カレンダー・プット・スプレッドの集合は結局、上がっても下がってもダメな典型的なガンマショートポジションなのに何が暴落対策なのだ?という質問に答えよう。
キーワードは”維持”である。
上昇相場で踏まれてマイナスが出るポジションは維持が難しい。維持するためのトレーディング=新規ポジションの積み重ねについては既に述べたが、さらなる維持によってこのポジションがどのように変化していくか? 想像して欲しい。常に短いオプションを売り、長いオプションを買いながら積み上げているので、短いものは満期を迎えていく。するとどうなる? 単純にカレンダー・プットスプレッドだけしかないポジションの場合、売りと買いの枚数の和は常にゼロだったのだが、売りが満期を迎えると同時に、徐々に買い越しに転化していく。長いアウトのプットの素ロングが少しずつ立ち始め、損益曲線の下方が立ち上がり始めるのである。
Dancing-Dragon-01.jpg
実際に取引すると、長期が取引しやすいDECやJUNにポジションが集中する。それが一気に満期を迎えるとリバランスが面倒なので、1年を切っていて、ポジションが集中した場合は、それより短い期間のカレンダー・プット・スプレッドを組んで散らしていく。例えばDEC16 +10、DEC15 -10と入っていたら、MAR15 -5 DEC15 +5を組んで、さらにDEC14 -3 MAR15 +3、とOCT14 -1 DEC14 +1というように相場変動や時間の経過と供に、上昇相場の場合は、ストライクは上方に動かしながら、カレンダーの期間を短くして、集中したポジションは散らしていく。


命名の由来
オプション戦略におけるコンビネーションで、2つのオプションを組み合わせるコンビネーション、レシオ・スプレッドやプットスプレッドやカレンダースプレッドという名前は意味に基づいたネーミングであるが、3つ以上のオプションを組み合わせるバタフライとコンドールは損益曲線の形でネーミングされている。よって、カレンダー・プット・スプレッドは2つのオプションなので意味ネーミングだが、この集合であるダンシングドラゴンが、長い上昇相場において、どのように損益曲線が変化していくか想像つくだろうか? 損益曲線上を右に前進する龍の如く。ここがダンシング、損益曲線上の動きを表現した部分なのである。
上方のNaked Call Shortを入れれば、頭が垂れるので、Groundling Snakeっぽくなるのだが、調整用のコール・カレンダースプレッドの残骸でコールロングが残れば、頭が上がる。蛇は基本頭を下げ、龍は頭を上げているという印象なので、この戦略を、損益曲線の形になぞらえダンシング・ドラゴンと命名したのである。ダセーw
よってこの1年の上昇相場を伴うことで、Delta Long, Gamma Shortで損益曲線の下方が跳ねている形として、完成したダンシングドラゴンであるが、それでも損益曲線の下落による最大損失はそれなりに大きく、大暴落がなければプラスにまでは到達しない厳しいポジションになる(その意味ではプット・レシオ・スプレッドでこのポジションを形成しても大差は無い)。どんな場合も磐石なポジションは無いw
「どんな場合も」ということで、すなわち今後の相場展開を占う時に、我々デリバティブの世界の住人は株の住人とは明確にビューを分けるべきである。株の世界の住人、特に個人投資家やファンドマネージャーの場合は、上げか下げかという1次元的なビューで十分であるのに対し、我々デリバティブの世界の住人は、上げ下げに「動く速さ」を加えた2次元的なビューを持つべきである。「動く速さ」とはボラティリティと漠と定義して良いだろう。HVでも直近ATM IVでも、その計算期間はそのポジションによって変えて良いので、短い期間でオプションプレイしているならDaily参照の5Daysでも、5分参照のイントラデイでも、私のように長いなら1M~3Mでもなんでも良い。とにかく低・中・高ボラティリティの3種類と上げ下げの2種類で合計6個のマトリックスに対する表明がオプション・ポジションなのである。
想定としては、ここでは漠とボラティリティと言っているので、Realized VolatilityであるGammaとImplied Volatilityを、敢えて等価とみなしたビューである。高ボラティリティであるならば、GammaとVegaともにLongなら有利というざっくりとした相場観である。もっと複雑にマトリックスを設定することも我々は可能だが、このくらいでも十分だ。
2010.07.23 数学を使わないオプション解説 GammaとVegaは何が違うの?
