クオリカプスのどこに企業価値を上げる余地があったのか。旧株主の塩野義は日本企業の目線でクオリカプスをとらえていた。日本の製薬市場ではカプセルは脇役である。日本の製薬会社はまず錠剤化を目指す。と言うのも日本の患者は粒の小さな錠剤のほうが飲みやすいと考えているからだ。できないものだけがカプセルに格納される。だからカプセルの市場はそれほど伸びないと日本目線の株主は考えるのである。ところが医薬品市場で日本の割合は市場の10%に過ぎない。世界の製薬市場、言い代えればカプセル市場の50%は米国、35%は欧州、残る5%が新興国つまりインドと中国、南米が占める。米国や欧州の目線ではカプセル市場は伸びない市場とは見られていない。消費者も医者も製薬会社もカプセルを脇役と考えていない。しかも医薬品用カプセル市場の目線で眺める者にとってクオリカプスの市場は成長市場であった。
では競争はどうか。意外なことに医薬品のカプセルの製造は、高い技術力が必要とされる参入障壁の高い事業である。実際にグローバル市場は、ファイザーの子会社で世界一位ののカプスジェルと2位のクオリカプスの2社で寡占されている。少なくとも欧米の巨大製薬メーカーの生産にあわせてグローバル供給のできるサプライヤーはこの2社以外にはいない。日米欧いずれかの市場で強いローカル企業を入れても、競争企業は5~6社といったところである。なぜカプセルを作るのがそれほど難しいのか。溶解したゼラチンが時間とともに固まってくるプロセスにおいて気温、湿度、圧力、ゼラチンの残量そして時間といったさまざまな変数の中で、均質なカプセルを製造するプロセスコントロールが難しいのである。上下2つのカプセルはぴたりとはまって外れないぎりぎりの精度で大きさが仕上がることが必要であり、割れたりへこんだりした不良品が混じっていないことが要求され、均質な厚みで高速充填に耐え、かつ胃の中では一定の時間で消化されることが大切である。