ついでながらに、「にわか機械学習」病の俺の発言をさらに加えると、当時、ブロックのプライシングモデルは、市場データ、つまり、今日の株価や出来高なども考慮するので、参照データは動的ではあったが、算出ロジックが固定的な数理モデルであった今ならまさに「機械学習」、日経新聞的に言えばAIの出番で、参照データ、トレーニングセットの数=ブロックのディールの実績数が増えれば増えるほど、少しずつ精度が増していく設計で作るだろう。固定的な数理モデルでは、過去の株価と出来高と、相関と・・・などを取ることが決まっていたのだが、今ならもっとダイナミックに参照データも拡張可能にし、例えば離散的な顧客属性、生保・信託・ヘッジファンド・銀行・事業会社・個人などの情報を加えても良いし、意味はないかもしれないがインプライドボラティリティの情報も食わせてみても良いかもしれない。いずれにしてもUnsupervisedな機械学習を取り入れて算出することになろう。

また職人芸のインプライドボラティリティの推定にに話を戻すと、機械学習などにこだわる以前の次元だ。そんなものは使わずとも、短期で計算したヒストリカル・ボラティリティと長期で計算したヒストリカル・ボラティリティの2つを使えば、IVの推定はかなり説明できる。完璧ではないが、この2つは大体のボラティリティの水準とVol of Vol、ボラティリティのボラティリティが「大体」分かるからである。先ほど三田さんが指摘しているように短期のHVとか長期のHVといういい加減な言い方ではHVは全く計算できないのだが、それでもその2つ、あるいはもう一個加えて3つくらいの期間のHVを見ながら、「職人芸」で推定しているのが現状だろう。それはそれで良い。ただ、それをモデル化せずに、「アホみたいにデカいオプション」をディールして、その価格の根拠、IVはどう推定している?と聞かれて、えーーっとーー、HVいくつか見ながら「職人芸で」w なんて言って監査通ると思うか?

OTCでワイドめに気配出して、取られなかったから真の値はその間にあるだろう、というのがデリバティブで取られている手段だが、それは各トレーダーが月末に業者に保有していてかつOTCで全く気配のない全銘柄の気配を出すという苦労の下で実現したものであって、三田さんや俺の努力不足によって、彼らに発生してしまった「雑務」の一つであることを我々は反省しなければならない。月末の「祭」と呼ばれる売り買いの気配を出して、どこかの業者にバシッと約定されたりして、「何をアマイ気配出しているんだお前は!」と怒られるのは、その担当トレーダーであって我々ではない。しかし、その責任は我々にあることを認識しなければならない。

いくつかのHVなどを参照しながらIVを推定するモデルを作ることはできるだろう。だが、「機械学習かぶれ」の俺からすると「お洒落じゃない古典的なこじつけ数理モデル」に思えてならない。

原則は機械学習でも「古典的なこじつけモデル」と同じだが、どうするかというとまずIVが存在する銘柄のIVを可能な限り取り出し、それらに対して「古典的なこじつけモデル」によってどのように推定・回帰すれば良いかで決める。Supervised Learningを想定するならば、短期のHVと長期のHVを使って、IVの存在する銘柄のOTMの価格が極力説明できるような回帰ロジックを探し出すのである。Unsupervisedの方がより冗長で「お洒落な感じ」もするが、ブロックのプライシングのようにニュースや文字情報なども加えられる拡張性までは必要ないであろうから、IVの推定程度なら2つのHVとあともう一つくらいで悪くない推定モデルが作れるだろう。

いいかね? 俺は職人芸そのものを否定したり、マーケットにないIVの推定は機械で完璧にできる、と言っているわけではないのだぞ。暗算ではとても出来そうもないエキゾチックデリバティブのプライスを評価モデルが出す値を「信じる」という行為が問題なのだ。宗教じゃねーんだよ、信じるんじゃない、考えるんだ!

それから、俺も自分でウザイのはわかっているがこの「にわか機械学習病」に関しても一つ言及しておこう。俺がかつてツイッターで、

トレーダーならATMオプションの価格は大体σ√t/2πになることを経験的に知っている。私はそれをブラックショールズで示したののが以下だが、http://ichizoku.net/derivatives/20080425/1yatmvolatility3070/ … AIはBSを教えずともその経験、σとtとオプション価格を教えるだけで、同じものを導出できる。

とつぶやいている。このつぶやきを、いいねしたり、リツイートしたりしてくれた素人のフォロワー諸君には申し訳ないが、この私の発言は、「完全に機械学習の誤用である」。ここに書いてあるように「大体σ√t/2πになることを経験的に知っている。」ものをわざわざ新たに推定ロジックを作る意味はないんだ。明確ではない「職人芸」をキチンと対外的に説明できるようにモデル化すること、そして、その精度を上げることが機械学習を使う意味なのである。

俺のことを「にわか機械学習病」と思うだろうが、それでも書いているのは、こういう新しい要素をドンドン取り入れて「発展・変化」していかない限り、デリバティブのトレーディングは斜陽産業から脱出することはできないのだ。