心からの距離(モーメント)も含めて、均一になるように精巧に作ってあるかは疑ってみるべきかもしれない。実際に”サイコロを振る”という試行をして、答えを推定する方法がモンテカルロシミュレーションである。

デリバティブズ・ビジネスII 三田 哉 (著) – 2015/9/12

三田さんの気持ちは痛いほどわかるが、「時代錯誤」と言わざるを得ない。三田さんを批判すると120%自分に返ってくると言ったが、それはなぜか? 俺の方が若いからだよ。テクノロジー、文で書くと同じだが俺の言葉を実際聞けばかなりイライラする発音だ。専門用語はアクセントが後ろに行く。専門用語・業界用語にみるシングリッシュとの共通性 ITや機械学習の専門家がテクノロ”ジー”とIT業界人っぽく発音するのはやぶさかではないが、私のような、「にわか」は”テクノロ”ジーとアクセントは前にもってきて発音すべきなのである。書いてある意味がわからん諸君は次回俺に会った時に「テクノロジーって発音してみて」と言ってくれ。相当に「イライラする」w「テクノロジー」の発音をお聞かせしようw

テクノロ”ジー”と発音しても許される人のテクノロ”ジー” 開始20秒で聞けますよ。

話が脱線してしまったが、テクノロ”ジー”の進化によりモンテカルロの計算コストは劇的に下がった。そして解析的に解けるエキゾチックは相当に限定的なことから、いかに効率よくモンテカルロするか、が非常に重要なのである。私も解析的手法こそが最も美しいと信じてはいたものの、実際に私が最も使ったのは皮肉なことにモンテカルロである。それを一般的に一冊の本にまとめたのが、

統計学が最強の学問である 

そして三田さんの発言で最も罪なのは、

(1+2+…+6)/6=3.5として計算して答えを出す。サイコロが、均一になるように精巧に作ってあるかは疑ってみるべきかもしれない。

で話を終わらせてしまっていることだ。三田さんもお気づきのとおり、サイコロはおそらく均一ではない。1兆回ほど振ってみれば2が1/6をわずかだが優位に上回る結果が出るかもしれない。1と6が最も軽く上に出そうだが、対面にあるので、2と5の組が最も質量に差がありそうというかなり強引な推測だがw ま、俺のくだらん推測が合っているか間違っているかは話の本質ではない。

ただ1兆回サイコロを振るのはあまり現実的ではないので、実現可能な例を示そう。乱数を使って、0か1をランダムに作り出すことにしよう。仮に(0,1]区間の一様な乱数なら、乱数>0.5なら1、そうでないなら0という乱数「裏か表」である。この結果を機械学習に食わせて、裏に賭けるべきか表に賭けるべきか、判定させようというわけである。もちろん、結果の数が10とか100個であれば機械が間違った判定をするのは当然だが、それを億、兆と増やしていけば、乱数裏か表に対してどっちに賭ける方が優位というのはないはずである。ところが、私の友人の専門家に聞くと、「実際にやったことはありませんが、データセットの数を増やせば増やすほど、機械はどちらが優位かというのを答えることになると思いますね」と答えた。

彼が何を言っているのか、今なら翻訳できるので三田さんでも分かるように翻訳すると、乱数>0.5なら1なのか、乱数≧0.5なら1と設定するのか、あるいはそもそも(0,1]区間で発生させる「一様な乱数」と言っているが、この乱数も所詮はプログラムで作られた乱数であり、本当に理論通りのランダムを実現できてはいない。エクセルのRand関数程度であれば乱数周期が短いのは周知の事実であり、1兆回もコインを投げることなく、その癖は露呈するだろう。機械学習は乱数生成プログラムが確率0.50000000000000001の癖を持っていれば、データセットが多ければ多いほど、それを有意とみなすだろう、ということなのだ。


