読者さんよりコメントいただいたので、説明いたします。貴重なご質問ありがとうございました。
長期のVolatilityのトレーダブルな指数があると特にエキゾチックのヘッジや商品化に活用できる可能性もあるのかなと思うのですが、日本ではlistedの流動性がほとんどないので難しそうですよね。欧米などは長期のlistedでも流動性ありそうですが、VIXなども短期で長期が話題になることはあまりないように感じます。そもそも長期のVolatilityを知る、トレードするというニーズ自体があまりないものなのでしょうか。
> 長期のVolatilityを知る、トレードするというニーズ自体があまりない
そんなことはありません、ニーズはあります。エキゾチックのヘッジなどでw
当然ですが、個人投資家あるいはプロ(機関投資家)であってもインターバンク市場にアクセスしない投資家は、エキゾチックを組成しません。エキゾチックのヘッジのニーズがあるような市場参加者は主としてインターバンクになるはずで、OTCのBroker’s Broker(業者間市場)で取引しています。
OTC(場外)取引のメリットは、満期・行使価格を当事者同士で好きに設定できます。例えば月末満期でも良いし、14450円ストライクでもOKです。一方デメリットは、リーマンショック以降に顕著に意識されていることですが、カウンターパーティーリスク、契約相手の倒産するリスクです。OTC契約の場合は、取引所が介在しないので、あくまで銀行間(金融機関同士)のデリバティブ契約です。相手が倒産した場合は、とりっぱぐれる可能性があります。
立会外取引は、取引所を通じて行うクロス取引(売買同時)です。先ほどのOTCとは異なり、取引所が介在しているのでカウンターパーティーリスクがありません。その分、取引するのは上場モノなので、満期や行使価格は決まったものになります。
通常のListed(立会取引)を使わずに、陰でコソコソ取引する理由、つまりメリットですが、それを説明するためには、Listed OptionのMarket Makerの気持ちになって説明するのが一番分かりやすいと思います。株やCDSのような一次産品、複製性がない商品のMMは、発生したポジションは反対売買で消す以外に方法はありません。オプションの場合は、反対売買以外に、アンダーライングを売買しながら複製をすることができます。ただし、複製というのは、ボラティリティ(正確にはガンマ)のリスクを取っていますから、反対売買のように完全にリスクを消すことはできません。
MMは常時Ask/Bidを出し、それが取られたら即座に先物でヘッジ(複製)すると仮定しましょう。先物のSpreadは10円とし(Miniを使えば5円だろとかいうのは面倒なのでMiniはちょっとここでは無視です)、Delta Oneの超ドインマネのオプションと、Delta 0.1のアウトなオプションがあるとしたら、どうでしょうか? ドインマネに関してはDelta Oneつまり先物と等価なわけですから、Spreadを最低でも10円開けないと赤字になります。 一方でアウトなオプションは10枚取引したら、1枚出せば良いので、ヘッジに必要なSpread(コスト)は1円で済むことになります。MMにとって、最も大きいリスクはデルタで、それが”嫌われている”というのがお分かりいただけたでしょうか?
日本の上場オプションはすべて、単体でオプションを取引するアウトライト取引です。(米国などではコンビネーション取引が上場されていたりします) 長期のボラティリティを取引する参加者(以降ヘッジャーと呼びます)にとって、取引したいのはボラティリティであってデルタではありません。なのでMMだけでなく、ヘッジャーにもデルタ=アウトライトは”嫌われています”。10円動くたびに、瞬間で値段が動くアウトライト取引は、忙しないからです。ATMの場合、ざっくり10円動くたびに5円変動してしまいます。ところがATMのコンビネーション、ストラドルの場合はどうでしょうか? スポットの多少の変動は影響しないので、ボラティリティの需給だけで値段を考えることができます。アウトライトが前提である上場取引は、ATMでもCall、PutのそれぞれにSpreadが存在しますが、ストラドル取引として業者間でネゴをすればデルタはほとんどないので、よりタイトなSpreadで取引できます。コンビネーションでない場合、例えばコールを200枚買いたい場合でも、コールのデルタが0.34だとしたら、コール買って、プレミアム払って、先物68枚(200×0.34)を相手に売ります。これはオプションは単体ですが、先物とセットなのでアウトライトとは呼ばず、デルタもニュートラルです。
長期のボラティリティは、Listedだけでなく、OTCや立会外の選択肢があるプレイヤーによって取引されているのが、長期のListedに流動性がない原因です。逆に言えば、Listedしか選択肢がない投資家(個人だけでなく機関投資家も込みで!)が、長期のボラティリティに興味がないのです。
> VIXなども短期で長期が話題になることはあまりない
なぜかと言えば、短期がドラスティックに動くからで、傍観者的にボラが上がった下がった言うに適しているからです。過去に書いたことですが、上場オプションのみの市場参加者でVegaとGammaの区別がついている参加者がどのくらいいるのでしょうか?
