日本人の大多数が、心の底では、依然としてできることなら「対外関係」などという煩雑なものにかかわ
り合わず、日本の古来からのシステムや慣行、慣習の中で、平穏で快適な日常生活を営みたいと考え
ている。簡単に言えば、日本人は国際社会では必要に応じて最小限に付き合えばよいという考えである。
そのため、もし国際社会の共通の価値観に基づく行動が、国内の特定の利害関係者に打撃を与えるよう
なときは、当事者は自分たちだけが不当な犠牲を強いられているなどと思ってしまう。ウルグアイ・ラウン
ド(新多角的貿易交渉)の問題もそうである。この種の問題が起きると自由貿易が日本経済にとって、また
国際社会の健全な発展にとっていかに重要化という視点が欠けてしまう。日本が経済大国といわれるま
で経済成長できたのは何故だったか。それは自由と民主主義という共通の価値観によって貫かれている
国際社会が存在してきたからだ。そのメリットを受けて日本は成長してきた。江戸時代に戻って細々と生活
する道を選ぶならそれも一つの行き方だと思う。しかし、現在の繁栄を維持し、さらに発展したいと望むなら
国際社会の理念にしたがって行動し、その発展のために協力しなければならない。それこそが日本の本当
の意味での国益ではないか。湾岸戦争で日本が負の遺産を残してしまったのは真の国益がなんであるか
の認識が無かったからだ、と私は思うのである。
> 日本人との議論において、安易な攘夷論が持ち上がることが多いが、ここは読んだ方が良いな。
戦前は内閣の中で権力が分散していたために日本の破局を招いたという反省に立ち、現行憲法では、本
来の議院内閣制の趣旨に沿って、国会を国権の最高機関とした上で、その信認を受けた内閣が統治する
ように定めている。その限りでは首相を頂点とする内閣の権力は強大である。ところが戦前からの官僚制
を温存したため、権力の中枢は「官」であり、政治家は「民」の代表に過ぎないという意識をそのまま引き
ずってきた。「官」としての政府が政治の頂点であり、与党はその周辺に存在しているものという図式にな
っている。議会内の多数派である与党が名実ともに政権を担当するという意識が欠けているのではないだ
ろうか。
普通の国になれ 日本の責任と役割 「普通の国」とは何か
国家とは本来利己的な存在である。経済がどんなにボーダーレスになろうとこの本質は変わらない。どの
ようにして国際社会の中で生き抜き、どのようにして国民に豊かで安定した生活をもたらし、発展させてい
くか。200近い世界の国々がその目的のために日夜必死で努力している。それが国際社会の現実である。
ただし、自国の生き残りと反映のための努力あ、他国を顧みないむき出しの国益追求ではない。国民の豊
かで安定した生活の前提になるのは、国家の安全である。今日、経済的にも軍事的にも政治的にもどの
国も単独では自国の安全を保障し得ない以上、各国が協調してそれを実現するしかない。
日本の場合、再び鎖国政策に戻り、「清く貧しく美しく」生きていくことを国民があえて望むなら別だが、今
日の豊かで安定した生活を21世紀も維持し、より充実させることが政治の使命である。そのための必須の
条件が国際環境の平和と安定とその下での自由な貿易である。湾岸戦争以来、「国際貢献」という言葉が
流行になっている感がある。しかしそれがひたすら外国のために奉仕すること、あるいは国際社会の付き合
い上やむなく協力することと認識されているとすれば、明らかに間違いだ。国際貢献とは実は、日本が生き
残るための活動にほかならない。
平和と自由のコスト
日本はよく「商人国家」あるいは「通商国家」といわれる。しかし、日本は本当の意味で「国家」と呼ばれる
だけの昨日を果たして来たのだろうか。世界市場名高い商人国家は北イタリアに栄えたヴェネツィア共和国
ベニスの都市国家であろう。もっと古くはフェニキアの都市、カルタゴが知られている。これらの国の運命は
どうだったか。ベニスは1000年の繁栄を維持した。ローマに滅ぼされたカルタゴでさえ600年続いた。日本は
まだ40年余りである。ベニスとカルタゴに倣うなら、日本はこのままでもさらに繁栄していけるかに見える。と
ころが戦後の日本はこれらのッ国と根本的に違っている。ベニスは完全な共和制を敷き、政治にも安全保障
にもすべての市民が参加していた。1000年の繁栄は単に商売が上手だったからではない。全市民が一致
団結して地中海を完全に制覇していたからだ。自由な交易に必要な地中海の平和と安定を巧みな外交と自
前の海軍力で守っていたのである。平和と自由な交易のためのコストを全市民が支払ったからこそ、1000年
も栄華を維持することができたといえる。一方、カルタゴは滅亡の仕方が示唆に富んでいる。平和と自由な交
易のコストをそれなりに支払ったとはいえ、この国はベニスと違って財力にまかせて集めた傭兵で軍隊をつく
っていた。このため、つには農民を中心としたローマの軍団に滅ぼされてしまった。豊かさではローマよりカル
タゴがはるかに上回っていたのだが、自分の国をカネだけで守るという考えが命取りになった。ひるがえって
日本は戦後、平和と自由の維持のため、どれだけコストを払ってきただろうか。ほとんどコストを負担すること
なく、平和で自由な世界市場の果実を人一倍享受してきたと言わざるを得ない。
> コスト負担というと金を意識してしまうから、自国の平和と自由の維持のため国民一人一人は何をしたのか?
> と問いかけてみてはどうだろうか?
【軍事・軍隊・国防】
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