三田氏を斬るシーズン3 5/9~トレーディング業務でのAI活用

ついでながらに、「にわか機械学習」病の俺の発言をさらに加えると、当時、ブロックのプライシングモデルは、市場データ、つまり、今日の株価や出来高なども考慮するので、参照データは動的ではあったが、算出ロジックが固定的な数理モデルであった今ならまさに「機械学習」、日経新聞的に言えばAIの出番で、参照データ、トレーニングセットの数=ブロックのディールの実績数が増えれば増えるほど、少しずつ精度が増していく設計で作るだろう。固定的な数理モデルでは、過去の株価と出来高と、相関と・・・などを取ることが決まっていたのだが、今ならもっとダイナミックに参照データも拡張可能にし、例えば離散的な顧客属性、生保・信託・ヘッジファンド・銀行・事業会社・個人などの情報を加えても良いし、意味はないかもしれないがインプライドボラティリティの情報も食わせてみても良いかもしれない。いずれにしてもUnsupervisedな機械学習を取り入れて算出することになろう。

また職人芸のインプライドボラティリティの推定にに話を戻すと、機械学習などにこだわる以前の次元だ。そんなものは使わずとも、短期で計算したヒストリカル・ボラティリティと長期で計算したヒストリカル・ボラティリティの2つを使えば、IVの推定はかなり説明できる。完璧ではないが、この2つは大体のボラティリティの水準とVol of Vol、ボラティリティのボラティリティが「大体」分かるからである。先ほど三田さんが指摘しているように短期のHVとか長期のHVといういい加減な言い方ではHVは全く計算できないのだが、それでもその2つ、あるいはもう一個加えて3つくらいの期間のHVを見ながら、「職人芸」で推定しているのが現状だろう。それはそれで良い。ただ、それをモデル化せずに、「アホみたいにデカいオプション」をディールして、その価格の根拠、IVはどう推定している?と聞かれて、えーーっとーー、HVいくつか見ながら「職人芸で」w なんて言って監査通ると思うか?

OTCでワイドめに気配出して、取られなかったから真の値はその間にあるだろう、というのがデリバティブで取られている手段だが、それは各トレーダーが月末に業者に保有していてかつOTCで全く気配のない全銘柄の気配を出すという苦労の下で実現したものであって、三田さんや俺の努力不足によって、彼らに発生してしまった「雑務」の一つであることを我々は反省しなければならない。月末の「祭」と呼ばれる売り買いの気配を出して、どこかの業者にバシッと約定されたりして、「何をアマイ気配出しているんだお前は!」と怒られるのは、その担当トレーダーであって我々ではない。しかし、その責任は我々にあることを認識しなければならない。

いくつかのHVなどを参照しながらIVを推定するモデルを作ることはできるだろう。だが、「機械学習かぶれ」の俺からすると「お洒落じゃない古典的なこじつけ数理モデル」に思えてならない。

原則は機械学習でも「古典的なこじつけモデル」と同じだが、どうするかというとまずIVが存在する銘柄のIVを可能な限り取り出し、それらに対して「古典的なこじつけモデル」によってどのように推定・回帰すれば良いかで決める。Supervised Learningを想定するならば、短期のHVと長期のHVを使って、IVの存在する銘柄のOTMの価格が極力説明できるような回帰ロジックを探し出すのである。Unsupervisedの方がより冗長で「お洒落な感じ」もするが、ブロックのプライシングのようにニュースや文字情報なども加えられる拡張性までは必要ないであろうから、IVの推定程度なら2つのHVとあともう一つくらいで悪くない推定モデルが作れるだろう。

いいかね? 俺は職人芸そのものを否定したり、マーケットにないIVの推定は機械で完璧にできる、と言っているわけではないのだぞ。暗算ではとても出来そうもないエキゾチックデリバティブのプライスを評価モデルが出す値を「信じる」という行為が問題なのだ。宗教じゃねーんだよ、信じるんじゃない、考えるんだ!

それから、俺も自分でウザイのはわかっているがこの「にわか機械学習病」に関しても一つ言及しておこう。俺がかつてツイッターで、

トレーダーならATMオプションの価格は大体σ√t/2πになることを経験的に知っている。私はそれをブラックショールズで示したののが以下だが、http://ichizoku.net/derivatives/20080425/1yatmvolatility3070/ … AIはBSを教えずともその経験、σとtとオプション価格を教えるだけで、同じものを導出できる。

とつぶやいている。このつぶやきを、いいねしたり、リツイートしたりしてくれた素人のフォロワー諸君には申し訳ないが、この私の発言は、「完全に機械学習の誤用である」。ここに書いてあるように「大体σ√t/2πになることを経験的に知っている。」ものをわざわざ新たに推定ロジックを作る意味はないんだ。明確ではない「職人芸」をキチンと対外的に説明できるようにモデル化すること、そして、その精度を上げることが機械学習を使う意味なのである。

