私の父親は株の売買をやっていて、高校教師だったのに毎晩飲んで帰ってきていた。当時は高度経済成長期でほとんどの株式が値上がりしていた。そして父親は株式を私に生前贈与してくれていて、私は社会人になってからその株の売却益を元に株の売買を始めた。のちのことだが、リクルート本体でも日興証券から山路正徳を迎え、グループの企業年金の自主運用と余資を運用し、値上がりしそうな株を買い、値下がりしそうな株を信用売りしていた。このような取引を裁定取引(アービトラージュ)という。理屈の上では利益が上がるように見えるが、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価(わずか30銘柄の工業株によって構成されている)が上昇すれば、値上がりしそうな株も値下がりしそうな株もそれに連動して値上がりする。ダウ平均が下がれば連動して値下がりするため、必ずしも利益が得られるわけではない。ただ、いくつかの銘柄を長期間売りと買いを建てていれば、長期的には利ざやが取れるケースが多い。私は、私個人の株売買の利ざやで、私のスキー、ゴルフ、そして家族連れの海外旅行の費用、さらにグループ企業の損失の穴埋めもしていた。立花証券の石井久さんから「兜町では”売り”が悪いこととされるんですよ。私も業界紙に”売り”と書いて同業者から批判されたことがあります」と言われた事があったが確かに証券市場にはそのような風潮があるようだ。私自身もかつて足踏みミシンのシンガーミシンが日本から撤退したので、同じ足踏みミシンメーカーであるリッカーの株を売り、電動ミシンのJUKIの株を買ったのだが、リッカー株の売却だけが朝日に報道されたということがあった。
まず空売りと言わず、信用売りと言っているのは、アマなのに感心な正しい言葉遣いだ。ただ、この戦略は単なるロング・ショートでアービトラージュとは言わない。ついた先生が悪かったのかな。それから社長として社員教育のためによくない発言、
「理屈の上では利益が上がるように見える」と「長期的には利ざやが取れるケースが多い」
は卓越した売買のセンスと実績を持つ江副さんのみが許される結果論です。