SNSに不安を抱くグーグル
グーグルが2007年からフェースブックの存在を警戒し始めたのは、その本質を理解していたからだ。フェースブックのユーザーが、個人的なネットワークを通じて情報を集めるようになれば、インターネットにおける彼等の検索エンジンやナビゲーターは、グーグルではなくフェースブックになってしまう。メディア企業がグーグルやユーチューブのほうがより多くの視聴者を獲得していると気を揉むのと同じように、グーグルもフェースブックに不安を感じ始めた。フェースブックのウェブページが、ユーザーにとって時たま訪れる場所ではなく、ずっと腰を落ち着ける場所になってしまったらどうするか?グーグルにとって望ましいのは、より多くの人がネット上をウロウロすることだ。両社の緊張関係は2007年10月、マイクロソフトがグーグルに競り勝ち、フェースブック株の1.6%を手に入れただけではなく、サイト上の広告販売を引き受けたことから一段と高まった。


グーグルのサーバーには、ユーザーに関する途方もない量のデータが蓄積されている。データベースは、検索をはじめとするグーグルの様々なサービスの利用者が増えるのに伴って、ますます拡大している。最新のテクノロジーを使って、消費者を動かす本当の要因を突き止めることを、通常”行動ターゲティング”と呼ぶ。それは企業や広告主に多くの情報をもたらす。行動ターゲティングは、ユーザーの助けになるとたいがいの場合考えられる。たとえばアマゾンが顧客の閲覧や購入の履歴を元に、お勧めの本を表示することは消費者に喜ばれている。その反面、ぞっとするような使い道もある。ケーブルテレビのセットトップ・ボックスに視聴者の表情を読み取る特殊なカメラを埋め込み、その反応を分析して広告主に伝えることもできるようになった。ニールセンが投資するのは、ニューロ・フォーカスと呼ばれるシステムに視聴者の脳波を読み取り、画面に映ったもの、聞いたものになぜ反応するかを解明するのが目的という。
最新のスマートフォンも膨大なデータを集めることができる。携帯電話会社は、通話の受発信や通話時間に関するデータを収集している。電話端末に搭載されたGPSを使えば、ユーザーのいる場所、滞在時間、一緒にいる別のユーザーまで追跡できる。このようなデータを使った分析はリアリティ・マイニングと呼ばれ、ブリンがかつて学んだデータマイニングの親戚だ。電話会社は顧客の個人名は伏せつつ、データをマーケティング資料として売り始めた。さらに大胆な行動に出たのは、消費者のネット上の活動を追跡するソフトウェアを開発した米国企業フォルムだ。電話会社やインターネットプロバイダーと連携し、匿名性は守りつつ、消費者一人一人の行動を記録しようとしたのだ。電話会社やプロバイダーはデータ提供の見返りに、新たな収入が入る。
9.11の同時多発テロの後、あわただしく設置された連邦愛国者法(パトリオットアクト)はその一例だ。この法律で大統領府は個人に無断でEメール、検索内容、読んだ資料、通話内容、ユーチューブやフェースブックのネットワークで見たもの、ネットで購入したものを調べることができるようになった。また道路や建物の中には何千万もの監視カメラが設置されている。公職に就こうとする人が、きわめてプライベートな情報を記者に漏らされ、決定的な打撃を受けることもある。最高裁判事の候補になったクラレンス・トーマスが、レンタルビデオ店の監視カメラの映像がリークされ、ポルノ映画好きであることが世に知られてしまったように。グーグルに金を払って、もっと正確に広告のターゲットを絞るためのデータを引き出そうとする広告主もいるかもしれない。電話会社やケーブルテレビ会社は消費者に無料サービスをちらつかせ、購入した音楽、商品、気に入った広告がすべて分かるクリック履歴を手に入れようとするかもしれない。最近ではAOLがブラウザのIPアドレスから一部のユーザーの個人名を割り出して、取引先に教えたことが明らかになり、大きな批判を浴びた
ラリー・ペイジ
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セルゲイ・ブリン
