「北京や上海は”建築の国際見本市”と呼ばれるほど奇抜な形の高層ビルが多い。これらは決裁権を持つ官僚や施主である経営者の多くが、デザイン重視で個性的なビルを建てたがる傾向を持っていたからだが、問題は『その後のメンテナンスをどうするのか』だった。デザイン性が高く形状が複雑なビルは清掃用ゴンドラも吊るせない構造の者が多いから、作業員の安全を守る正規の業者は敬遠するんだ。そうなればビル側は、危険を承知で仕事を請け負ってくれる闇の業者に仕事を依頼するしかない。闇のビル清掃業者とは、いま中国で”黒スパイダーマン”と呼ばれる人間達さ。いまでは作業中に落下して死亡する黒スパイダーマンが続出し、社会問題になっているよ」
問題発覚後、政府は違法な清掃業者の規制に乗り出したものの、黒スパイダーマンの数は逆に増える一方だった。記事によれば、スパイダーマンの日当はこの10年間で、30元から50元、80元、100元、120元、150元と上がり続け、今年09年はとうとう300元を超える者まで現れた。その裏で、北京市内の死亡事故だけでも07年が48件・死者49人。08年29件・死者31人であると報じている。つまり黒スパイダーマンは、北京のどこかのビルから10日に1人の割合で転落死しているのだ。


中産階級の実態
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広州市で私が会った中産階級の人々の事情に触れる前に少し断っておかなければならないのは、中国で中産階級といったときの定義が日本人の考える「小金持ち」や、開発独裁国で民主化を推進するための原動力となってきた、いわゆる西側社会の概念としての中産階級とは少し違っているということだ。海外の統計(世界銀行など)では、通常年収7500ドルから25000ドルの所得層を中産階級とすることが多く、これは中国の一人当たりGDPを考えれば一見妥当な数字のようにも思えるのだが、その数字はいま中国人観光客が秋葉原や銀座で見せる凄まじい購買力に照らせば、あまりに控えめな数字だ。事実、「中産階級とはどんな人たちなのか」と広東で質したときに帰ってくる答えは、日本人が普通にイメージする中産階級とは程遠い人々だった。では、どんな人々が中産階級なのか。
「少なくともこの広州では、資産(不動産を除く)が500万元(約6500万円)程度、高学歴で持ち家が条件」と言い切った。「その程度なら広州市(流動人口を除くを都市戸籍者)の30%弱くらいはいるんじゃないかなあ。ここは中国で一番の金持ちが多い土地なんだから」と笑顔で答えたのだった。「彼等の収入のことを聞きたいんだろうが、本当のことを答えてくれる者はいないだろうね。中国で成功したものは何より嫉妬と犯罪を恐れているから。少なめに言うのが習慣になっているから」と首をすくめた。
> これ、日本だと富裕層の定義だよねw 年収じゃなくて資産総額だし。
「今日集まった中で、最も安定した成功者が誰かわかったかい? あの中に経営者ではなくって、携帯電話会社の社員と名乗っていた女性がいただろう。実は彼女こそが本当の勝ち組なんだよ。いまの中国の強みは潤沢な国家財政だ。だから4兆元の景気刺激策が打てるんだ。そしてみながこれに群がっている。調子の良い企業はたいてい国や国有企業から仕事を請け負っているんだよ。孫請けにしろ、その下にせよ、この流れの中にあれば安泰なんだ。そして、この流れの最上流にいるのが彼女のいる国務院直属の企業。いわゆる”央企”というやつさ。彼女の勤めている中国移動通信は、その央企のなかでもトップクラスだからね」
実現しない「和諧社会」
中国で使われる「央企」とは、正確には中央直轄の国有企業を指し、その数は現在128社(2011年を目処に88社に統合することが予定されている)にのぼる。その重要印と言えば最も公務員近い民間人であり、経営トップが次のポストとして中央政府の役職に転ずることも珍しくない。本来、公務員に近い存在であれば収入が透明であるべきだが、二重三重のベールに包まれて、その実態は杳として知れない。現実には、灰色を含む多種多様な色の収入があると考えられ、その総額は破格だ。一体、彼等の収入はどれほどのレベルにあるだろうか。党中央機関紙で経済を担当する記者が、内部で使用される数字なのでオーソライズされたものではないが、とことわったうえで、こう語る。「央企のホワイトカラーの年収は最低でも150万元(約1950万円)ある。トップは6000万元(約7億8千万円)にも達するから平均しても500万元(約6500万円)弱と言われている。この下には央企よりワンランク落ちるものの”省級”と呼ばれる企業もある。これは地方政府の管理する企業が、ここも年収の平均は300万元(約3900万円)を超えると言うから異常という他ない」
こんな報酬額を並べて驚く中国人は少ないだろうが、社会主義の中国というイメージがいまだ強く残る日本人には違和感が拭えない。社長とはいえ、「国有」と冠のつく企業のトップの報酬が8億円近いと言われても、にわかには信じがたいはずだ。いまや「中国よりも社会主義的」とされる日本社会に暮らすものには、単純な疑問として「インセンティブに8億円も必要なのか」という疑問が浮かんでくるはずだ。日本は民主党政権になり、以前にも増して社会主義的色彩が濃くなったが、その中でも象徴的なのは上場企業の役員で1億円を越える報酬を得た人物の名前と金額を公開する制度だ。これは格差を容認しない日本社会の特徴を示すと同時に、1億円を越えるか否かが、日本の高額報酬の1つの基準になったことをも示している。つまり日本人の感覚では、「年収1億円」は、それだけ”特殊”な事態だということだ。日本と中国の感覚のギャップが如実に現れた現実だろう。リーマンショックの際、メディアが問題視した米国金融機関で働く者たちの高額報酬と同じような現象が、まさに中国でも起きている。とすればむしろ異質なのは日本側ということにもなるのではないか。
央企は通信やエネルギー、金融、さらには重厚長大産業まで、人々の普段の生活に不可欠ま業種の全てをカバーしています。こうした企業はそれぞれ政策的に守られていて市場を独占しています。その結果として、ガリバーとして暴利を貪り、その儲かった金を国家に還元するというシステムがそこに出来上がっているのです。彼らには、西側社会で言う民業圧迫などどく吹く風。競争がないから値段設定も自在です。規制に守られていない世界で、わずか1元のコストダウンをめぐって労働者と激しい衝突を繰り返している民間の経営者から見れば、まさに夢に世界でしょう」
08年春、中国で最も恥知らずな10社と題した告発文書がメディアに出回り話題を呼んだことがあった。文書はまず、何年も前から中国移動の独占が問題視され、業界再編が囁かれてきたにもかかわらず、一向にそれが進んでいない現状を批判した上で、こう続く。アメリカでは、ロサンゼルスから上海へ国際電話をかけても通話料金は1分間3セントでしかないが、中国では50キロも離れていない場所にかけても1分間9角(約12円)もする。またニュートークからロサンゼルスに電話をしても、ローミング料は0円なのに、中国では上海から30キロの昆山と話すのにも1分間にも1.3元(約17円)も取られるのだ。これを国有企業による壟断の弊害といわずして何というのだろうか。
> 日本の携帯って6秒10円くらい?
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