リギアの考えはこうであった。私がどこにいるかということはアウルス一家には決して知らせない。ポンポニアにすら知らせない。ただ、逃げるのはウィニキウスの家へ行ってからではなく、途中からにする。ウィニキウスは酒に酔って、夕方奴隷を迎えに寄こすとはっきり言った。おそらくウィニキウスは自分一人にしろ、ペトロニウスと二人でにしろ、とにかくあの宴会の前に皇帝に会って、私を明日の夕方引き渡すという約束を得たものと思われる。ウィニキウスは今日は忘れていても明日は迎えをよこすだろう。しかしウルススが救ってくれる。ウルススが来て、食堂から連れ出したように、私を籠から出して、人々の中へ連れ去ってくれるだろう。ウルススに手向かいのできる者は一人も居ないはずだ。ゆうべ食堂で戦ったあの恐ろしい剣闘士だとってウルススには歯が立たないだろう。しかし事によるとウィニキウスは大勢の奴隷を送ってよこすかもしれないから、ウルススをすぐにリヌス司教様のところへ遣って相談させ、助けを求めさせよう。司教様は私を憐れんで、私をウィニキウスの手にお渡しにならず、ウルススと一緒に私を救えとキリスト教徒たちにお命じになるだろう。キリスト教徒たちは私を奪って連れ去ってくれる。その後はウルススがうまく私を都から連れ出して、どこかローマの権力の及ばない場所に隠してくれるだろう。