マイクロソフトのヤフー買収失敗
マイクロソフトがヤフーを求めたのには理由がある。理論的には、当時わずか9%だった検索市場におけるマイクロソフトのシェアを高め、200億ドル以上というグーグルの足元にも及ばない。わずか32億ドルのネット広告売上高を拡大手段となるはずだった。ディスプレイ広告でグーグルをリードするヤフーの勢いに便乗する狙いもあった。マイクロソフトのポータルサイトMSNのEメールサービスをヤフーのそれと統合し、圧倒的な市場シェアを握る手段にもなる。グーグルのクラウド・コンピューティングという攻撃に対して守りを固めるための策でもあった。ヤフーは不器用に抵抗した。ヤフーCEOのジェリー・ヤンと取締役会は当初、マイクロソフトの申し出を断ったが、やがて関心を示した。しばらくすると再び興味は無いと表明し、買収者に重い負担を課すようなポイズン・ピルを自らに埋め込もうとした。1万4000人の従業員に対して、マイクロソフトとが買った場合に退社すれば、2年間に限って高額の離職手当を受け取れる権利を与えようとしたのだ。だが最終的に、ポイズン・ピルの導入は、断念に追い込まれた。その後ヤンと取締役会はマイクロソフトに対し、1株当たり37ドルであれば買収を受け容れると通告し、しばらくして条件を33ドルに下げた。またしばらくすると、今度ヤフー全体ではなく、検索エンジン事業のみを売却を検討すると発表した。
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マイクロソフトの動きも、ヤフーに負けないくらい不器用だった。スティーブ・バルマーは交渉をいったん中止し、再開し、やがてまた中止した。買収提案の内容を変えるため、パートナー探しも試みた。ヤフーの取締役会を更迭するため、議決権闘争を起こすと脅しもかけた。その末に[もはやヤフーに興味が無い」と言い放った。2008年7月、バルマーがマイクロソフトの戦闘戦略の責任者に指名したケビン・ジョンソンは、同社を去った。迷走によって、大きな打撃を受けたのはヤフーの株主だ。2009年1月、ヤフーの株価は12ドル前後と、1年前にマイクロソフトが最初に買収を表明した時点の株価19.18ドルを大幅に下回っていた。
結局司法省が介入した。そして、グーグルがヤフーとの広告販売に関する提携を取り辞めなければ10年前のマイクロソフトと同じように独占禁止法違反で訴えると通告した。司法省が訴えを起こす3時間前、グーグルは提携を断念した。マイクロソフトの検索市場でのシェアは下がり続けた。ヤフーとの戦いの後には無気力になり、とてもナポレオンの様な強敵に向き合える姿ではなかった。タイム・ワーナーはメッテルニヒのような狡猾さで、ヤフー、マイクロソフト、グーグルの3社を相手にグループ企業のAOLについての交渉を同時並行で進めた。ニューズ・コーポレーションは、ヤフーを買収するためマイクロソフトと組もうとしたかと思えば、反対にマイクロソフトを阻むためにヤフーと組もうとした。バイアコムCEOのフィリップ・ドーマンは「マイクロソフトは、台頭しつつあるグーグルの支配に最も効果的に立ち向かうことのできる会社だ」と述べた。
マイクロソフトの必殺技キャッシュバック
マイクロソフトはフォーラムの締めくくりに社内でひそかに”ゲーム・チェンジャー”と呼んでいた、グーグルを追撃する新たな計画を発表しようとしていた。同社幹部はごっとりーぶのような重鎮には、あらかじめ説明をして回っていた。アドバイスだけではなく、より多くの広告主の獲得や、消費や検索件数の増加につながるはずの新計画への、支持を取り付けようとしたのだ。ステージには、慈善事業に専念するため翌月にはマイクロソフトでの常勤ポストを離れる予定のビル・ゲイツが登壇し、”画期的な出来事”というその計画を発表した。ネクタイもジャケットも身につけず、ぼさぼさの髪型で会場の中央に立ったゲイツが発表した計画。その正式名称は、「キャッシュバック」。
