2009-01-12 09:53:57 インフレ連動債が「ホット」、割安感で-PIMCOのグロス氏も推奨
【記者:Daniel Kruger】
1月12日(ブルームバーグ):世界の中央銀行が今、デフレを防止しようとしているにもかかわらず、
インフレ連動債が最も「ホット」な投資先となっている。
米国と日本のインフレ(物価)連動債の昨年11月以来の投資リターンは、価格上昇と金利再投資を
含めて5.77%に達した。これに対し、一般の国債の投資リターンは1.55%だ(メリルリンチの指数)。
米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)やバンガード・グループ、フィフス・サード・マネジメント
など合計運用資産1兆8000億ドル(約162兆2000億円)を持つ運用会社は世界各国の当局による
取り組みがインフレ再加速につながると予想している。現在の米インフレ連動債(TIPS)利回りは、向こう
10年間は物価が上昇しないことを織り込む水準となっている。
フィフス・サードの債券責任者、ミッチェル・ステープリー氏は「インフレ連動債は息をのむほど割安だ」として、
「投資の成果が出るまでに少し時間はかかるだろうが、あまりに割安なので辛抱強く待つつもりで買っている」
と話した。
昨年は世界同時不況と商品相場下落を背景に、11月までの時点のインフレ連動債リターンは、
マイナス5%となり、通常の国債を下回っていた。ただ、バンガードで運用に携わるケネス・ボルパート氏に
よれば、インフレ連動債の下げは借入金の返済を迫られたヘッジファンドの売りによるところが大きかった。
「ヘッジファンドのレバレッジ解消による売りがかさんだ結果、TIPSは信じられないほど割安になった」と
同氏は指摘した。
PIMCOの共同投資責任者ビル・グロス氏も先週、インフレ連動債の買いを推奨した。同氏は8日付の
リポートで、米政府のリフレ政策が奏功し始めればTIPSに追い風となると指摘。債券の償還までの期間に
ついてのインフレ予想を示すブレークイーブン・レート(TIPSと米国債の利回り格差)は現在、向こう10年の
消費者物価が平均で年1%下落するとの予想を示唆しているが、グロス氏は「可能性はあるが、そうはな
らないだろう」と述べている。
原題:TIPS Irresistible to Gross as Protection Is `Cheap’ (Update1)(抜粋)
グロス君の言うインフレシナリオには私も賛成です。
最初に断っておきますが、私の専門はあくまでエクイティ・デリバティブなので、インフレ連動債についてのこの記事の
内容は間違っている可能性がかなり高いことを踏まえた上で読んでください。
記事上で言及のあるインフレ連動債、各国異なるルールでインフレ連動債があると思いますが今回はUS
Treasury Inflation-Protected Securities (TIPS)について掘り下げてみましょう。
CPIにリンクというのは知っていますが、どのようにリンクしているのか下記のWebより追ってみました。
http://www.treasurydirect.gov/instit/annceresult/press/press.htm
TIPSの基本特性
想定元本に対するFixed Couponが支払われます。
ただし、想定元本は、発行当初とのCPI増減に応じて変化するので、期中支払われるCouponは、増減します。
満期は、Max(100,CPI(T)/CPI(0))となり元本保証です。
過去のCPIのChartです。
TIPS個別銘柄
ここで、具体的な個別銘柄を見てみましょう。
2002年1月に発行で、2012年に満期、3.375%のTIPS。
この債券の現在の想定元本=現時点のIndex Ratioは1.22。
CPI(T) 現在のCPI ÷ CPI(0) 発行当初CPI で定義され、月に一度のCPI Indexの発表とともに、
DailyのInterpolationで、毎日仮想Index Ratioが計算されるようです。
http://www.treasurydirect.gov/instit/annceresult/tipscpi/2009/tipscpi_9128277j5_012009.htm
値段を見ると、TII3.375 01/15/12 100-30/101-00 (3.05/02) とあります。
値段がなんかおかしくないですか? 発行当初から1.22倍になっている債券が100って、めちゃめちゃ安いよー、これ。
期待Inflation率-7%くらいありそうなんだけど、Newsは-1%と言ってるのでエライ違います。
6年も前に発行されたTIPS(=Index Ratio 1.22)が何故、100近辺なのでしょう?
TIPSのPriceとChart
株感覚の私には極めてわかりにくいPrice表示でして、このPriceで書かれるChartはTIPSのトータルリターンと著しく異なります。
おそらく、実際の取引価格は、この100.19にIndex Ratio1.22をかけることで求まります。
発行当初100ドルで買ったTIPSは、現在は122ドル近くで売れるということになります。
とすると、このPrice Chartは、株的観点投資家にはほとんど意味が無く、Index Ratioをかけて、
TOTAL Return Chartを自分で作るしかありません。
Implied Inflation Rateの計算
また新規の投資家のためにも、このPrice Chartは大した意味を持たず、せめてYield Baseにすべきで、Newsのような
観点からImplied Inflationに投資したいのであれば、合理的なInflation Rateの定義は
Yield Spread = US Treasury Yield - TIPS Yield
となると思います。ところが、BenchmarkのTreasuryはどのように選ぶのでしょうか?
Corporate Bondであれば、同一Durationという明確な基準があります。
BBGでは、TIPSのDurationは主観的に定義できて、
TIPS YTM:=TIPSを想定元本の変動を無視して通常固定利付債と見なした場合のYield
TIPS YTMに対する感応度=金利×βというような感じで、金利β(BBG初期値=0.5)なるものを設定し定義することが可能です。
ではどのようにβを定めたいでしょうか?
TIPSの専門家がどうやっているのかは存じ上げませんが、私が納得いくβの定義は・・・
Inflation Indexなのだから金利感応度なんか無いのですが、USのインフレ連動債の元本保証部分に注目します。
Index Ratioが1未満の場合、政府が100を保障する、すなわち満期受取がCPIリンクから割引債への転換になり、
金利リスクが存在します。
TIPSの金利リスク=残存年数×Index Ratioが1未満の確率
CPI Indexそのものを幾何ブラウンとして、Volatilityを計算すると・・・、おゅ、1.5%程度です。
Chartの単調性から推して知るべしですが、1.22のIndex Ratioが後3年で1を下回る確率は、・・・0ですな。
CPI ATM Option付政府保証債とみなすCB的なDurationの定義は、著しくマーケット標準とは異なる想定の
ようなので終了。
ならばCPIと金利のβは1で良いと思うのですが、Index RatioはPriceの横に表示して欲しいな。
OTM(Index Ratio1以下)はCPIのChartの推移から無いと思いますが、Index Ratio1.2と1.001だったら、
満期が一緒でも価値は違うと思うのですよ。
実際、CPI Parityに近い今年発行のTIPSは、CPI OptionとみればATMで、CPIのDownsideは無いわけだから
やはりYield的にも低く、買われており、CPIのOptionalityは意識されていると思うわけです。
CPIのVolatilityから、パーセンテージオーダーの期待収益の追求になりそう。
投資判断の基準であるImplied Inflation Rateの定義が、主観的に決まり、このYield Steepな環境では
期待収益以上の差になりそう。
久々の超大作のわりに「やっぱ、眠いわ、これ」って結論ですがね。