ザッカーバーグの長期的枠組みと確実に議論の余地なく一致するビジネス戦略をまとめるために、サンドバーグ会議の参加者たちは、ただ広告が重要だという議論にとどまらなかった。彼らは、フェイスブックの持つ機会を明確化し、差別化するための重要な特質にたどり着いた。グーグル-サンドバーグの古巣であり、紛れもなくインターネット広告の王者-は、ユーザーが欲しいかを決めているものを探す手助けをする。これに対してフェイスブックはユーザーが何が欲しいかを決める手助けをする。グーグルで何かを探すと、検索ボックスに打ち込んだ単語に応じた広告が表示される。その広告がユーザーにとって的を得ていることが非常に多いため、このプロセスはグーグルに何十億ドルという金をもたらす。しかし、ふつうユーザーがそこでクリックするのは、自分が探しているとわかっているものに応じた広告だ。広告用語で言えば、グーグルのアドワーズ検索広告は「要求を満たす」。対照的に、フェイスブックは要求を生み出す。グループはそう結論を出した。それが長年テレビを支配してきたブランド広告のしていることであり、広告宣伝費の大半が費やされている場面でもある。ブランド広告は人の脳に新しいアイデアを注入する-ほら、あなたはこれにお金を使いたいはずですよ。しかし、その種の広告がグーグルで上手く働いたためしはない。ユーザーが検索フィールドに「デジタルカメラ」というキーワードを打ち込めば、グーグルの検索を通じてキャノンのカメラが見つかるかもしれない。しかし、ユーザーにデジタルカメラが欲しくなるよう説得する上手い方法をグーグルを見つけたことがない。そのような方法を探究するグーグルの取り組みの結果、同社はソフトウェアがメール中の単語を監視して、ユーザーが反応すると思われる広告を表示するというGメールサービスに力を入れている。グーグルがあれだけ成功していても、その事業のほぼすべてが、広告業界全体から見て比較的小さな領域内で展開されている。全世界で年間6000億ドル使われる広告宣伝費のうち、わずか20%がすでに何が欲しいかわかっている人たちに向けた広告に費やされていることを、サンドバーグの調査員たちは発見した。残りの80%、すなわち年間4800億ドルは、今後の広告出費が次々とインターネットにシフトするにつれ、容易にフェイスブックの手の届くところに来る。インターネットは、テレビ、新聞、さらには雑誌からも消費者をもぎ取っていく。そして、そのインターネットの利用時間のうち、不釣合いな量をフェイスブックが取っている。いまやフェイスブックは、米国内およびほとんどの国で、ネットユーザーの費やす時間が圧倒的に多い場所である。


サンドバーグたちとザッカーバーグとのこうした議論の中から、フェイスブックが「エンゲージメント広告」と呼ぶものが生まれた。それは、ユーザーのホームページに現れる、広告主から送られてきた比較的地味なメッセージで、ユーザーにページ内で何らかの行動を起こすように促す。友達との会話のきっかけになることを期待して、ビデオにコメントするよう求めることもある。商品の無料配布という場合もある。スターバックスは、コーヒーが一杯無料になるクーポンを提供した。広告そのものの上で、友人たちとの会話に参加できるようにするものもある。あるいは広告をクリックしてその場で商品のフェイスブックページのファンになれることもある。まもなくエンゲージメント広告は、フェイスブックの広告営業部員たちが販売する主力製品としてスポンサー付き記事に取って代わった。
フェイスブックではユーザーがあらかじめ自分についての正確なデータを持ってやってくる。それを見るのは自分が友達として承認した人たちだけだという安心感があるからだ。
「フェイスブックのデータセットの中身の濃さは他を大きく引き離している。これは消費者が『ここに私の個人情報があります、どうぞ使ってください』と言った初めての場所だ」
サンドバーグが言う「我々はどこよりも質の高い情報を持っている。性別も年齢も場所も知っている。しかもこれは本物のデータであって、誰かが推論したものではない」他のウェブ広告業者が使っている推論ターゲッティングには誤りが多い、と彼女が言う。フェイスブックのユーザーは、自分たちに関する膨大な量のデータを自発的に提供した上、グループやファンページで他のユーザーと交流するなど、サイト上での行動を通じてさらにデータを生み出す。フェイスブックは、データベースの中でこのすべてを追跡し、広告の配信に使う。フェイスブックのポリシーでは、サービス規則に違反しないことを確認する場合を除き、一切の個人情報を見ない。そこにはデータそのものを広告主と共有することはないと書かれている。