俺のことを「にわか機械学習病」と思うだろうが、それでも書いているのは、こういう新しい要素をドンドン取り入れて「発展・変化」していかない限り、デリバティブのトレーディングは斜陽産業から脱出することはできないのだ。


三田氏を斬るシーズン3 4/9~職人芸の非論理性

P.73~74 そもそも、オプションマーケットが存在していれば、取引価格から逆算されたボラティリティ(インプライド・ボラティリティ)が参考になるから価格評価するのに、ヒストリカル・ボラティリティなど見なくともよい。これといった推定法が存在しない中で、推定をしていかなければならないデリバティブズトレーダーは、やはり職人なのだ。

デリバティブズ・ビジネスII 三田 哉 (著) – 2015/9/12

うむ、俺も自らをデリバティブ・デザイナーと言ったり、寿司職人みたいなもんだ、と言っていた。しかし、それは2015年までの話だ。今はもう考え方が違う。こういった推定法が存在しないのは事実だが、その中で、適当にプライシングして、それを「職人芸」と言ってしまった時点で、それは”思考停止の罪”だ。2015年までの私なら、こんな一文は全く気にせず、読み飛ばしていただろうが今は違う

少し話は長くなるが昔話を思い起こそう。私が入社1年目の最後、課長から「何か希望は?」と言われたので「やはりデリバティブを扱う仕事を…」と言ったら、課長が「では自己ポジションの管理システムの担当にしよう。しかし、あくまでも自己ポジションのシステムであり、デリバティブのシステムではないッ!」とくぎを刺された。しかし、いざ担当すると99%の仕事がデリバティブであった。というのは株の取引は自動的に約定が入力できるのだが、OTCデリバティブは業者間だろうが対顧客だろうが、1個1個の契約なので、それを入力するのが私の最初の仕事だった。それを1か月くらいやった後だろうか、課長から「株の引当金の計算やって。これ、超重要だからねっ!デリバティブよりも!」と言われた。私はヒラ中のヒラだったので、私ー上司(主任?)-課長ー部長というラインになるのだが、日本の会社はこのツリー構造というより網の目のようなネット構造なので、ヒラに課長や部長が直接的な指示を与える所があるのが面白いw

株の引当金の計算とは何のことかというと、1000円の株を50万株持っていたら、その価値は1000円×50万株で計算されると思うかもしれないが、その株の流動性次第では50万株も売ると株価が下がってしまう。そのマーケットインパクトを引当金として計上する株の評価モデルを作れ、ということなのだ。ただ、これは引当金計上の目的なのだが、同時に、ブロックトレードの際に、お客様にお支払いいただくスプレッドのモデル化でもある。ブロックトレードのプライシングを数理モデル化するということだ。もちろん、現株のトレーダーが私のモデルに従って取引していたわけではない。ただ、トレーダーのプライシングと引当金の差が、そのトレードの収益としてその日は計上されることにはなる。

何の話をしているのか、何がつながっているのか理解できたかね?

つまりブロックのプライシングなんてのは現株トレーダーの「職人芸」なわけだよ。だけど彼らは20年も前に、モデル化して、対外的に説明力のある「評価」をしたいと私のところに言ってきたわけだ。彼らは私のモデルに従ってプライシングしていたということを意味しない点をしつこくもう一度強調しておこう。一方のデリバティブは? インプライドが存在しない銘柄や行使価格の「評価上のインプライド・ボラティリティ」は、どう決めてる? 未だに「職人芸」だろ? 

ま、株のトレーダーの連中も、意識が高いというより、ポジションがでかすぎて、会社全体のPLにも影響あるので、そこに「職人芸」の要素が入ってしまうと上場会社として会計的に問題があるからという必然性はあったのは事実である。だが、それは鶏と卵だ。そういう努力をしてないから、デリバティブ部門は、そんな職人芸が許されるポジションしか持たせてもらえないんだ! 「MSCBの引受を株の部門に取られた!」と憤慨していたのは私だが、今なら「当然だ」と理解できるよ。


三田氏を斬るシーズン3 3/9~正規分布と対数正規分布

2-2 ボラティリティは何を選ぶべきか?