マイクロソフトを検索に利用し、バーンズ&ノーブルをはじめとする700以上の小売業で買い物をした消費者に、現金を払い戻すという内容だ。要するに、グーグルではなく、自社の検索エンジンを使った消費者にご褒美を与えるというわけだ。「グーグルのたどる道は、2つに1つだ」。彼は言った。「キャッシュバックに追従して利益を失うか、追従せずに市場シェアを失うかだ」 メーディとマイクロソフトは完全に間違っていた。出席していた広告業界の人々は新たな計画に感心しなかった。マイクロソフトの新提案が、すでに「リベート制度」として広告業界では使い古されたやり方だったことも一因だ。2008年11月までに、結果は明らかになった。キャッシュバック計画は検索市場におけるマイクロソフトのシェア拡大には結びつかなかった。米国の検索市場でのグーグルのシェアは、前年の57.7%から64.1%に上昇した。
ブラウザを押さえろ
シュミットは「クラウド・コンピューティングはいずれグーグルの莫大な収入源になるだろう」と見る。その可能性を示す例として、教科書が一冊もないアフリカの学校で、代わりにグーグル検索を使うという教師のエピソードを挙げる。ブロードバンド普及率が世界で最も高い韓国で、すでに紙の教科書が消滅し始め、代わりに教材がノートパソコンにダウンロードされるようになったことも、心強い材料だ。クラウド上のすべてのアプリケーションへのアクセスを可能にするのは、グーグルクロームという独自開発のブラウザだ。世界中で数十億人がインターネットに接続できるようになる中、ブラウザは今後すべてのアプリケーションの土台として、OSに置き換わっていくだろう。2008年にはもう一つ重要な製品「アンドロイド」が登場した。2007年末に初めて公表されたアンドロイドは、スマートフォン向けの、無料のオープンソースOSだ。ブリンは2009年春、「日本でのグーグル検索の約1/3は、携帯電話経由だ」と語った。
共通の価値観は世界に存在しない
2009年6月にはイラン政府が街頭デモの参加者を棍棒で抑圧するだけでなく、インターネットを封鎖した。それを横目に、中国政府は7月1日以降に国内で販売されるすべてのパソコンにフィルタリング・ソフトを搭載するようパソコンメーカーに義務付けた。中国政府はポルノ上の規制が目的としているが、フィルタリングは政府が反体制的な政治的コンテンツをブロックするための武器にもなる。当然のことながら、グーグルが提唱する”自由でオープンなウェブ”という概念を、自国の価値観や態勢を脅かすものとして敵視する政府は少なくない。ダボスで開かれる世界経済フォーラムで、インターネットが推進する自由、開放、あらゆる情報へのアクセスといった民主的な価値観をほめそやした。だが、それに続く数分間、シンガポールの駐米大使の反論を受けた2人は、開いた口がふさがらない状態になった。
シンガポール政府はネットは個人ではなく、社会にとって有益なものであるべきだと考えている。だからインターネットの使用をライセンス制にした、と大使は語った。「ライセンス制度は、責任ある使用を促すために必要だ」 エジプトの外交官もその意見に同調し、「ネット上の人種差別的表現など、”人間の尊厳”にかかわる問題の扱いには規制が必要だ。言論の自由の行き過ぎを防ぐため国際基準を作るべきだ、とまで訴えた。驚いたダイソンとデンマークの元外相は、そんな考えは”リベラルな価値観”への脅威だ、と反論した。「私はリベラルなどではない」とイランの国会議員が切り返し、「西側の民主的価値観がウェブの世界を”汚染すること”に反対していると語った。「体制が反リベラルだからといって、不寛容ということではない、イランの価値観は個人よりコミュニティを尊重するものだ」と説明した。
うーん、アジア的~w イランだけでなく、アジアは、いわゆる非西側は、民主的で個人の権利や主張を重んじる価値観じゃないよね。
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