ティゲリヌスはプラエトリア兵の全部隊を集めてから、近付いてくる皇帝に矢継ぎ早に飛脚を送り、火災がますます激しくなっているから観物の豪華さは申し分ないと報告した。しかしネロは、滅びていく都の光景を堪能するために夜になってから来たいと思っていた。その目的からアクァアルバナ(水道の名)の附近で泊まり、テントに悲劇役者のアリトゥルスを招き入れ、その助けを借りて姿や顔や目付を整え、それに応ずる動作を学び、これと激しく意見を交わして「おお、神聖なる町よ、イダ(トロヤの南方の山)よりも強固と見ゆるに。」という言葉の所で、両手を上に差し伸べたものか、それとも片手に琴を取ってその手を脇に垂れ、もう一つの手だけ挙げたものかと議論した。しかもこの問題がこの瞬間にあらゆるほかのことよりも重要だと考えていた。結局、薄暮に発足したが、尚ペトロニウスの意見を徴して、災害に捧げられる詩句の中に神々に対する非難の語をいくつ加えるか、それとも芸術の立場から考えてそういう言葉はこういう祖国を失った人の口にひとりでに出てこなければならないものかを語った。
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