20年以上前のことだが、会社の研修で米国人講師が”ボラタリティ”と連呼していた。今思うにこの講師は、ド田舎の出身者だったのかもしれない。

デリバティブズ・ビジネスII 三田 哉 (著) – 2015/9/12

オージー?とか一瞬思ったけど、オージー訛りは、aを含めばエイとは読まずアと発音し、一番有名なのはtodayはトゥダーイと発音するのだが、Volatilityはiなのでその例に当てはまらない。ただ、私の友人でeightyをアイチと発音したオーストラリア人がいるので、もしかしたら可能性はある。いや、超勝手な推測で、その「米国人講師のボラタリティ」という発音を聞いてもいないのだが、間違いなくオージーと読むw

しかし10年以上海外住んでも一向に改善されない「スーパージャングリッシュ」のくせに、オージー訛りを笑うとはw

P.53 会議中に「正規分布という表現は誤りです。正しくは対数正規分布です。言い直してください」などと指摘すると本人は尊敬されると思って言っているのだろうが、逆に嫌われるものである。

確かに俺も、そこをあまり区別せずに使ってしまうこともあるが、例えば、金利とくに円物の金利デリバのトレーダーと話す時は、明確に使い分けている。彼が「どうせ1ドルの違いでしょ?大したことない」と発言した時は、「俺はお前と違って対数正規分布の人間だからなぁ」と返すわけだ。あるいは、

ブラックショールズは間違っている 
BLACK-SCHOLESは間違っている2 

という記事でも書いたことだが、よくいるブラックショールズを全然理解してないくせに「株価は正規分布してないし、BSはスキューを説明できない」とか俺の前でヌカしているヤツを見ると「まぁ、まず正規分布と対数正規の違いくらい理解してからモノを言えよ、なっ」とほぼ100%の確率で発言することになろう。

P.70 どの期間のサンプルデータからヒストリカル・ボラティリティを計算したのか、つまりサンプル期間はいつか、リターンデータは日次ベースなのか週次ベースなのか、といった点を明示しておかなければならない。

そうね、だけど幾何ブラウン運動においては、どんなに細かく切ろうが、その形は変わらない自己相似性を持っているのがランダムの特徴だ。もっとも株価は幾何ブラウン運動ではないから、こういう差も確実にあるんだがね。5分ボラティリティだって計算できるからねぇ。

何を唐突に非生産的な話をしているんだろう、

と思われてしまうかもしれないが、これは次から始まる「本格的な三田批判」の伏線に過ぎない。ただ三田さんを批判すればするほど、それは俺の身に120%で返ってくる反省の意味を込めて全力で批判しよう。


三田氏を斬るシーズン3 2/9~プレスリリースの奇怪な日本語

1-6 第三者評価機関の能力
P.43 新株予約権のプレスリリースにて 「割当先の権利行使については、モンテカルロシミュレーションによる算定の結果・・・」

デリバティブズ・ビジネスII 三田 哉 (著) – 2015/9/12

本文中のプレスリリースは、三田さんも意味不明・解読不可能と書いているプレスリリースなので、全文引用はしない。だが、もう少しまともな会社の新株予約権のプレスリリースにおいても、第三者割当の新株予約権の価格についての正当性を説明するために、新株予約権の価格は「モンテカルロシミュレーションによる算定」で、「安全利子率X%、株価変動率Y%の想定で・・・」、などという奇怪な言葉が並んでおり、しかも、どの会社も判を押したように同じ文言で書いている。

これもネタがかぶるんだが、俺流のツッコミは既に書いている。
広報担当者必見、ストックオプションのプレスリリースのひな形を見直すべき

ここでいきなりページが飛ぶが、

2-5 アメリカンオプションの計算
P.103 時点Pと満期までの間の時点Qの3回行使可能ならば、作るべき株価の経路は、

現時点~時点P、時点Pから時点Q、時点Qから満期 まで 10,000×10,000×10,000の株価を発生させることになり・・・

とあるのだが、俺も全く同じことをブログに書いているので (ご参考までにリンクを張ると・・・)

アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 1/5 ~ペイオフ・アプローチ手法・モデル
アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 2/5 ~TREEとモンテカルロの基本構造
アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 3/5 ~最適行使問題

アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 4/5 ~バミューダンのバリュエーション

n^2個の乱数と計算が必要とされるので、n=10,000で設定してしまうと、合計で100,000,000個の乱数の生成と計算をすることになる。

ぐわーーーっ。ホントに同じこと書いてるーwww

アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 5/5 ~TREEのGREEKS計算

自分でも同じことを言っておきながら、三田さんが書いた時だけ指摘するのも非常に心苦しい状況ではあるがあえて書こうw そういうクラシカルにまともにやればそうなるのだが、回帰とバックワード・モンテカルロで計算するようなソフトが、第三者評価機関=大手の弁護士事務所で、標準化されているらしい。有利発行の判断、三田さんがいう所の第三者評価機関は、大会社の新株予約権の発行の場合は、大手の弁護士事務所になるだろうが、彼らは法律の専門家であって、まともに最適行使問題を解ける弁護士は居ないことが想像に難くない。

新株予約権をモンテカルロで解くというのは金融業界では一般的ではないが、弁護士先生の間で愛用されている「ソフト」では、それが標準的であり、それを我々が指摘して改善させていないのが問題だ。日本市場を飛び交う大会社の「プレスリリース」は、実に恥ずかしい状態のまま放置されている。また強引にリスクフリーやボラティリティを奇怪な日本語に置き換えているのも、読んでいるだけで身体が痒くなる。

P.111 金商法第202条について

漢字が全体の7割を占めている。なんという文章だ。どうせならば”デリバティブ”の部分を”金融行性工具(中国ではこう書くらしい)”と書いて欲しい。

この原因は、デリバティブの日本語表記が、金融派生商品という完全なる誤訳だからだ。デリバティブの漢字表記はもちろんできるが、このあまりにも現実と異なる誤訳で定着してしまったため、「使いづらい」というのが現状であろう。やはり倉都康行さん風に「金融複製技術」と言えば、デリバティブ商品なら金融複製商品だし、デリバティブ取引なら金融複製取引と表現できる。

デリバティブズ・ビジネスII


三田氏を斬るシーズン3 1/9~現金決済と現物決済のエコノミーの差

俺もしつこいねー。三田さんが本を出版されるたびにいちいちブログに取り上げることにしている。約1年近くブログは停止しているのだが、三田本は読んだら書かずにはいられない、ある種の「中毒症状」が私にはあるので、しつこく書こう。三田さんと俺の両方を知っている人物にとっては、この「揚げ足とり」が笑いになるのだ。何度も書いているが、三田さんと俺は同じ職場にいたことは無いし、面識もないw 俺が一方的に愛を感じているだけだ。では、こんなところにして早速斬っていこう。

P.14 デリバティブズ取引の決済には、現物決済と差金決済の2種類がある。エコノミーで考えると両者に違いはない。

いや、エコノミーに違いはあるw これ、既に書いたような気がするのだが、過去記事を検索しても見つからなかったので、もう一度書こう。ここで書かれているような株の受け渡しか、現金決済かが問われる基本的なエクイティーデリバティブ、フォワードやオプション取引の株価に関して共通するイベントは3つで、それぞれ、

値決め日 時間 0 としよう。
(支払日) (τ)
満期日 t
受渡日 T

満期時点におけるいわゆるフォワード価格=S*exp{(r-d)t} という理論値は、全く間違っていないのだが、実際には満期日から何日か経った後で株あるいは現金が受け渡される=Settlement Delayが存在する。すなわち、T=tであれば、エコノミーは一緒なのだが、時間的な違いがある場合、そのエコノミーはどうなるだろうか。

S*exp{(r-d)t}=S(t)と書いてしまうが、
差金決済=Cash Settleの場合、受渡価格は、T-t期間中の金利分が加算され、S(t)*exp{r(T-t)}となる。
一方、現物決済=Physical Settleの場合、受渡価格はS(T)である。すなわちT-t期間中のキャリーコスト分だけわずかに異なる
上場モノあるいは円モノの場合、この期間が短い・金利が低いので問題はないが、国外発行体を使ったMTNなどの場合、T+3からさらに余裕をもってT+5以上にしたり、CB(転換社債=新株予約権付社債)などに至ってはさらに長い場合もあり得る。

本質ではないので()付きで記述しているが、現金の支払が発生する契約の場合は、支払日を起点としたT-τだとかT-t-τという時間軸で割り引くことになるだろう。

これ書いたよなー? なんで検索で出てこないんだろう。書かなかったかな~…。まぁいい。

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