自分で自分を守ろうとしない者を誰が助ける気になるか。 -ニコロ・マキアヴェッリ
亡国の悲劇とは、人材が欠乏するから起るのではなく、人材はいてもそれを使いこなすメカニズムが機能しなくなるから起るのだ。 「『ローマ人の物語』を書き終えて」より
> いきなり、重いなぁ。七生先生。だが、確かに重要だ。そして何十年も外住みしているので、やはり外から日本を見ている私と驚くほど一致する意見が多い。
歴史上、最高の後継人事と私が思っているのが2つある。第1は、イエス・キリストからキリスト教会の初代教皇となるペテロへのバトンタッチ。第2は、歴史上の順序は逆だが、ユリウス・カエサルから、ローマ帝国の初代皇帝になるアウグストゥスへのバトンタッチ。
イエスは後継者に、自分とは正反対な男を選んだのであった。猟師あがりのペテロだ。最初の頃の弟子だったが年功序列による任命ではない。イエスよりは年上のこの男は、頭はまったく切れないから相手を説得するに役立つレトリックなどは浮かんでもこない人だが、その代わりに純朴で、堅固な意思の持ち主どころか気が弱かった。イエスが捕らわれた後、お前も仲間だろうといわれて、あんな人知らないと答えた男である。イエスのやったことは立派に革命である。それを眼前に突きつけられた場合、ほとんどの人は警戒心を持つ。それに生前のイエスの過激な言行は、頑迷な守旧派にかぎらず穏健な考えの人々にも警戒心を抱かせていたに違いない。ペテロは、この警戒心を解くのには最適の人材であったのだ。冷徹で弁も立つパウロよりも、純朴だが欠点も多いペテロにバトンタッチしたのが、キリスト教が当時のオリエントに生まれた多くの宗教と違って、砂漠の向こうに消えてしまわなかった理由の1つだと思っている。
次いではカエサルとアウグストゥスの例だが、こちらも性格から資質から何から何まで違う2人の男の間でなされたバトンタッチだった。成功の要因は、タッチするほうもタッチされるほうも、目には見えない一本の太い線で結ばれており、イエスとペテロの間では「真の神の教えの普及」だったが、カエサルとアウグストゥスを結んでいたのは、歴史上では「パクス・ロマーナ」と呼ばれる「ローマによる国際秩序の確立」であったのだ。この一本の太い線さえ通っていれば、性格や資質の違いは問題ではない。いや違っていたほうが成功率は高くなる。
カエサルは、痩せ型で背が高く、鉄の健康を誇っていた。冬の北ヨーロッパでも、両腕両足むき出しのローマの軍装で何日も戦い続け、10日以上も馬を駆りつづける体力の持ち主だった。常に第一線で戦うのに戦士もせず、病気で死ぬことも期待できなかったから、ブルータスたちも殺すしかなかったのである。ところがアウグストゥスは、いわゆる病弱で生涯を通じて健康には恵まれなかった。アウグストゥスのほうも自らの欠点の克服には努めたのである。ただしそれは克服などという立派な心構えではなくて、「無理はしない」であったのがいかにも彼らしかった。
デカンターに入れるとなると赤だが、夏でも室温で飲んでいるのかと問われれば、答えはイエスである。しかも冬よりは強烈な葡萄酒が入っている。濃厚ではなくて強烈、芳醇ではなくて荒々しい。イタリアならばシチリアやサルデーニャ、ギリシアならクレタやロードスという、地中海に浮かぶ島の葡萄酒にこの種の者が多い。この種の葡萄酒は、古代のギリシア人やローマ人の飲み方にしても充分に耐える。つまり、ストレートではなく、冷たい清水で割って飲むやり方だが、私はそれを氷で充たしたグラスに注ぐという、つまりオンザロックにして飲んでいる。古代でもそうだったかもしれない。ちなみに強烈に荒々しいワインは、濃厚で芳醇なものが尊重されるこの頃では絶対的に安い。ボトルで買ったら2000円(13ユーロ程度)だった。言わずもがなのことだが、ボルドーもブルゴーニュもモーゼルも、いずれもかつてはローマ帝国の領内にあり、葡萄の木もローマ人が移植したから産するようになったのである。
文章から分かる酒飲み七生ちゃん。この地中海の島産のワインのロックは私も興味があるな。
良い男だと史料を勉強している時から早くも愉しくなり、勉強も進むのだから面白い。くすくす笑いながら煮ても焼いても食えないとはあなたのような男のことですよ、などと独り言を言いながら書くことになる。一転してネロのような困った皇帝になると、これはもう「クイーン」のフレディ・マーキュリーだと思い、生まれた時代を間違えたのが皇帝ネロだと、書きながら笑い出す始末。
わが友マキアヴェッリ 3/6 ~マキアヴェッリと女達
これもけっこう面白かったが、七生ちゃんが、女としての主観をもって男を評価している文章は、すごく面白い。
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