悲劇のヒロインほど人の心をそそる存在はない。ジャッキーの人気は偶像の域を越え、女神の位置にま
で高められていった。ジャッキーの喪服姿は世界のマスコミを彩った。彼女はかれから遺児であるジョン
とキャロラインを守り、生涯ジョン・F・ケネディの未亡人であり続けるであろう。1986年6月、ロバート・ケネ
ディは兄同様、暗殺者の凶弾に倒れた。人々はケネディ兄弟の相次ぐ不幸に驚いたが、その年の10月さ
らに大きな衝撃を受けることになった。ジャッキーが自ら、アメリカの女神の座を捨て、ギリシャの海運王、
アリストテレス・オナシスと電撃結婚したのである。彼は確かに世界でも指折りの大金持ちだ。だが金儲
けの才があったというだけで、家柄も教養もない成金ではないか。しかも数々の法律違反までして金を儲
けてきた守銭奴だ。容姿も醜いし、女の噂がいやと言うほどあるプレイボーイだ。つい最近も、オペラの世
界的プリマドンナであるマリア・カラスを、夫と離婚させたばかりだというではないか。
>マリア・カラスの方がべっぴんさん??
>ダラスの衛星中継見て、「あれが次のオナシス夫人だ」って言ってたらしいぞ。
>にしてもオナシス、酷い言われようだ。世界のホリエモンか。
マスコミはこれまでタブー視されていたケネディ夫妻の裏側を、いっせいに暴露し始めた。まずはケネディ
一族とジャッキーの対立である。ジャッキーの育った環境は洗練された上流階級だったが、ケネディ家は
男尊女卑思想の強い、どちらかというと田舎者の一族である。競争心が強く騒々しいこの一族に、ジャッ
キーは内心うんざりしていた。しかしまたケネディ家からすれば、ジャッキーの方こそ可愛げのない嫁だっ
た。ただ美人だというだけで大統領であるジョンをしのぐほどの人気があったし、何に関しても一流好みで、
エリート意識丸出しのところが鼻につく。それに何より、ジャッキーはたいへんな浪費家だった。洋服でも
家具でも最高のものを好きなだけ買いまくる。その請求書は大統領夫人であったころはホワイトハウスへ、
未亡人になってからはケネディ家へ送られてきた。彼女の乱費には故ケネディもかなり音を上げていたらしい。
しかし暴露された内容のおぞましさから言えば、ジャッキーのことよりも故ケネディの方が上かもしれない。
正義と清潔の象徴であったケネディが実は病的とも言えるほど凄まじい女性関係をもっていたのだ。結婚し
ても大統領になっても、彼の女遊びはおさまらなかった。ジャッキーが留守の時にはホワイトハウスに複数
の女を呼びいれ、マリファナを回し飲みしながら乱交パーティを開くこともあった。相手の女性もコールガール
から秘書、有名女優と手当たりしだいだった。なかでも有名だったのがマリリン・モンローとの親密な間柄だ。
ケネディの方は遊びだったが、モンローの方は彼に夢中になった。睡眠薬やアルコールで精神不安定になっ
たモンローは、ケネディがジャッキーと離婚して自分と結婚するという妄想を抱き始めていた。この関係にマ
フィアが目をつけたことを知ると、ケネディはモンローとの仲を清算しようとした。その仲介役をしたのが当時
司法長官だった弟のロバートケネディだったが、今度はそのロバートがモンローと関係をもってしまった。だ
がロバートも、女は好きだが計算高いケネディ一族の男である。モンローが邪魔な存在になるやいなやあっ
さりと捨ててしまった。絶望したモンローは、あなた達兄弟が自分にどんな仕打ちをしたか、何もかもマスコ
ミにぶちまけてやるとロバートにくってかかった。その場に居合わせた俳優のピーター・ローフォード(ロバート
の義弟)がモンローを取り押さえ、精神科医に引き渡した。モンローが自宅のベッドで死んだのは、その夜の
ことだった。睡眠薬による自殺とも事故とも言われているが、なにものかに殺されたのではないかという噂も
いまだに根強く囁かれている。
ジャッキーはモンローのことも含めて、夫の女性関係をよく知っていた。だが、そのことで夫にくってかかったり
