田中角栄の「逃税学」―税法のあらゆる穴を知っていた男 | |
立石 勝規
講談社 2000-11 |
目白御殿(話の舞台)
田中角栄名義5800㎡、田中系グループ企業長鉄工業分も含めると8600㎡のうち3200㎡を物納。
はなの遺産に対する相続税53億円もまだ残っている。相続税は当時最高の70%
遺産197億円を引き継いだ真紀子らが65億円の相続税のうち、現金で納めたのが35億円、残りは物納にしている。
東京国税局長 磯辺律男の担当
吹原産業事件(65年) 闇金融王 森脇将光
三菱銀行の30億円の通知預金証書、鹿島が落札した九頭竜川ダム建設
虎の門事件(66年) 国有地払い下げ 田中彰治
殖産住宅事件(73年)
田中金脈調査(74年)
国税局の権威
国税局は地検との協力関係内で限りなくオールマイティーに近い権限を持っている。
国家権力は突き詰めれば徴税権と警察権になる。
国税局は大蔵省の外局であり、税金の徴収、脱税の摘発を唯一の目的とする機関である。
全国に12の国税局と524の税務署を擁し、57000人もの職員を抱える巨大官庁だ。
しかし、その実態は殆ど知られておらず、「沈黙の艦隊」と呼ばれている組織である。
とりわけ、国税局内で唯一強制調査権を持っている査察部(450人)は厚いベールに覆われている。
もっともばれやすい犯罪 脱税
脱税とは税務署へ申告する所得のごまかしだから、確定申告をしなければ始まらない
手口は、収入、支出、あるいは両方をごまかすかの3つしかない。
裏帳簿を作ろうとも、本当の帳簿がなければ脱税できない。
脱税で得た金を足のつかない現金のままで置いておけない。
なかなかやめられない。
現金主義
天才「税理士」の田中にとっては、いくら大金であっても現金で受け取るのが常識。
児玉誉士夫がロッキードからのコンサルタント料の一部を小切手で受け取ったのが摘発されるきっかけだった。
ゼネコン各社から得た闇献金を利回りの大きさに引かれて40億円もの割引金融債を買い、これが動かぬ証拠となって
国会議員で初めて脱税で逮捕された金丸とはガードの固さが違う。
預金小切手は現金同然
91年摘発のルノワール事件 「浴後の女」と「読書する女」 脱税したのは仲介した美術商。
買い手は、三菱商事と、創価学会系の東京富士美術館、舞台は帝国ホテル。
89年日比谷帝国ホテル4F桂の間に渋谷の画商アートフランス社長・石原優らがルノワールの絵二枚を運び込んだ。
桂の間に集まった仲介者は、石原、帝国ホテル地下街で美術展を経営する立花玲子、経営コンサルタント会社
相談役宮田宗信、宮田の友人の投資顧問会社社長金子暁、買い手側は三菱商事ディベロッパー事業部社員、
創価学会副会長・八尋頼雄、東京富士美術館副館長・高倉辰夫 ら
三菱商事が「浴後の女」を30億円、「読書する女」を6億円でいったん買取、一時預かった後、東京富士美術館
に売却することが決まっていた。事実この取引の1年半後に三菱商事は東京富士美術館に41億円で売っている。
購入資金は「寄付」の形で、創価学会から出ている。
高倉が、絵画を鑑定した後、額面一億円の預金小切手36枚が金子らに渡された。金子は自分と宮田・玲子の
取り分として預手7枚7億円を抜き取る。残り29枚の預手は立花の従業員に手渡された。査察部が総力を挙げて
追跡し、東京地検特捜部が玲子ら売り手・仲介側を逮捕して調べても突きとめられなかった「3億円の行方不明」
が、この後起きる。
従業員から袋を受け取った玲子は、「一部」を抜き取り、自分が用意した2500万円の現金と共に石原に渡した。
問題は玲子が抜き取った預手の「一部」の枚数だ。彼女は「1枚だった」と主張するが石原らは「4枚のはずだ」と証
言している。結局、預手3枚3億円の行方は特捜部の捜査でも突きとめられなかった。今もって帝国ホテルから消え
たままになっている。
東京国税局がルノワール事件のきっかけをつかんだのは、調査第一部の三菱商事に対する定期税務調査だった。
美術品とは縁もゆかりもないディベロッパー事業部の在庫にルノワールの絵画2枚が36億円で計上されていたことだ。