2010.07.23 数学を使わないオプション解説 GammaとVegaは何が違うの?
> オプション単体で見ていて、Gamma Long = Vega Longであるかのような感覚
に思えてなりません。なのでGamma ShortでVega Longというポジションであるカレンダーを次に紹介したのです。
2012.05.10 Calender Spreadのススメ
2012.05.15 Calender Spreadのススメ2 ~株価と時間軸上の損益曲面
2012.05.21 Calender Spreadのススメ3 ~期待通りの期待値曲面
ただ、カレンダーを紹介したのは、個人投資家のレベルが低い! GammaとVegaの区別もついてないのか? こういう取引をしろ!と怒っているわけではありません。以下、これも過去に述べていることなのですが、
2011.12.09 個人投資家オプションマニアの会
資金量が小さいならデルタのリスクが一番”資金効率”が高い、というのが否めません。GammaやVegaのリスクで同一の”収益金額”を目指すと、必要資金量が10倍以上になるからです。なので小額の個人投資家にとってはご縁のない世界です。長期のボラがListedで観測できないのは、小額・個人投資家のレベルが低いからではなく、資金量が大きい非インターバンク・プレイヤー(HNWなら個人も含む)が、日本のオプション市場では存在感がないことに起因します。
【エクデリ・デスク、現場の光景】
2013.03.07 女帝 ドキュメンテーションのプロ
2012.08.02 ファンド運営 どんなお仕事?
2012.06.14|Facebookのアカウントを定量的に分析しよう
2011.11.09| 独身女性1人に対して40歳代の独身男性が23人の割合
2011.08.30: マハティール アジアの世紀を作る男3/4 ~自国民批判
2010.11.30: シブすぎデリバに男泣き ~女っ気もなく派手でもなく
2010.10.18: 三田氏を斬る ~今回は同意、でも笑える
2009.10.06: Black-Scholesは間違っている2
2009.09.29: Black-Scholesは間違っている
2010.08.05: 証券検査官Ⅱ インサイダー
2010.05.06: とても難しいImplied Volatilityの計算
2009.04.23: ウキウキする新人
2008.06.13: 腐れ社員の功罪
2008.05.28: 腐れ社員の告白
OTCでカウンターパーティーリスクが大きい場合、Mark to Marketの際にOTCの約定値を使うとVolに大きな影響を及ぼすように思えるのですが、エキゾさんはどのようにお考えでしょうか?
例えばA社とB社がX円で約定した場合、このX円にはA社とB社のお互いのカウンターパーティーリスク(自分自身の倒産確率込みの場合も含む)が折り合ってついた値であって、C社が自社モデルを使ってX円からVolを作った場合、3社3様のVolが導かれる場合です。
>このX円にはA社とB社のお互いのカウンターパーティーリスク(自分自身の倒産確率込みの場合も含む)が折り合ってついた値
一般的には価格ではなくて、担保やラインで調整します。
エクイティのオプションでカウンターパーティーによって価格が変わるのは一般的ではありません。
クロス・カレンシー・スワップなどは、どの通貨で担保を差し入れるのかが、カウンターパーティーによって違う場合は価格に反映されます。
バックオフィスの人にお話を聞けば、私よりも詳しく正確に教えてくれるでしょう。
一方で、エクイティ・デリバティブでも、カウンターパーティーリスクではなく、クレジット・リスク、資金調達コストがデリバティブの価格に影響を与えることは、よくあることです。
http://www.ichizoku.net/2008/09/cdscorrelationderivatives.html
http://www.104ka.com/2008/09/otc-derivatives-correlation-de.html