実は歴史を振り返ってみると、控えめに言っても、日本に「本当の仏教」が伝えられたことはなかったのです。ご存知のように、日本の仏教は中国を経由して伝えられました。仏教を日本に持ち込んだ人物として有名なのは、遣唐使船で中国に渡った最澄や空海です。空海は密教を日本に伝え真言仏教を完成させ、最澄は日本天台宗を開くことで後の日本仏教の礎を築きました。しかし、彼らが中国にいった時代には、すでに中国の仏教は道教から強い影響を受けていました。空海の場合はインド人の高僧(般若三蔵)から直接にサンスクリット語や密教を学んでいますし、最澄の学んだ天台教学は、天才・天台智顗(ちぎ)により一つの完成された仏教でありましたが、それでも釈迦の時代の仏教とはだいぶ異なっているのです。
いずれにせよ、日本の仏教は道教・儒教と習合した中国仏教をベースに発展しています。その証拠は、あらゆるところで見ることができます。例えば、葬儀です。仏教式のお葬式は、中国の先祖崇拝の文化とともに作られました。戒名が書かれる位牌は、儒教の葬式に用いられていた「神主」(しんしゅ)が元になっています。死者の官位を書くための札なので、位牌と呼ばれているのです。また、日本でありがたがられているお経の中にも、インドではなく中国で作られたと推測されるものがあります。釈迦にもっとも近いとされる禅宗も、その起源は中国にあります。また、インドにおいても仏教は釈迦の死後、バラモン教や後のヒンドゥー教の影響を受けてかなり内容は変わっています。
仏教がバラモン教などの宗教と信徒を奪い合うことになり、呪文(マントラ)や法具、護摩焚きなどバラモン教の要素を取り入れるのです。それらは現世利益を与えるので、信者の獲得に有利でした。これが中期密教と呼ばれるもので、中国でも広まり、日本に伝えられます。これまで日本人が仏教として学んだものは、バラモン教や中国文化の影響を強く受けたもので、仏説つまり釈迦の教えからだいぶ変化しています。誤解して欲しくないのですが、私は日本仏教が劣った宗教だといっているわけではありません。空海は全く新しい宗教を作った大天才でしたし、浄土真宗の親鸞もキリスト教に匹敵する、世界宗教になりえる思想を生み出したと考えています。しかし優れた宗教ではあっても、それをそのまま釈迦の教えということはできないのです。
釈迦のオリジナルの教えに日本人が触れられるようになったのは、仏教学者でも昭和に入ってから、一般の人たちには21世紀に入ってからです。近年、より釈迦のオリジナルな教えに近い、スリランカなどで伝えられる上座部仏教(テーラワーダ仏教)が日本でも紹介されるようになり、興味を持つ人が増えてきました。日本で積極的に著作活動や瞑想指導をおこなっているアルボムッレ・スマナサーラ長老がその代表でしょう。大乗仏教の国とされる日本では、彼らの上座部は長い間「小乗仏教」と貶められてきましたが、上座部仏教では、釈迦の原型に近い教えや修行方法が伝統として受け継がれています。
また、ダライ・ラマ法王の世界的な活動によって、インドの後期密教の姿を色濃く残しているチベット仏教も注目を集めています。チベット仏教は、インドの後期密教がベースになっています。中期密教ではバラモン教は現世利益の思想が導入されましたが、さらに時間が経ち、後期密教になるともう1度、瞑想を中心とした修行に戻っていきます。チベット仏教にもマントラや法具は残っていますが、その数は少なく、しかも瞑想のために使われる道具にすぎません。後期密教では、釈迦の教えに立ち返っているのです。
オウム事件以降の約10年間、オカルトを題材にした番組が全く放映されなかったことで、オカルトに免疫のない人がたくさん育ちました。そして皮肉なことに、再びテレビがスピリチュアルなど、オカルト的な番組を流すと、免疫のない世代、またオウムの記憶が薄まってしまった人は、これらを批判なく受け入れるようになってしまいます。特に若い世代には、それ以前にオカルトについて知識を得る経験がなかったために、簡単にバカな論理にはまってしまったのです。こうして2005年から2007年にかけて、細木数子氏の占いブーム、江原氏によるスピリチュアルブームが起こりました。スピリチュアルと言うと、ソフトなイメージがありますが、魂や生まれ変わりを認める心霊主義でありオカルトの一種に違いありません。かつてのオウム真理教の信者なら、簡単にスピリチュアルブームにはまることはなかったでしょう。彼らの中には、天理教や阿含宗、場合によっては統一教会といった新宗教を一通り経験して、最後の行き先がオウムというような信者が珍しくありませんでした。彼らは、宗教やオカルトについてに知識をそれなりに得てはいたので、そこの浅いスピリチュアルブームなど歯牙にもかけなかったことでしょう。
「あの世」を説く宗教の論理は、ときとして「この世」に様々な問題を引き起こします。日本ではオウム事件であり、海外ではイスラム原理主義者によるテロです。もちろん、イスラム教自体が悪いのではなく、信仰心を利用して人を殺すように仕向けている一部のイスラム原理主義の勢力に問題があるのは言うまでもありません。経典が絶対の存在であるという原理主義は戦争やテロに利用されやすいです。前アメリカ大統領のジョージ・ブッシュがイラク戦争を始めたときもそうだったように、いまだに戦争には神の名が使われているのです。実はアメリカはキリスト教原理主義の影響力がきわめて強い国です。
これには歴史的な理由があります。アメリカの建国神話は、「1620年、イギリスで迫害されていた清教徒(ピューリタン)たちがメイフラワー1号で新天地を求めて新大陸に渡ってきた」というものです。清教徒はプロテスタンティズムの中でも、カルヴァン派の思想を受け継いでいるといわれています。プロテスタンティズムは16世紀の宗教改革によって生まれて宗教思想ですが、特にカルヴァン派は、当時世俗化し堕落したカトリック教会に対して、聖書を唯一のよりどころにすべきだ、という一種の原理主義運動なのです。正教徒によってアメリカが建国されたという歴史的根拠は実は怪しいのですが、こうした建国神話があるために、アメリカではプロテスタントの力が強く、様々な政策に影響を与えています。神の為なら自爆テロもいとわない一部のイスラム原理主義と、キリスト教原理主義が政治を動かすアメリカ、どちらも自分が信じる神こそが唯一絶対の神であるという考えを捨てない限り、今後も戦争がなくなることはないでしょう。
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