第4節 日本で流行するか、ライツイシュー
エクイティファイナンスの手法として、日本では公募増資が大半を占めており、第三者割当増資をたまに見かけるという感じです。その大半を占める公募増資に対して、既存株主の不満をよく耳にします。現実の世界で起きていることは、理論的背景はどうであれ、公募増資->株価下落、発行される新株の数が多いほど1株当たり利益の現象度合いが大きくなり、より株価も下落するのです。一方で、第三者割当増資でも同様に、足元でEPSの減少が起こるのですが、あまり株価下落が生じません。第三者割当増資だと、新旧株のアービトラージチャンスが無いから希薄化効果が潜在的に存在するものの、現出しにくい。新株を手に入れる新しい株主にとっては、どれだけ株価下落が生じたかはまったく関係ありません。むしろ、より下落したほど、安く買えるので嬉しいかもしれない。このように新規株主と既存株主との間で著しい不公平感が存在し、既存株主は無防備なのです。これが、不満のもとなのです。
不満を解消するライツイシュー
日本では公募増資が主流ですが、欧米では大規模増資の場合は、公募増資よりもライツイシューが選択されます。ライツイシューは、既存株主と新規株主の不公平感を減らすよう設計されており、その点では公募増資よりも優れていると考えられています。ライツイシューを一言で言うと、『既存株主の持ち分に応じて、新株予約権を株主全員に無償で割り当てる』ものです

さあ、俺はライツイシューを何と説明した??
2014.06.17 日本市場のライツイシューの歴史(2014年5月時点) 1/2 より
ライツイシューとは、増資に応じる権利の発行である。もう少し細かく表現すると、有償増資に応じる権利の無償発行である
うーん、俺の説明短くて良いと思うんだけど、三田さんがいま問題にしている、既存・新株主間の平等性を主軸に考えると、「株主全員に対する」という言葉が必要だね。

ライツイシューでコミットするということ
新株予約権が行使されないで残る理由としては、
②株価が権利行使価格を下回っているから
この場合は誰にとっても行使するインセンティブがありません。ここでコミットメント契約をした証券会社の出番です。未行使の新株予約権を発行企業が買い取り、コミットした証券会社に売却し、証券会社は買い取らされた新株予約権を契約どおり行使することになります。当然、市場で新株を売却できるのですが、行使価格いかになるのでその差額が損失と言うことになります。こんなコミットメント契約の対価として、証券会社はコミットメントフィーを受取るわけですが、これは果たしてつりあうでしょうか? まるで保険契約です。

いや、保険じゃないだろ。ヘッジできないアメリカンオプションだよw
nyokeikazoku-ep01-2955.jpg

果たしてライツイシューは日本で受け入れらるのか?
公募で証券会社が発行企業に一生懸命アピールしていた、投資家への販売力をアピールする必要はなくなります。コミットできるかどうかの度胸と体力の勝負になるでしょう。ということは、欧米の大手投資銀行(特に銀行系)が圧倒的に有利な勝負になります。国内での圧倒的販売力を売りにして公募案件を獲得してきた国内証券会社は、ライツイシューを推進する理由が無いでしょう。セールスたちにとっては貴重な収益源であった公募でも販売手数料が失われてしまうのです。という理由で、国内証券会社の営業部門は特に強硬に反対するでしょう。
野村総合研究所の『金融ITフォーカス』2010年3月号の記事大崎貞和「関心高まるライツ・イシュー」をここに紹介すると…
ライツ・イシューが、既存株主にとって、公募や第三者割当増資よりも絶対的に優れた増資の方法だというような理解は誤りである。
(ⅰ)ライツ・イシューでなく公募増資でも、既存株主は公募に応じるなり市場で買い増すなりして、持ち株比率の稀釈化を避けられる。
(ⅱ)ライツイシューは時価より低い価格で株式を取得できて有利だという誤解もあるが、時価を下回る新株発行は株価を下落させるので、既存株主が発行決議時点株価と発行価格の差額を享受するわけではない…(略
(ⅲ)増資を市場に交換してもらうための真の鍵は、増資の手法ではなく、資金調達を企業価値の向上に結びつけることだ。中長期的な成長戦略を株主に示せれば、公募でも第三者割当増資でも理解は得られるはずである。
ライツイシュー反対派の意見のようですが、ⅲに関してはおおむね私も同意見です。しかし(ⅰ)については持ち株比率の希釈化が不満の元では無いのです。(ⅱ)についてはライツイシューのメリットに触れていません。『時価と発行価格の差額を享受するわけではない』との指摘は間違いないのですが、『権利落ち後株価と発行価格の差額を享受するわけできる』については一言も触れていません。これがライツイシューのセールスポイントであったはずです。どうも公募を擁護するための説明のように思えます。証券会社の意向で書いているような意見のように思えるのは、私だけでしょうか?

僕がこれを読んで思うことは、少し違います。実はこのレポートはネット上にも公開されていて、
1ページ目を読む限り、大崎さんという方はライツイシューについてきちんと調べています。三田さんの抜粋はレポートの2ページ目で、確かに2ページ目は突っ込みどころが満載なのです。突っ込みどころの2ページ目だけを私も抜粋することになりますが、全体としてはちゃんとしたレポートになっていますので、公平性を期すために上記を御覧ください。
さて、ここからは三田さんではなく、私の見解ですが、まず、証券会社の意向どころか、議論・比較の対象の説明になっていません。公募、第三者割当増資、ライツの「増資の手法」としての比較のはずで、
ⅰ希薄化とⅲ成長戦略を株主に示す、は、どの場合でも起こるので比較する意味が無い。
公募は既存・新株主間の不平等問題
第三者割当は、割当価格の恣意性・不公平性問題
ライツは、その二つを解消した方法
という点から比較しないとイケないのw
ⅱに対する解釈は、三田さんと逆に、正しいことを言ってると思うんだけど、「で?」な内容ね。
ライツイシューやデリバティブに関する理解が無いとかそういう問題ではなく、議論・比較の仕方の基本がなって無いんだよ。
俺がこのレポートで一番の突っ込みどころを抜粋するならば、やはり2ページ目、

逆にライツ・イシューが悪用される懸念もある。予約権の行使には現金が必要であり、零細な個人株主の行使率がかなり低くなるだろう。それを見越して予約権に取得条項を付しておき、発行会社が取得した未行使の予約権を投資ファンドなどに一括売却すれば会社法の有利発行規制や東証の第三者割当増資規制を潜脱するような資金調達も可能になりかねない。

予約権の行使には現金が必要なのだけど、それに応じる金が無い、あるいは応じたくないと株主が思えば、予約権そのものをマーケットバリューで売ることができる。マーケットバリューという意味は、もし不当に安い価格で既存株主に損害を与えるほどに予約権が安いならば、逆に買える環境で形成された価格で売れるということです。金が無い人は予約権を売り、増資に応じたい人がその権利=予約権を買うことができる。だから実際に起きている現象はかなり行使率が高いでしょう?
「三田氏を斬る」がテーマなのに、その爆風食らわせっちゃって大崎さんごめんなさいね。三田さんと俺と二人でツメちゃうと、ちょっと気の毒になってしまいましたw 一応、公平を期すために、このブログの横に新株予約権というタグがあります。それをクリックすれば、ライツイシューだけではないのですが、私の新株予約権に対する見解がまとめて出てきますので、それを読みながら、私を斬って下さい。私が何者なのかも、業界人ならお友達に聞けば、わかるはずですよ。

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