Mark-Zuckerberg.jpg
ザッカーバーグのフェイスブックは断固としてアメリカ的価値を体現している。たとえ海外のユーザーにはそう見えなかったとしても。ザッカーバーグの価値観はアメリカ的言論の自由を反映している。フェイスブックはそうした価値を世界中に持ち込み、その結果プラスとマイナス両方の効果が現れている。米国では言論に一定の透明性と自由があることを人々が当然のこととしているが、これが他の一部の文化にとっては大きな抵抗を呼び起こすこともある。サウジアラビアではフェイスブックで複数の男と友達になっていることを発見した父親が娘を殺した。アラブ首長国連邦のユーザーたちが「ガルフ・エアはクソだ」「ドバイのイルカ水族館をボイコットせよ」などという抗議グループを作った。ここまでは許される範囲内のようだったが、グループの数が増え138人のメンバーからなる「ドバイのレズビアンたち」ができると政府はフェイスブックを全面的に禁止しようとした。ユーザーがフェイスブックの自由を濫用した時にどう扱うべきか、世界中の政府が苦闘している。
イタリアに服役中のマフィアのボスを賛美するフェイスブック・グループが出現すると当地のある上院議員は犯罪行為を「扇動ないしは正当化」するコンテンツの削除をウェブサイトに強制する法案を提出した。法案は通らなかった。ヨルダン川西岸では抗議団体がその怒りをフェイスブックに向け、微妙な国際政治問題を招いた。ヨルダン川西岸の占領地域のユダヤ人入植者たちは、フェイスブックが彼らに対してパレスチナに住んでいると名乗るよう要求をしたことに激怒した。「ここはパレスチナではない、イスラエルだ」と名乗るグループが2008年3月に13,800人のメンバーを集めた。数日後フェイスブックは一定規模の入植地の住民がイスラエルに住んでいると宣言することに同意した。一方では「フェイスブックの全パレスチナ人」という名前のグループが8800人へと増大し、その不満は何よりも、東エルサレムに住むパレスチナ人たちが、イスラエルによる東エルサレム併合が国際的に認められていないにもかかわらず、イスラエルに住んでいると登録するようフェイスブックから強要されていることに対してだった。現在ヨルダン川西岸のフェイスブックユーザーは、イスラエルあるいはパレスチナのどちらに住んでいると名乗るか選択することができる。
フェイスブックはスペインではそっくりライバルの「トゥエンティ」(Tuenti)を抜いたが、中国、ドイツ、ロシアの国内類似サービス勢はいまだに圧倒的多数のユーザーをほしいままにしている。不運なフレンドスターはアメリカではほとんど無視されているが、最近東南アジアでフェイスブック最大の障壁となり、2009年中頃の時点でフレンドスターのユーザー1億5000万人のうち90%が当地に在住していた。2009年末にフェイスブックは、インドネシア、マレーシアおよびフィリピンというフレンドスター3大国で彼らを打ち負かし、これらの国のあらゆる種類のサイトを通じてナンバーワンになった。中国の最大の国内フェイスブッククローン「シャオネイ」(校内網)は2008年に大躍進を果たし、日本のソフトバンクが親会社に4億3000万円を出資した。後に名称を「誰でもみんな」を意味する「レンレン」へ変え、広くアピールしている。一方、天安門大虐殺20周年の2009年6月4日以来、中国ではフェイスブックが政府によって完全に遮断されている
フェイスブックはレンレンおよびフレンドスターに対する武器の一つが、香港の億万長者李嘉誠との緊密な関係だ。この大物が支配する数ある会社の一つに、南アジア全域にわたる大手携帯電話サービス会社、ハチソン・ワンポアがある。ハチソンはすでに現地向けに専用「フェイスブック電話帳」を販売している。ソーシャルネットワークはインド、インドネシアなどの国々で携帯電話で使われていることが最も多いため、フェイスブックは現地携帯電話会社との提携関係を結ぼうとしている。さらにフェイスブックは、基本機能(ビデオ、チャットなどの機能を除く)のみを提供して必要なパケット量を減らした、いわゆるライトバージョンも公開した。フェイスブックはこの1年ほどの間にアジア全域で急成長した-ただし理由は国ごとに異なっている。インドネシアではフレンドスターが現地ソーシャルネットワークの中心だったが、インターネット利用が携帯電話へと移ったとき、フレンドスターには良いモバイルアプリがなかった。フェイスブックにはそれがあり、そして躍進した。台湾ではフェイスブック利用-主としてパソコン-2009年に急増した理由があった。ジンガの「ファームビル」だ。このゲームをプレイすることがほとんど強迫観念となりつつあり、多くの人たちがそのためだけにフェイスブックに入会した。ゲームは2010年の2月までの1年間で、ほぼ何もないところから560万人へと拡大した。これは人口の26%に相当する。
