ボタンとノブで操縦
まず旅客機がどう操縦されているか、説明したい。結論を先に書けば、それは「自動操縦の設定点を動かして飛ぶ」のである。例えば飛行すべき速度や経路を自動操縦装置に入力して飛ぶのである。設定点の動かし方の一つは、CWS(コントロール・ホイール・ステアリング)である。これは手動操縦に近い感覚で設定点を動かすものである。現代の飛行では、多くの場合パイロットは、もっと単純な方法を使う。それは設定点を「ボタンとノブの操作」で動かすものである。
例えば、羽田を離陸したとする。パイロットはノブを回し、ダイヤルに飛行すべき方位角を設定する。すると飛行機はその方向に旋廻を始める。パイロットが自ら操縦輪に手をかける必要は無い。次に例えば推力を設定する。そして別のノブを回し、速度を設定する。すると機体はその時の余剰推力で上昇を開始する。以下同じような操作で飛行が続く。これにボタンを押す操作が加わる場合が多い。例えば方位を保つオートパイロットのボタンを「ポン」と押す。そしてノブを回して方位を選ぶ。あるいはノブで方位を選んでおき、ボタンをぽんと押してそのモードを起動する。現代の旅客機の操縦とは、基本的にボタンを押し、ノブを回すことといってよい。もちろんトリム(釣り合い)をとるとき、あるいは自分で操縦したい時、また自動操縦が故障した時、パイロットは手動の操縦で飛ぶ。
バートル107(ボーイングのヘリコプター)が飛びはじめた頃、ジェット旅客機は大洋を横断していた。すなわちボーイング707とかダグラスDC8といった第一世代旅客機が、すでに実用機として威力を発揮していた。これらの機体は、長時間洋上を飛ぶことに備え、優れたオートパイロットを搭載していた。しかしこのB707やDC8について、オートパイロットに関する不評を私は聞いたことが無い。飛行機の自動操縦の設計に直接かかわったことは無いが、V107におけるゼロ点調整のような不安は無かったと思う。その理由は少なくとも2つ想像できる。
まず、飛行機は、そのままで安定な機体性を持っている。一方ヘリコプターは、本来不安定な特性を持つ。したがってヘリコプターの自動制御系は、操縦測度が速くかつ強力でないと効果が無い。一方、安定な飛行機では、制御はゆっくりとした操縦で間に合う。このため飛行機の制御系ではたとえ異常が発生しても、ヘリコプターのように即座に致命的にはならない。もう一つの理由は歴史の長さの違いだろう。少なくとも飛行機では、1930年代に試験的なオートパイロットが存在した。一方でヘリコプターが真の意味で実用化されたのはベトナム戦争のときである。バートルもその一つだが、V107は1960年代に脚光を浴びた機体である。したがってそのSASも実用化第一段階のモデルである。飛行機より30年ほど遅れている。というわけで飛行機のほうがオートパイロットは進んでいた。はるかに進んでいたといってよい。しかしその飛行機でさえ、当時はオートパイロットは故障するもの、と考えられていた。制御系の信頼性を表す言葉の一つに、「オーソリティ」がある。本来は「権威」を表す。飛行制御系の場合は、「人間の操縦範囲に対する制御系の操縦範囲」を表す。私がSASに従事した頃、SASのオーソリティは15%であった。飛行機のそれは30%ぐらいではなかったかと思う。
私ごとで恐縮だが、私は二代目セルシオに乗っている。これに替えてから、中央道の八王子-小牧間を、休憩なしで走れるようになった。乗り心地が改善されたのと、オートクルーズが使いやすくなったことによると思う。中央道は空いていて、オートクルーズが使いやすい。セルシオのそれは実によくできている。それでも他車を追い越したり追い越されたりする時、無意識にペダルにつめ先がかかることがある。こういうときオートクルーズがすぐ外れないほうが走りやすいのではないかと思う。したがって近い将来、ブレーキペダルに少し積極的に力を加えた時、外れるようになるのではないか、私はそんな風に予想する。実際航空機の自動操縦はすでにそうなっている。ボーイングの旅客機もエアバスのそれも、最新型機はともに、操縦輪にかなりの力を加えないと、自動操縦は外れない。すなわちそれは「積極的に」力を加えてシステムを解除する方式になっているのである。かつてのマイアミの事故のように「気付かずに」加える程度の力では解除されない。この「気付かぬ」程度の力で解除される系と「積極的」な力で解除する系との間には、信頼性の面で雲泥の差がある。後者は制御系が「故障しない」との確信のもとに設計されている。
制御系を信じて起こる事故は既に1970年代に現れている。
