マイケル・バリー
2003年、2億5000万ドルの顧客資金を運用し、年間500万ドルの利益を上げていた。2005年ドイツ銀行のリッ
プマンはなかなか上がらない住宅ローン関連証券の売上を伸ばそうと躍起になっていた。しかしこの市場には担当者を悩ま
せる問題があった。出回っている住宅ローンが不足
しているのだ。世界中の何千という投資家がリスクの高いローンを証券
化した商品を求めていた。そのような証券は利率が高いからだ。しかしサブプライムローン市場は、これほど成長していたに
もかかわらず投資家の需要に追いつけなくなっていた。リップマンは考えた。既存の住宅ローンを利用した新たな商品を作っ
たらどうだろう?そうすれば投資家の需要を満たすためにわざわざ新たな住宅ローンを作り出す必要が無い。”模造”住宅
ローンを投資家に売ればいい
んだ。6月、ついに新たに規格化されたCDSが市場に導入された。参照する住宅ローンの
価格が上下するにしたがって価格が変動するCDSである。
>デリバティブ、恐ろしいねぇ、玉無制限。必要なのは売り手と買い手。後は何も要らない。
 高リスクのサブプライムローンから組成した不動産担保証券6トランシェに対するCDSで証券の額面価格はそれぞれ
1000万ドルである。各トランシェに対するCDSの費用はLIBORに約1.55%上乗せした利率、つまり年間約15万
5000ドルである。6つあわせても100万ドルに満たない。チャンは尋ねた。「買いますか?」
「もちろん」バリーは即座に答えた。バリーは自分にCDSを打っているのが誰なのかチャンに尋ねた。それは機関投資家で
あったり、ヨーロッパの富豪であったり、ヘッジファンド会社だったりした。ムーディーズやスタンダードプアーズといった信用格
付の会社がそれらの証券に最高の格付を与えていたため、安心して売りに出していたのだ。「彼らは完全に間違っている」
とバリーはチャンに行った。バリーはブラインドを閉じ、一人想像してみた。自分の分析が正しかったらどうなるだろう?CDS
の価値は跳ね上がり、そのおかげで莫大な利益を上げることができるだろう。だが不動産が暴落したら、自分が取引して
いる証券会社も経営破綻に陥る可能性がある。そうすれば取引口座の資金を引き出せなくなってしまうのではないか?
そう考えたバリーはリーマン・ブラザーズやベアー・スターンズなど住宅ローン債権を大量に保有している証券会社との取引
を避けるようにした。
ペレグリーニ ポールソンの元でCDS取引の担当
世界的なファッションブランド、ダナ・キャランの小売部門を統括していたヘンリエッタ・ジョーンズという女性と二度目のデート
をした。そのデートの時でさえ、不動産市場の現状についてジョーンズに滔々(トウトウ)とまくし立てた。その日の昼間に上
司に報告した内容をそのまま繰り返したのである。またデザートを食べながら、ジョーンズにマンハッタンのアパートを売るよう
に勧めた。金利や住宅関連商品の話など、デートには到底向かない話題だったが、ジョーンズはペレグリーニの情熱的な
話しぶりに好感を抱いたという

>ヘンリエッタさん、さすが統括部長。聡明なご判断で。
2006年春、住宅市場がバブル状態にあると判断したちょうどその頃に、住宅価格が横ばいになり始めた。1年前に
3.25%だったFFレートも今では5.25%にまで上昇している。そのころ、高リスク住宅ローンの損失はおよそ1%に達して
いた。「損失が7%になればBBBトランシェは壊滅する」とポールソンは興奮して叫んだ。サブプライムローンの証券化商品
にはかなりの需要があり、それを保護するCDSにはほとんど需要が無い。そのためBBBトランシェの保険料はいまだに債権
額のわずか1%だという。BBBトランシェ10億ドル分のCDSを購入しても、その年間保証料は1000万ドルでしかない。
そんな価格なら取引を拡大し、高リスク住宅ローンのCDSを何十億と購入したほうがいい、とポールソンは考えた。顧客を
説得し、新たなファンドに10億ドル程度の資金を集めることができれば、例えば債権120億ドル分のCDSを購入する
ことも可能だ。年間費用は1億2000万ドルですむ。年間費用が12%と聞くと、多くの顧客は高すぎると思うかもしれな
い。しかしCDSの保証料は他の保険の場合と同じように長い期間にわたって支払われるため、支払期日が来るまで資産
の大半を銀行に預けておくことができる。つまり、1年で5%の金利を稼ぐことができる。これで7%まで年間費用を抑えられ
る。ポールソンが管理手数料として年間1%を取ったとしても顧客の損失は年間8%ですむ。狙い通りの数字である。
>こういう計算もなかなかお洒落だよなぁ・・・
ジェフリー・グリーン
典型的なハリウッド人種、ロサンゼルス在住、独身を貫き、売り出し中の若手女優やモデル気取りの女性と浮き名を流し
ていた。2006年、この10年間にモノポリーのように不動産を買いあさり、今では南カリフォルニアに7000以上のアパート
といくつかのオフィスビルを所有している。加熱する住宅市場を反映し、所有不動産全体の評価額は5億ドルを超えていた。
ポールソンのファンドへの出資を断り、メリルリンチと個人でCDSの取引を始めた。相次ぐ取引の結果、グリーンの保有CDS
が保護するサブプライムローンの総額は10億ドル以上になった。年間保証料はおよそ1200万ドルである。
>みんな賢い。ちょっと早かっただけだ。
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