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会社としてエンジニアにどれほど重きを置いているかは、創業者たちやCEOのシュミットが、彼らとのミーティングにどれだけ時間を費やすかに表れている。火曜、水曜、金曜の午後は、グーグル・プロダクト・ストラテジー(GPS)レビューの予定でいっぱいだ。各チームの大部分を占めるのはエンジニアだ。特注の巨大な長方形の淡い色をしたオーク製テーブルが会議室いっぱいに広がる。一方の端には、柔らかな赤いベルベットのソファが置かれ、その正面に大型の液晶スクリーンが置いてある。壁にはホワイトボードがかかっている。プレゼンテーションの資料を読み込んだり、取り出したりする間の待ち時間を節約するため、プロジェクターは2台ある。そしてノートパソコンなどの電子機器を接続する際に分かりやすいように、ケーブルやワイヤーはすべて色分けされている。各会議の時間は15分から2時間で、まるで空港の離発着のように分刻みで予定が組まれている。「ラリーかサーゲイと話をしたければ、このミーティングを使えばいいの」と副社長のメガン・スミスは語る。「他の会社で働いていたら、CEOと7日以内に会うことなんてできる?多分無理でしょうね」「懐疑ではラリーが一方の立場を支持し、サーゲイが正反対の立場を取ることがよくある。そうすると他の参加者がその中間的な意見を出して、だんだん結論が見えてくるんだ」
ユーチューブを収益化せよ
2008年1月~2月にかけて、グーグルの検索利用者がテキスト広告をクリックする数は減少した。ウォール街のアナリストはグーグルの収入の伸びが頭打ちになると予測し、株価は下落した2007年1月6日の最高値から2008年3月には40%も下がった。ティム・アームストロングは、グーグルは”より適切”な広告を表示するため、検索結果画面に表示する広告の数を意図的に減らしている、と説明した。「クリック数は適切な指標ではない。重要なのは売上だ」と主張したが、それもメディアからは言い訳と受取られた。マスコミやアナリストが2つの行動規範に縛られていることが明らかだ。1つは「悪いニュースには後れを取るな」であり、もう一つは「不利な状況に取り残されるな」だ
2008年4月にグーグルが第1四半期の業績を発表すると、メディアのトーンは一変した。グーグルの売上高は前年同期から42%増えていた。広告のクリック数は20%増加にとどまっていたが、利益は30%も増えた。グーグルが米国内の検索連動広告の売上の3/4を押さえたのに対し、スティーブ・バルマー率いるマイクロソフトはわずか5%にとどまったことが明らかになった。バルマーの”一発屋”という指摘には一理あった。グーグルは膨張しすぎともいえる製品群から、利益を生み出す方法を見出していなかった。2008年1月時点で、米国人がネットで視聴する90億本の動画のうち、1/3はユーチューブが占めていた。ユーチューブという新たなメディアの影響力が、政治のあり方を未来永劫変えてしまうのも明らかだった。2008年の大統領選の候補者16人のうち、7人がユーチューブ上で立候補を表明した。2007年7月に開かれた民主党の大統領候補者による討論会の様子を、ユーチューブ上で見た人の数は、CNN生中継で見た人の数を上回った。
だがユーチューブは一切利益を上げていなかった。帯域幅の確保やコンピュータ機器のコストは莫大で、一部のコンテンツには使用料も支払っていた。2009年も赤字幅は拡大し、2億5千万ドルの売上高に対して、5億ドルの損失が出るという予想だったという。ネット上の動画広告がテレビ広告とは別物であることはよくわかっていた。ネット上で動画が始まる前に広告が表示されれば、視聴者は不快に思う。ネットユーザーはクリックしたらすぐに動画を見たいのだ。ネット環境では30秒の広告も長すぎる。広告が動画を中断するようなことは許されず、長い中断などもってのほかだった。
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