序章「日本が謝り続けることは理解できない」と言える男
50年前に起きたことを日本が謝り続けることは、我々には理解できない。他の敗戦国は戦争中に占領した国に謝罪し続けてはいない。50年前のことに補償を求めるなら、100年前、200年前はどうだということになり、旧宗主国に対し補償はどうしてくれるんだ、ということになりかねない」
伝家の宝刀、というより馬鹿の一つ覚えのように日本の戦争責任を強調し、”謝罪外交”でお茶を濁そうとしていた村山首相は機先を制せられて二の句をつげず、何の哲学も信念もないことが計らずも露見してしまった。筆者は何もここで村山富市なる人物の見識のなさを悲憤慷慨するつもりはない。”平和、平和”とお題目のようにとらえ、つい数年前まで非武装中立などという冗談を基本政策としていた政党の党首なのだから、マハティールの発言に絶句するのも無理は無い。マハティールと日本の首脳とでは歴史観と世界観が大きく異なっている。彼らは1994年を“戦後49年目”としてとらえている。しかし、マハティールにとって1994年は“21世紀まで後6年”という感覚なのだ。「マレーシアは第二次大戦中(日本軍によって)被害をこうむったが、わが政府はマレーシア国民が日本に対して補償を求めるように勧めたりしない」と言い切れるのである。“詫びは何度も聞いたから、その後のことを話し合おう”と言いたいのだ。
頼まれたからやってる挫折を知らないエリート雇われ社長 vs 「俺がやらずに誰がやる!」的中小企業のオーナー社長 って感じですよね。日本の総理大臣ってすごく上品ですもの。お顔が。Tito元帥を見ろよ。
欧米にNOと言える男
マハティールが現在最も力を入れていることの一つがEAEC(東アジア経済協議体)の実現である。その第一歩として90年に発表されたのが「東アジア経済圏(EAEG)構想」である。ECやNAFTAにみられる欧米の保護主義と対抗しようというものである。直接のきっかけは、一つは世界における貿易のルールを決めるGATT(ガット=関税と貿易に対する一般協定)のウルグアイ・ラウンドの交渉がアメリカとEC(欧州共同体)の二極によって完全に牛耳られ、いくら経済力をつけてもASEANはカヤの外に置かれっぱなしであったこと。第二点として、アメリカとECの利害が対立し、ガットを中心とした世界の自由貿易体制が崩壊して世界に保護貿易主義が広まる恐れが出てきたことがあげられる。アメリカは過敏に反応した。ブッシュの目は東欧、ソ連における共産主義の崩壊と一触即発の中東湾岸地域に注がれ、東南アジアにはほとんど関心を払っていなかった。そんなところにもってきて、突然「アジアは経済ブロックを作る」という声が聞こえてきたのだから慌てるのも無理は無い。ベーカー国務長官はEAEG構想を封殺するため、なりふり構わず各国に圧力をかけた。その最大の標的はもちろん日本。
ACAL(アジア一国一愛人)構想とか言ってる自分が恥ずかしいです。ACAL、エイカルと発音してください。
「欧米が自分たちだけの経済ブロック化を推進しながらEAECを阻止しようとするのはアジア人に対する人種差別である。」 “人種差別”という言葉はアメリカ人にとって最もデリケートな言葉である。ベーカーはあからさまにその最も忌むべき言葉を浴びせられ、色をなくしたに違いない。
タイなど他のASEAN諸国はEAECをより積極的に支持するようになっていた。その背景には欧米が人権、環境問題、労働条件を改善しろとASEAN各国に要求し、反発を招いていたという事情がある。アジアの側からすれば、それらの要求はよけいなおせっかいでしかない。第三世界の農業国で、欧米流の価値観を発展の初期の段階で持ち込んで成功した国は皆無といってよい。その見本がフィリピンであり、ラテン・アメリカだ。フィリピンは民主主義の敵マルコスを打倒したが、経済発展はいっこうに進まずASEANの劣等生になってしまった。ところが韓国や台湾は、経済的な豊かさを国民に与えてから完全な民主主義を導入した。その理由は人間は一度豊かになるとそれを失いたくないため、社会のルールを守り、より一層の豊かさを求めて真面目に働くからだ。
これに対しマハティールはこう反駁した。
「ヨーロッパはすでに保護主義的貿易ブロックを選択している。彼らは自分たちの高い生活レベルと生産コストの高さを守り通すために東アジア諸国との競争を拒絶しようとしている。欧米はあらゆる問題であら捜しをして私たちに差別政策を正当化しようとするだろう。彼らはその口実として民主主義、人権、労働条件、環境破壊、知的所有権などといった問題を持ち出している。NAFTAやECの登場でこのような差別による排除はますますひどくなるだろう。地球の汚染はその大部分がこれまで欧米を中心とした先進国が行ってきたもので、開発は奪うことができない権利である」 とマハティールは欧米の身勝手さを非難した。

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