4.ライツイシュー発行後の株価の推移
日経新聞の記者如きにライツイシューの説明は無理なので、この私が、実際に計算方法を示そう。
結果的にどうなったかを確かめるために、発表日と行使最終日を比較してみよう。行使最終日なので、ライツの価格W(行使最終日)は既に存在しないわけだが、イントリンシックバリューをもって計算できる。
W(行使最終日)=N(行使最終日)-権利行使価格A となるので、
(N(行使最終日) + Max(N(行使最終日)-権利行使価格A),0)・Y/X) ÷ S(発表日) -1
を計算すると…、平均リターンが -21% となり、この数値の体感・印象が、ライツ乱発による希薄化という批判の温床である。
Rights-Issue-History.png
レカム+66%、タカラレーベン+24%と株価は上昇している銘柄が5銘柄あるので、-50%半額以下、半額近くになっている銘柄も多い。ここで全体情報の図を示そう。図の中の株価リターンが、上記で計算した数値である。ITM率とは、行使価格A÷発表日株価S、行使率は実際にライツが行使され、お金が払い込まれたライツの率。

新株予約権活用の増資に逆風(風速計)
2014/04/28 日本経済新聞 朝刊 5ページ
 株主割当増資の一種で、既存の株主に新株を購入する権利を割り当てる「ライツイシュー」が逆風にさらされている。株式の希薄化を招きやすい公募増資より株主に配慮した仕組みとされたが、赤字企業の大規模増資が続発。既存株主から不満の声が上がり、東京証券取引所は2015年にも審査の厳密化に乗り出す方向だ。
 「ライツイシュー」では株主が権利を行使して増資に応じるか、権利を市場で売却するか選べる。09年からルールの整備が進み、株高が進んだ昨年から増資が相次いだ。13年度だけで20件と、12年度までの3件から大きく増えた。
 市場で不評なのは、証券会社の審査を受けない「ノンコミットメント型」のライツイシューだ。行使されなかった権利はそのまま失効し、企業が簡単に発行できる。3月には省エネ関連の省電舎がこの仕組みで増資を発表。最終赤字が続いているうえ、調達予定額は総資産の倍近い。同月に発表した小僧寿しも発表翌日の株価は10%超下げた。
 東証が組織する「上場制度整備懇談会」は赤字企業などの「駆け込み寺」になっている点を問題視。適切な増資か証券会社が事前審査する制度を導入する見通しだ。「高いリスクを取るマネーを調達できる仕組みは必要」(国内証券)との声もあるが、仕切り直しを迫られそうだ。(K)

5.ライツイシューの資金調達 としての面に触れておこう。
同じ新株予約権系ファイナンスにおいて、2013年、アベノミクスwによる株価の上昇で、ライツイシューだけではなく新株予約権社債いわゆるCB・転換社債によるファイナンスも活性化している。2013年におけるCBのファイナンス規模が6000億に対して、マイクロな銘柄が多いライツイシューだが、それでも発行件数15件、発行額は1400億円に達している。CBは、株に転換されない場合は、発行企業は普通の社債として、金を返さなければならないので、発行した当初の発行額でそのままカウントしてよい。ライツイシューのノン・コミットメント型に関しては、行使されないと企業に金は入ることはないが、述べたようにライツの行使率は、平均85%と非常に高いので、実際の資金調達額もほぼ発行額と同じ、1250億円となっている。内訳は、Jトラスト一社で970億円ほど調達しており、それを除くと非常に小規模なファイナンスが多いのだが。

2013年12月4日 日本企業のCB発行が6000億円突破、06年以来の高水準
[東京 4日 ロイター] -日本企業による転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行が6000億円を突破し、2006年以来の高水準に達した。発行体にとっては、クーポンをゼロに抑えられるうえ、株高を背景に現行の株価より高い水準で資本を調達できる強気な地合いが続いている。
一方、投資家は、過去に発行されたCBの大型償還が重なり、それに代わる日本物のCBへの買い意欲が旺盛で、需給が合致した。年末の発行ピークは今週がヤマとみられ、あと複数件の発行が見込まれている。
トムソン・ロイターによると、2013年1月から12月3日までの日本企業によるCBの発行金額は6195億円になり、リーマン・ショック前の2006年以来の高水準になった。前年同期比で年初来の発行金額は2.1倍、件数は32件と同1.6倍の規模となった。
直近では、凸版印刷(7911.T: 株価, ニュース, レポート)のように調達資金を有利子負債の返済だけでなく、工場建設や海外生産拠点に振り向ける例がある一方、日本軽金属ホールディングス(5703.T: 株価, ニュース, レポート)のように長期借入金の弁済に充てて、金利コスト縮小を狙う企業もある。高島屋(8233.T: 株価, ニュース, レポート)は土地取得の資金として充当するなど、使途はさまざまだ。
今年はシャープ(6753.T: 株価, ニュース, レポート)などを含む、1兆円に迫る日本企業のCBの償還があったため、CB投資家は満期を迎えるとそれに代わる投資先を求め、新発物のCBを積極的に購入。10月あたりまでは日本の企業がCBを発行すると「瞬間蒸発だった」(外資系投資銀行)という。
秋口にかけて、海外でヤフー(YHOO.O: 株価, 企業情報, レポート)など大型のCB発行が増え、投資家の関心が日本から海外銘柄に分散すると、「(日本物への)過熱感が収まりつつある」(大和証券のエクイティ・キャピタルマーケット部、北原昌氏)との指摘もあった。

6.シングルストックオプションとしてのライツイシュー
3番のライツイシューのスケジュールに立ち戻ればわかることだが、取引開始日より行使開始日が若干遅いアメリカン・オプションである。オプションとしての期間は短め、発行日から行使最終日までは、平均して55日で標準的には60日(Act)の短いオプションである。ここまでが共通しているが、どの程度ITMの状態で発行されているか、あるいはどのように振舞ったかは、時間経過による要素が多いように思われる。
上場初日~転換開始日まで
相対的にIVは高めで取引されている。どういうレベルかは銘柄とタイミングによるが、最近のアルメディオの場合、上場翌日、IV 175%くらの水準まで買われ、アンダーライングの株の前日比よりもライツの前日比のほうが大きい、つまり、デルタ1以上という不気味な動きだった。
転換開始日以降
ライツの価格、オプションプレミアムとしてみるとIVゼロ。つまり、イントリンシックバリュー近辺で取引されていることが多い。イントリンシックを割り込む場合も散見される。信用売り対応銘柄であっても、ファイナンス期間中の空売り規制に抵触するので、ライツを買って、新規信用売りを重ねるという取引はできない。
このライツイシューの価格形成は、ファイナンスという性格上、空売り規制があるので、オプション性が消えて、あくまで新株予約権の価値と考えてよいだろう。
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