まもなく革命によって解体されようとしていたフランス社会の古臭い構成において、僧族および貴族の二特権身分と、特権は持たないが、財政的、職業的には重要なブルジョワジー-イギリスの中産階級にあたる-とは、勤労者の表面を覆う薄皮にすぎなかった。概数でいって50万の二特権身分と100万のブルジョワに対して2500万の勤労者がおり、その9/10は農民であった。しかし少数の大都市、パリは人口約60万で、6つばかりの海港や工業中心地は各10万に近かった。多くの地方都市とでもいえるものでは、大寺院のお偉方たち、教区の僧侶たち、地方自治体の役人たち、司法官、弁護士、その他民生機構および宗政機構のすべての小役人たちは、自己の立場を維持する以上のことを望んでいた。
アラスはそんな地方都市の1つであり、ロベスピエール家はそんな家の1つであった。この一家はこの地方に300年来住んでおり、もしマクシミリアンがその性格のうちに何か外国風なところを遺伝していた、彼はしばしばアイルランド系だと告発された、としてもそれはずっと遠い祖先から来たものに違いなかった。


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「立憲議会」は憲法を制定しなければならない。しかしフランスにはすでに1つの憲法-ヨーロッパで最古のものの一つで、その起源および王位継承をカトリック教会によって祝福されている王政の憲法-が存在していなかったであろうか。いかにも存在していたし、この伝統とたもとをわかつ意図は存在しなかった。しかし、モンテスキュが諸憲法の比較研究を発表し、イギリス式政治の現実もしくは架空の長所を推賞して以来、またルソーが、国家の主権は権力がどんな形式の政府にゆだねられようと、全人民の意志のうちに存在する、と言明して以来、そしてアメリカの反徒たちがフランスの武力の助けで、ルイ16世とあまり変わらない君主の統制を振り落し、共和制憲法の下で幸福に暮らすようになって以来、フランス人は彼らの望みを問うことなしに、立法し課税する政府、義務に対応する権利を与えず、どんな自由でも覆したり奪い去ったりするような政府に対して新たな批判を持つようになっていた。
それゆえ、新憲法は王政であるべきだが、制限王政または立憲王政でなければならなかった。それは前文として人権宣言を包含し、25歳以上の全フランス人および数種類の外国人にフランスの市民権と(一定の制限内での)投票権を与えるであろう。行政権は国王とその大臣の手中に残されるが、立法権は貴族院や国王の拒否権、いやさらに内閣によっても制御されない一院制の議会に移るだろう。なぜなら、国王によって任命される大臣は、議員の中から選ばれることはできず、議会の諸委員会によって監督されるのだから。陸海軍についても規定されたが、文官による場合の他は警察力として用いることはできず、また一方国王は、議会の許可がなければ戦争のために陸海軍を動員できなかった。
> 三権分立もしかり、コーポレートガバナンスもしかり、やはり、いかにして干渉しあい、牽制しあいことで、権力の暴走を防ぐかという歴史の上で、発揮する概念だよなぁ…。
カトリック教会で育てられたにもかかわらず、ロベスピエールは、その同僚議員の大部分と反僧侶主義を同じくしていた。彼の宗教は、ルソーの「エミール」から火種を借りてきて、宗教裁判の火としてこれを用いるような、情熱的なピュリタニズムを持っていた。さしあたって彼は、教会財産の国有化、「公の崇拝を維持し遂行することを義務とする単なる行政官」としての僧侶の取り扱いで満足であった。僧侶は人民の選挙によって任命され、ほかの公務員と同じく俸給を受けるべきである。ロベスピエールは彼らが結婚するのを許可すべきだ、と提案さえした。この提案は、僧侶の多くの賛成を受け、のちに実行に移されるのだが、当時はまだ決定のうちに組み入れられるにはあまりに新奇であった。
国家の破産は教会財産の国有化を必要とした。残された課題は、これを活用する最上の方法を発見することであった。いわば教会委員会といったものでこれを管理し、教会費の中で節約できるものはすべて国庫に還元するのもよい。しかし当面の要求は、もっと土地を、もっと現金を、というのであった。そこで、教会財産を少しずつ競売にだし、地方官庁を通じて。国有財産の分割所有権と交換するための証券を発行することが決定された。この企画は、人民の好みにあって、数年のうちに、かつて教会、王家、亡命地主の所有であった土地建物の大部分は、都市のブルジョワジー、富農、さらに農村の貧農の手に移った。これから2つの結果が生じた。第1に、革命のおかげでその財産を得、それが王家、教会、地主に回復されることを妨げるものならば、どんな政府でも支持する、土地所有者の新階級が生まれた。第2に、政府は証券の取引にずるずる引きずり込まれて、これを紙幣に変えた。そうなるといくらでも増刷できるので多額の紙幣を発行するようになり、その極その価値がずんずん下落し、ついには2年のうちに、額面価値100リヴァール(約5ポンド)の紙幣が、1ポンドの価値もないようになった。
> 政教分離、宗教法人非課税化、中央銀行の独立性、現代では多くの国で採用されている制度の前、その失敗により、学んできたのがよくわかります。

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