投入した費用、ロビイストの数、そして活動規模からして、外国企業によるロビー史上最大の作戦。米企業以外の企業の中で、最も高額で攻撃的なロビイングだ。日本がその政治的影響力を行使した、唯一の劇的な実力行使と、米マスコミが競って報じたジャパン・ロビーがある。この日本企業とは東芝のことである。東芝機械ココム違反事件をめぐる議会の制裁内容を骨抜きにすべく、1987年~2年間にわたって展開した東芝ロビーの猛攻は、ワシントン政官界を震え上がらせた。
この事件の発端は1982年12月から東芝機械が和光交易を通して、ココム違反の品目である9軸同時制御のNC工作機械4台をソ連に不正に輸出したことに始まる。この結果、ソ連はノルウェーからのコンピュータを組み合わせ、潜水艦のスクリュー音を低下させるのに成功したというもの。事件が発覚し、全米から制裁の声が上がった。東芝制裁条項を議会に働きかけたのは、ジェイク・ガーン上院議員(共和党、ユタ)であった。黒子役はビル・トリプレット上院外交委員会専門スタッフたちだ。トリプレットは依然米国ホンダのワシントン事務所長を務めていた弁護士だったが、一転して日本叩きの急先鋒に浮上した。ガーン議員の選挙区は、全米トップを誇る銅生産州だ。彼は外国銅生産に対する米政府援助を中止させている。同様にミンク生産が全米三位の州であることから、ソ連からの輸入禁止を呼び掛けたりしている。