金融機関のマーケット・トレーディング部門で働く諸君らにとって、私のオプションの取引手法は、想像に難くないつまらないものだと思うが、個人投資家としてオプション取引をしている友人の取引手法と比較すると、プロ・アマ両諸君らにとって、面白いのではないかと思い、書いてみることにする。
ちなみにアマである私の友人らの手法が劣っていて、プロの見方・やり方が優れているということではなく、単純に違うということを言っている。ただし、後半では、中途半端にプロの真似ごとをしているアマは、見直すべきところがありますよ、と書いている。
まず、見ているものがまったく違う。優先順に書くと、
彼ら オプション・プレミアム -> 証拠金 -> 損益曲線 -> SQ値(清算値)
俺 Greeks -> Implied Volatility -> 損益曲線 -> 証拠金
面白いでしょう? まずプレミアム見てるのよ? でも収益=売値-買値なわけだから、彼らは基本に忠実なのね。
「証拠金どのくらい?」とか聞かれて、「証拠金率とかあんまり意識して無いです」というプロ発言w
彼らはなぜGreeksやIVを見ないのか? それは取引対象が
彼ら オプション・プレミアムが株価の1%以下の1Week程度の非常に短いオプション
俺 オプション・プレミアムが株価の10%~20%の1~3yearの長いオプション
1Weekのオプションとかやる? 1週間の相場観とかある? 満期まで3日のオプションをどっかんどっかん売ったり買ったりしているのです。損をしても得をしても、とても収益の説明責任を果たせそうにありませんね。ただ、あくまで個人投資家ですから、説明責任は無いし、こんな短いオプションでGreekとかIVとか意味不明ですよね。彼等の主たる注目ポイントはオプションの最大の特性であるTime DecayとGammaのみをかなり高い資金効率と時間効率で実践する手法です。
取引の頻度と枚数は桁違いに彼らが高く、証券会社の太客です。一方、私はセルサイド出身らしい取引で、証券会社を儲けさせないゴミ客なわけです。明日満期の3円のオプション100枚買える? でも彼らからすると100枚とはいえ、所詮は30万円、1枚買うだけで20,000ドル以上のオプション買える? ええ、1枚売るだけで10,000ドル以上のオプションも同時に売りますけどねw
ちょっと面白いでしょ? 枚数だけなら彼らの方が、10~100倍大きいわけですが、私の方が実は金額が大きいんですw
もっと差があるのが、リスクで、彼らの場合、1日~1週間立てば、ポジションフラットに必ずなるわけですが、私は3年のオプションを取引してますから、1年経っても全部残っていて、リスクがドンドン積みあがっていくのです。そういう意味では少ない手数料と証拠金でかなり大きなリスク、同時に大きなリターンを狙えるので、私の取引手法はトレーディング性が少なく、かっこ悪い取引ですが、実は資金効率悪くないのです。
見ているもの、取引しているものは互いにまったく違うのだが、やっていることは全員で共通して、勝率の高い手法で安定的に小さく稼ぎ、勝率の低い手法でダブルアップ・トリプルアップ・爆発アップを狙う。
友人1の勝ちパターン 1~2Weekのコール・レシオで小さく稼いだ収益を、残り3Days未満の段階で単体Nakedを売買しながらダブルアップ・トリプルアップし、〆は買いで爆発待ち。
友人2の勝ちパターン 債券で上がった収益を、短期のオプションをストラングル売りでダブルアップを繰り返し、勝ちまくって証拠金を引き揚げる。
私の勝ちパターン Delta Long, Gamma Short, Vega Longを基軸に、数年に一度来る大暴落を待つw
※友人1、アマチュア時代に、そのやり方で確立した人なんだけど、実は彼は天才です。
私の友人たちは、Greeksを見ていないようなので、よく素人の日経オプ・トレ・ブログなるものにありがちなGreeksの見方と私の見方を比較していこう。素人ブログには、Delta、Gamma、Vega、ThetaとIVの推移などがよく書かれている。何度も同じことを書いているのだが、彼らが見ているDelta/Gammaは、正確に言うところのShare’s Delta、つまり、単に株価Sで偏微分したものと%Vegaと1Day Thetaを横に書いている。一方で私はShare’s Deltaの替わりに%Deltaと%Gammaを%Vegaの横に置いている。以前に、%Deltaは複数アンダーライングをまたいで足せる指標であることを示した。細かい計算手法などについては、下記を参照して欲しい。
初めてのオプション取引 2/2 ~天才が作るオプション・エクセル
一つのアンダーライングを見つめる場合であっても、Share’s Deltaと%Vegaを横に並べる意味が分からない。1%Deltaはその名の通り、1%上がったら、いくら動くの?という数値であり、株式インデックスが年率15%のボラティリティとすると1Day 1σが15%÷√250=約1%、言葉で言うと一日あたり株価というのは1%程度動くものだという想定の数値なのである。実際にはIVベースで25%あるのなら一日1.5%でも良いのではないか?と思うかもしれないが、1%を100倍すればDelta Amount、すなわち、どのくらいのエクイティエクスポージャーと等価なのか?という計算も簡単なのである。一方で直近限月のIVから計算されるIV÷√250で動的に1Day 1σ Deltaなどというものを定義してしまうとDelta Amountを暗算で計算するのは難しいでしょ?
%Deltaは1日で株価がだいたいこのくらい動くだろうという数値なので、1Day Thetaと見合う、%Deltaは言い換えれば、”1Day” Expected Deltaなわけで、1日当たり指標としてDeltaとThetaが比較可能、串刺し的に見ることができるでしょう? Share’sで計算してしまうと比較可能なのはDeltaとGammaだけであり、VegaやThetaとまったくリンクしない見方なのである。
例えば、%Deltaが20万円、%Gammaが-10万円、1Day Thetaが3万円とあらば、Gamma:Thetaの比率が3.3:1なわけで、株価がσ√tで拡散していくとするならば、10日、1%√10=3%、ガンマで30万円やられて、Thetaで3万円×10日で30万円儲かってオフセットするようなリスクなんだな、と横断的に見ることができる優れた指標なのである。
もう一つ素人が書いていることで疑問なのは、%VegaとIVを計算していることにある。日経オプションの場合、3ヶ月程度しか期間が無い中では、オプションの価格変動要因として、DeltaとGamma以外の要素はVegaしか無い。しかも期間が短ければ短いほど、IVはどう動くか分からない単なるオプション需給だけのことなのに%Vegaに一体何の意味があるのか? 短いオプションならDeltaとGammaに加えて、直接オプション・プレミアムを見るべきなのではないか?と思う。1年以上の長いオプションであれば、IVの動きは一日で0.1%程度で、1%動くことはほとんど無い、という予測可能な動きしかないので、%Vegaが意味がある。かつまた、長いオプションであれば、オプションの価格変動要因が、株価変動要因であるDeltaやGamma以外の要素は、Volatilityなのか、金利なのか、期待配当率なのか? と分解して考えることに意味があるのである。
素人諸君にお伺いしたいのは、Share’s Deltaと%Vegaとか1Day Thetaを同時に見る合理性を説明していただきたい。
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