1479年の12月も末ちかくなって、ロレンツォを乗せたガレー船はナポリに入港した。船を待ち構えていたのは、厳しい顔付の武装兵や役人の一団ではなかった。顔いっぱいに笑みをたたえたナポリ王フェランツォの次男フェデリーコだったのである。若年の王子はロレンツォとは旧知の中で、憧れに似た尊敬の念さえ抱いていた。学問や芸術に関心が深く、洗練された趣味の持ち主だった。ナポリ王フェランテは、この王子にナポリ滞在中のロレンツォの接待を命じたのである。だが、老獪なフェランテは簡単にはロレンツォに満足を与えなかった。ロレンツォも、ナポリ滞在の3ヶ月が過ぎようとする頃になると、人々の前では悠然と振舞っていても、1人になると沈んだ顔つきを隠せなかったようである。ロレンツォはもはや待ちきれないと公言して、ナポリ港を発つ。ロレンツォがリヴォオルノの港に下船した頃を見計らって彼に追いつき、ナポリ軍、対フィレンツェの戦線より離脱、という王の決心を伝える。フィレンツェの市民はロレンツォをまるで凱旋将軍のように迎えた。