はじめにお断りしておくと、彼は非常に謙虚で真面目な人間であり、私をいじめたり嫌味を言ってきたりしたことは一度もない人格者である。わかりやすくするために、この彼を有栖川氏(仮名)と呼ぶことにしよう。有栖川氏は生まれながらにして、かつまた生まれた後の実績からも、非民化した特権階級であることを自己認識していない人間である。有栖川氏は謙虚すぎて、自分が恵まれた特権階級にいるということを気付いていないが、その純真無垢な謙虚さは時として、あるいは人によっては強烈な嫌味になることがありうる。私は友人として何度も忠告しているのだが、彼は理解できていないようだ。
Hanzawa-ep06-dogeza.jpg
有栖川氏の場合、自分の名を名乗った時、「有栖川と申します。」と言って、「あっ、もしかして有栖川家の御曹司でございますか?」と平伏した輩がいたことだろう。だが、そこの民に向かって言おう。そんな経験はないだろう? 私も平民の出ゆえ、自己紹介して平伏されたことは一度もない。だが有栖川氏は何度となくそういう経験をしているのだ。姓を名乗るだけで平伏する輩がいるというほどの”変わった姓”は、いわゆる非民化した特権階級の姓なのである。だが、有栖川氏にとっては自己紹介をすると”家族のことについて質問してくる民もいる”という程度の認識なのである。