離婚を考えたり、ということはなかったようだ。ジャッキーの父親であるジョン・ブーヴィエも女性関係の派手な
遊び人だった。ジャッキーの母親ともそういうことが原因で離婚しているが、ジャッキーはこの父親のことも決
して嫌ってはいない。ケネディとジャッキーの間にはもちろん愛もあったのだろうが、もしかすると彼らのような
特権階級の夫婦観というのは、昔のヨーロッパ貴族のそれに似ているのかもしれない。結婚は互いの社会的
立場を守るもの、家庭さえ壊さなければ遊びの恋愛は自由、というわけだ。
オナシスとジャッキーの出会いは1958年のことだった。ケネディ夫妻を豪華ヨット、クリスティーナ号に招待し
た。それから5年後、大統領夫人となっていたジャッキーは、3人目の子供を早産で失い悲嘆にくれていた。
オナシスはジャッキーの妹と親しかったので、彼女を通して、どうか静養に来ていただきたいと招待を申し入
れた。
>オナシスこえーよ。リアル 映画 幸福の条件ですなぁ・・・。おっとこの映画もデミちゃんか。
>どんな強い女でももっている弱み、「出産」につけこんでくるあたりも流石よのぅ。当時ジャッキー34歳。うんうん。
ケネディは反対した。オナシスはモナコ公国をも牛耳る大金持ちではあるが、仕事でも女グセでも評判の悪い
男だ。マリア・カラスとの不倫で三度目の妻であるティナとも離婚している。妻が単独でそういう男の招待を受
けると自分のイメージが悪くなりかねない、とケネディは判断したのだ。だがジャッキーは夫の反対を押し切っ
てギリシャへ出かけた。旅は楽しかった。オナシスの手厚いもてなしと青いギリシャの海は、ジャッキーの心を
なごませた。オナシスの彼女に対するきめ細かな心配りは、その後も絶えることなく続いた。ケネディ暗殺の
報を聞くやいなや、ホワイトハウスに飛んでジャッキーを慰め、以後は自分の専用ジェット機を彼女に自由に
使わせるという具合だった。そして二人は結婚した。
オナシスはマリア・カラスを失恋させ、息子アレキサンダーと娘クリスティナをも失望させたが、ジャッキーの方
は全アメリカ、いや世界のジャッキーファンを激怒させた。それほどのリスクを負っても、この結婚は二人にとっ
て価値のあるものだった。オナシスは、『アメリカの女神』だった女性を手に入れることで男性としての実力を世
に示し、ジャッキーの方は並ぶものなき富に保護されることになったのだ。しかしどういうわけか彼女が華やか
になればなるほど、その周辺には不思議と不幸が訪れた。オナシスの娘クリスティナは乱費と離婚を繰り返し、
息子のアレキサンダーは飛行機事故で死亡した。オナシスの前妻で二人の母であるティナは、オナシスの仕
事のライバルと再婚した挙句、鎮痛剤の常用でなぞめいた急死を遂げた。1975年3月15日、心臓を弱らせてパ
リの病院で治療を受けていたオナシスはついに息をひきとった。ジャッキーはその時、ニューヨークにいた。彼の
最後をみとったのは、娘のクリスティナだけだった。この頃、二人の夫婦仲がどうなっていたのかはわからない。
しかし発表されたオナシスの遺言は、ジャッキーに対する愛と感謝の感じられるものではなかった。4000億円
といわれる遺産のうち、ジャッキーには10億円、彼女の二人の連れ子には30歳になった時にそれぞれ10億円、
そして残りのほとんどが娘のクリスティナに贈られていたのだ。これを不服としてジャッキーはクリスティナ相手
に一年半の法廷闘争を繰り広げた。その結果彼女は2000万ドル(当時の日本円で約54億円)の追加遺産を手
にし、ギリシャを後にした。
>わかるなぁ・・・さすがはオナシス・・・1%だけ妻という他人にもくれてやろう・・・ってことだろ?
>ただの浪費家に金渡したって意味ないもんなぁ・・・、浪費には10億で十分、生前に使った金でおつりくるわぃ。
歴史を騒がせた「悪女」たち (講談社文庫) 山崎 洋子 講談社 1995-04 |
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