ダンシングドラゴンの場合、
  上げ 下げ
低 ○  ×
中 △  ×
高 △  ○
例として、ショートタームITM コールの買い
  上げ 下げ
低 ○  ×
中 ○  ×
高 ○  ×
となり、ボラは関係ない、株と先物と一緒になるので、オプション戦略として体をなしていない。
ショートタームOTM コールの売り
  上げ 下げ
低 ○  ○
中 ×  ○
高 ×  ○
あっ、○が2つも多い。まー、そういうこともあるか・・・。逆に6種マトリックス、シンプルなネイキッドには向かず、損失限定のコンビネーションの場合に一番有効なのかもしれないな。
となるので、ジリジリとゆっくり下がると負けるポジションである。上げた場合も下げた場合もうまく行く場合は、ゆっくり上がっていきなり下がるという「動く速さ」を込みで考える相場観が反映されたポジションでなければならない。また6つのシナリオ全部で○は無いw ○と×の数も等しくないと自分に甘い想定だw S&P500も1年の動きで見れば、中・上げか高・上げなので、私は+9%程度でこの1年を終えたのである。また短期で見た場合でも有効で、7月24日から8月7日かけての下落相場は、HVもIVも上がっているので、高の下げに相当するのでやはりプラスということである。さすがにダンシングドラゴンは1日やイントラデイのPLを6種のマトリックスで説明することはできない。
ダンシングドラゴンの追加戦略(総仕上げ)
上昇相場のポジション維持については既に述べた。では、下落相場の対処はどうなるのか? ゆっくりと下げたら、これは失敗だ。ダンシングドラゴンの穴であり、これは素直に負けを認めなければならない。私の相場観では、それは起こらない、下げは必ず高いボラティリティを伴うと踏んでいるので、このポジション取りなのである。その際、ダンシングドラゴンは、今のままだと相当下がらないと儲からない。つまり次の下げもリーマンショック並みの下落を要求しているが、そこまでの暴落は期待薄である。
そこで下落時のトレーディング要素が重要になるのだが、ダンシングドラゴンは、ボラティリティを伴う下落時に、上がったIVを、カレンダースプレッドのショートで利確することができる。この利確は、Vegaを売って、Gammaを買う行為だが、プチ下落からのリカバリーとプチ下落からさらなる下落の両方に対応している。カレンダースプレッドは組んだ時点で損益曲線全体が支払いプレミアムの分だけ沈む。逆にカレンダーショートは受取りプレミアムの分だけ浮くので、この取引で、プラス転換点が近付いてくるということだ。この時、今まで右(相場上昇方向)に移動していたドラゴンは、横移動を止め、縦移動=上方にパラレルシフトするライジングドラゴンになるのだ。
オプション戦略というからには、もっとスタティックなコンビネーションを示すべきで、カレンダー・プット・スプレッドの重ねあわせと、カレンダーショートによる利食いまで含まれていると、もはやトレーディング戦略と呼ぶべきだったか・・・。
【理論:Vanilla・幾何ブラウン】
2013.06.17 初めてのオプション取引 2/2 ~天才が作るオプション・エクセル
2012.10.25 アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 3/5 ~最適行使問題
2012.05.10|Calender Spreadのススメ
2011.03.22: ButterflyはなぜVolga Longなのか?
2010.03.24: オプションセミナーに行ってきました@SGX
2010.01.08: 50% Knock-In PutのPremiumって実現できるの?@理想的な世界にて 
2009.06.30: FX Optionの対称性
2009.05.12: FX Optionの 25Deltaって?
2008.08.13: Vanilla基礎 GammaとVolatility
2008.08.12: Call Optionと金利ヘッジ問題 
2007.12.10: 金利0、配当0(0Drift) ATM Call のDELTAは50%? 50%超? 50%未満?