アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 5/5 ~TreeのGreeks計算

Binomial TreeにおけるGreekの計算について
原則としてGreekは両側数値差分で計算するならば{f(X+Δ)-f(X-Δ)}/2Δ で計算するため、1Greekに付き2回のバックワード・インダクションをやらなければならない。よってプレミアム・バリューの計算に必要な時間をTcとすると一次微分Greekは2Tc必要で、仮に株価、ボラティリティ、金利、配当、時間の一次微分Greekを計算するとなると、11回のバックワードになるので、11Tc時間がかかる。
しかし、ちょっと工夫すると、デルタ=株価の一次微分、ガンマ=株価の二次微分、セータ=時間の一時微分まではBinomial Treeに内包される数値を使って計算できるため、一度のバックワード・インダクションで全てを求めることができる。
Binomialは、全てのグリッドポイントで、オプション価値を持っている。それをfで現わすなら下記のように表現できる。
Binomial-Start.png
f、fu、fd、fuu・・・と続く各グリッドポイントのオプション価値は一度のバックワード・インダクションで計算されているので、それを再利用する。
この世界ではあまりShare’s Delta=∂f/∂Sは使わないのだが、Share’s Deltaをデルタとするならばデルタは
t=1時点のオプション価値を利用し、(fu-fd)/(Ru-Rd)の数値差分で計算できる

ガンマについてはt=2時点の3個の株価を使えばよくて、
{(fuu-fud)/(Ru^2-Rud)-(fudーfdd)/(Rud-Rd^2)}/{(Ru^2-Rd^2)/2}
ここでは一度上がって、下がった株価をRudと表現し、初期株価×上昇率×下落率と一般的な表現をしているが、Volatility σの分布のためにはuの値は決まっておりu=exp(σ√t)、d=1/uとなる。ud=1なので、Rud=Rとなるから、
時間微分は(fud-f)/(t2-t0)で計算できる。
この計算方法の問題は何であろうか? ストックオプションや新株予約権は一般に数年1-5年のアメリカン・オプションであることが多い。もし仮に5年だとして、バックワード・インダクションのステップ数を250で均等分割すると1ステップあたりの時間は5年÷250なので、約一週間となる。
一般にこのようなファイナンスをする銘柄は、会社そのものが怪しげなので、Volalitityも30-45%を想定して良いだろう。つまり、1Day1σが2-3%動く。よって一週間なので、u-d=0.12程度になる。意味するところは上下各6%の両側数値差分で計算されたデルタであり、ガンマに至っては12%数値差分となってしまうのである。
微分の場合はΔ->0の極限値が定まることが要件なので、問題ないが、数値差分はΔ>0なので、{f(X+Δ)-f(X-Δ)}/2Δで得られる結果は、当然ながらΔの大きさによって結果が変わる具体的には依然に書いたが、それを是正するためには、細かく取ればよくて、Volatility30%の5年のオプションの時、5000ステップに均等分割すれば、ガンマの計算も1%数値差分となることが想像できよう。
5000ステップのBinomial Treeの計算の計算時間の主たる部分は、計算時間がかかるexpとifの判断の数を抜き出せば、
5000個の株価の計算(Binomial Treeは、uとpだけ計算すれば良いので、expの計算実は2回なのだが)
2+3+4+・・・+5000+5001=12,507,500回の最適行使判断(if文)
を計算することになり、ExcelのVBAくらいのスペックだと、耐えきれないくらいの時間がかかるとイメージしておけば良いだろう。これならばTreeの外から新しい株価を与えて250ステップのバックワード・インダクションを2回やったほうが計算コストが低いということになる。
Binomial-Tree-Start-d.png
これを解消するために均等分割を止めて、手前、つまり現在の近い所の分割を図中の赤い領域のように細かくすればこの問題は解消できる。緑の縦線が、このBinomialの中での時間最小単位にであるが、黒い領域のようにグリッドを(図中で言うと4倍くらいのグリッド幅)荒くすれば全体のグリッド数を変えずに精度を上げることができるのである。この手法は単にグリークを計算するためだけではなく、各パラメーターに期間構造を入れる時にも、使えることがお分かりいただけよう。幾何ブラウン運動想定でも、期間構造を入れることはできる。
しかし、ここまでこだわるのなら非幾何ブラウン運動への序章として、離散配当モデルを考慮に入れるべきであろう。幾何ブラウン運動のドリフト項μには金利・配当・貸株などが含まれるが、配当は配当落ちという非連続的な動きをするにもかかわらず、連続的な配当率で計算されている。特にアメリカンのコール・オプションは、配当と行使が密接な関係を持っているゆえに、配当落ち日に予想配当額、突然ガコッと下がるという動きを”幾何ブラウン運動”に加える程度の精度向上は、手間と労力の割にあっていると思われる。
この記事は蛇足だったかな? ここまで細かいことはわかっている人じゃないと読めないから、解説として無意味だったか…。
まぁ、金利・為替系のディーラーが当ブログを読んでくれているという話を聞いたばかりだったので、金利系諸君に無縁であろう離散配当という概念にまで展開させるために書いてみた少数人数向けのオタク記事ということで、大目に見てやってほしい。
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