ザッカーバーグはポトラッチの話をした。ポトラッチとは北アメリカ北西海岸先住民族伝統の儀式と祝宴である。祝賀者たちはそれぞれ持てる食料と物品を持ち寄り、誰でも好きなものを取ってよい。最高の地位は最も多くの物を手放した者に与えられる。「贈与経済という概念を知っていますか」とザッカーバーグが聞く。「これは多くの発展途上国における市場経済に変わる興味深い選択肢です。僕が何かを供出して誰かにあげると、義務感からか寛容さからか、その人はお返し何かを僕にくれる。文化全体がこの相互贈与の枠組みの上で成り立っている。こうしたコミュニティーを束縛しポトラッチを有効にしているのは、コミュニティーが小さくお互いの貢献が目に見えるという事実だ。ただし、これらの社会がひとたび一定の規模を超えると、システムは破綻する。人々は起きていること全部を見ることができなくなり、ただのりが始まる。」ザッカーバーグはいまやフェイスブックやインターネット上のほかの勢力は、贈与経済が大規模で機能していくのに十分な透明性を生み出しているという。「もっとオープンになって誰もがすぐに自分の意見を言えるようになれば、経済はもっと贈与経済のように機能し始めるだろう。贈与経済は企業や団体に対してもっと善良にもっと信頼されるようになれ、という責任を押し付ける。本当に政府の仕組みが変わっていく。より透明な世界は、よりよく統治された世界やより公正な世界を作る。」
> すごいっすねぇ。ネットでガキだましてカネ取ろうという発想じゃ、世界に打って出れんわ。
2008年の終わりに、フェイスブックはまたも巨大な変遷を遂げた。ザッカーバーグの狙いは、フェイスブックをインターネットの根本構造に組み込もうというものだった。プラットフォームへの基本的変更の一つとして、「フェイスブック・コネクト」を公開した。この発表は、デベロッパーに対してフェイスブック上で新しい開発をしてもらうためのアピールだった。フェイスブック・コネクトを使えば、ウェブ上のどのサイトにも、フェイスブックアカウントを使ってログインできるようになる。これで実現することがいくつかある。ユーザーはネット上どこへでも個人認証情報を持っていけるようになる。コネクトを使えば情報をフェイスブックのフィードに送り込める。つまりコネクトに加入しているサイトでフェイスブックユーザーが起こした行動に関する情報をあたかもフェイスブック内部で行われたかのように、そのユーザーの「友だち」に伝えられるわけだ。さらにはフェイスブックがそのバイラル性-一人のユーザーから多くの友だちに効率よく情報を伝達する方法-をウェブサイトに貸し出せるようになる。
> google IDやマイクロソフトIDと同じようなものという解釈で正しいですかね?
【胴元・市場創生者】
2015.06.10 エンロン内部告発者 5/6~電力自由化の下の悪意ある供給者《超重要、読め》
2015.02.10 仮想通貨革命 ビットコインは始まりにすぎない 2/7~通貨の信認
2014.08.18 グーグル秘録 完全なる破壊 1/7~君達は魔法をぶち壊しているんだ
2013.08.08 ジャカルタ・リラクゼーション・アワー 6/16 ~優秀な日本政府、真・国家予算の無駄遣い
2012.10.12 知られざる通信戦争の真実 NTT、ソフトバンクの暗闘
2012.06.18|ウォールストリートの歴史 1/8 ~独立戦争直後
2011.12.19: 日本取引所の独占者利益はあるか?
2011.12.06: 東証と大証が経営統合 大証は48万円でTOB
2011.08.12: 8/11 かば子決定 天才がデザインしたかば子
2011.08.02: プロ向け市場「TOKYO AIM」一号案件 上場後値段つかず
2011.05.06: 先物・オプションのブローカレッジリスクはトレーダブル
2010.05.12: 中国株先物が取引が開始
2010.05.07: 二代目、カジノに新風狙う マカオ ローレンス・ホー
2010.04.22: 東証アローヘッド導入のインパクト
2009.09.01: バイナリーオプションの性質から読む市場拡張性
2009.07.14: Globalizationの悪
2008.12.15: 年末ジャンボ ~富くじにおける分散の値段
2008.08.01: Gambler心得
2008.03.14: 上海旅行 最終日 ~株式投資の原点 地場証券にて