1979年 DC10 フランクフルトを離陸したダグラスDC10はルクセンブルグ上空をマイアミに向かって上昇していた。突然オートパイロットが外れる。これを機長が入れ直す。さらに上昇すると振動が出る。乗員はエンジンの振動と思い、エンジンを絞る。DC10は失速した。原因はオートスロットルの操作ミスであった。オートパイロットで速度を保持して飛行中に、誤ってオートスロットルに速度を保持するモードを設定した。この結果オートパイロットの速度保持モードは、自動的に上昇速度を保持するモードに切り替わった。このため飛行機の制御系には速度保持と上昇率保持の2つの命令が与えられた。上昇するにつれDC10の制御系は上昇率と速度の両者をともに保つことができなくなる。DCは失速に近づき、警報が作動する。乗員はこれらをエンジンの振動と勘違いし、スロットルを絞って失速した。そこには乗員の航空機への深い信頼が見て取れる。自動操縦で飛んでいる限り失速することなどあり得ない、そのような確信が事故の背後に見て取れる。
1985年 B747 台北からロサンゼルス、太平洋上で突如操縦不能に陥った。この機の一つのエンジンにトラブルが発生した。B747では、1エンジン停止は緊急事態にもならない。それなのにこの機はほぼ裏返し状態になり約1万メートル落下した。原因は乗員がエンジン停止時に期待の釣り合いを取り直さなかったことによる。正規の手順では、まずオートパイロットを解除する。そして推力を加え、方向家事と補助翼を使って機体の釣り合いを取る。その状態でもう一度自動操縦を作動させる。乗員はエンジンの再スタートに注意を奪われ、右の手順を行わなかった。このため機体の釣り合いはみ出されていた。その乱れを最初は自動操縦が抑えていた。しかし自動操縦の機能が限界に達した時、機は一気に横転した。
1990年 A320 インドバンガロール空港手前のゴルフ場に墜落した。オートパイロットの設定ミスとされた。乗員は降下率を設定すべきところ、誤って高度を設定する隣のノブを回したらしい。この機は滑走路より430フィート高いところで、一度水平飛行に入る自動操縦のモードを使用していた。このモードを使用中にもう一度高度を設定すると、推力がフライトアイドルに変化する。このため機体が降下経路と速度を維持できなくなった。
1992年 A320 フランス・素トラスプール空港手前の山に墜落した。自動操縦の飛行モードの選択にミスがあった。本来なら降下角3.3度で降下するはずであった。実際には降下率が毎分3300フィートであった。乗員は角度(経路角、計器上の表示はマイナス3.3)を維持して飛んでいるつもりで、うっかり降下率(表示はマイナス33)を維持していたらしい。A320では降下率と経路角の設定は同じノブで行われ、数値は同じ窓に表れる。
1994年 中華航空機 エアバスA300-600R 名古屋空港に着陸しようとして墜落、炎上した。手動操作で進入中に、着陸やり直しのゴーレバーを作動させた。このためゴーアラウンド(着陸やり直し)・モードが起動、推力が増加し、上昇した。乗員は着陸経路に戻るべく、機首下げ(操縦輪押し)操作を行った。しかしゴーアラウンドモードが解除されておらず、さらに多分混乱して、オートパイロットを作動させた。この状態ではオートパイロットは着陸復航するための上昇経路を保とうとする。しかし乗員は操縦輪を押し続けた。この結果水平安定版が機首上げ方向いっぱいにまで移動した。機体は機首上げに上昇を続け、最終的に失速して墜落した。
- オートパイロット中心で飛ぶという考えはいかがですか?けしからんという方もいるんじゃありません?
機長 「どうなんですかね。僕はそういう流れだと思いますけれどもね。オートパイロットが不具合の時にマニュアルで飛ぶ。あるいはオートパイロットで制御できないような特殊空港ではマニュアル・コントロールで飛ぶ。そういう時代に既に入っているんじゃないかなと思っています。
- よく世間ではボーイングはパイロットが中心で、エアバスでオートパイロットが中心だといいます。そうですか?
機長 「僕自身のイメージからすると、それはセールスポイントの違いだと思うんです。多分ボーイングは飛行機を作る姿勢としてパイロットにターゲットを当てたセールスポイントを打ち出している。一方エアバスは、むしろ経営者、あるいはパイロットも含めた全体的な人間をターゲットにしたセールスポイントを打ち出している。
エアバスの真実―ボーイングを超えたハイテク操縦 (講談社プラスアルファ文庫) 加藤 寛一郎 講談社 2002-06 |
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