洪水伝説
パンドラ神話の後日談としてデウカリオンとピュラが登場する。デウカリオンはプロメテウスの息子でパンドラとエピメテウスの娘ピュラと結婚していた。ゼウスが邪悪な人類を滅ぼすために大洪水を引き起こそうとした時、デウカリオンとピュラは先見の明のあるプロメテウスの忠告に従って、あらかじめ箱舟を作った。9日間にわたって大雨が降り続いた後にやっと水が引き、難を逃れたこの夫婦が箱舟から出てみると、地上には誰ひとりいなかった。二人がゼウスに感謝の犠牲を捧げると、神は彼らの望みをすべて叶えてやろうと約束した。そこで彼らがこの世に人間が満ち溢れることを願うと、ゼウスは母の骨を肩越しに投げよと告げた。彼らは母の骨とは大地の石のことであると悟り、デウカリオンが石を後ろに投げると石は男になり、ピュラが肩越しに投げた石は女になった。この物語は民衆(laos)の起源を石(laas)とするものでたぶんに語呂合わせの要素を含んでいる。ギリシア人は自分達はデウカリオンとピュラの末裔であるという自己認識を抱いていた。彼らはヘレネス(Hellenes)と自称したが、ヘレネスという名はデウカリオンとピュラの息子ヘレン(Hellen)に由来する。
激似だ・・・
旧約聖書のノアの物語、「創世記」によると神ヤハウェは人類を滅ぼそうとしたが、義なる人であるノアにだけ箱舟の建造を命じた。彼は家族とあらゆる種類の動物をつがいで箱舟に乗りこませた。40日間も大雨が続いた後、150日目に放ったカラスとハトが戻り、さらに7日後に放ったハトはオリーブの葉をくわえて箱舟に帰ってきた。また7日後にハトを放ったが、それが戻らなかったため、ようやくノアは箱舟の外に出て神に供物を捧げた。ノアの物語の他にも、オリエントには洪水伝説がいくつもあった。前3000年紀のメソポタミア南部のシュメル人の神話では、「永遠の生命」を意味するジウスドラが知恵の神から洪水の予告を受け、船に乗り込んで助かっている。ジウスドラは太陽神に感謝の供物を捧げ、永遠の生命を授かった。やはりメソポタミア南部、前2000年紀にいたアッカド人の神話「アトラ・ハシス」でも人口増加を憂慮する神々が洪水による人類滅亡を企てる。しかし知恵の神エンキに造船を命じられたアトラ・ハシスだけが船に動物たちを乗せて難を逃れた。大洪水のモチーフは古代オリエント文学で最も有名な『ギルガメシュ叙事詩』にも見出される。シュメル人の古い伝承を基にして前2000年紀にバビロニア人がまとめたもので、アッカド語やヒッタイト語、フリ語などの版も存在する。主人公であるギルガメッシュは死を恐れ、永遠の生命を獲得した人物に会うために苦難に満ちた旅を続け、最後にようやくウトナピシュティムのもとにたどり着く。ウトナプシュティムは知恵の神エアの指示で船を作って洪水を逃れた人物である。彼はノアと同じように箱舟の中にすべての種類の動物を積み込み、やはり何度か鳥を飛ばして水の引き具合を確かめる。最後にカラスを放ったところ、それが戻ってこなかったので、ウトナプシュティムは箱舟から出て神々に祈りを捧げ、永遠の生命を与えられた。
 神々の王権継承神話がメソポタミアの影響下で成立したことや、年間降水量が少ないギリシアの気象条件などを勘案すると、このデウカリオンの洪水伝説もオリエントに端を発するという主張は十分に首肯できる。
ギリシア文化を築いた人々は、もとからギリシアの地に住んでいたわけではなかった。ギリシア語はインド=ヨーロッパ語族と総称される言語グループに属する。この語族の祖先の詳細は明らかではないが、彼らは前4000年紀以降、気象条件の変化や人口変動などに促されて黒海周辺から南下し始めた。その一派が前2000年紀あたりから三度にわたってエーゲ海地域に押し寄せてきたが、そこにはすでに、ギリシア語とは異なる言語を持つ先住民が居住していて、生と死をつかさどる大女神を信仰の中心に添えていた。では征服された先住民族の崇拝対象は異民族の侵略によって完全に一掃されたのだろうか。たしかに、最終的にインド=ヨーロッパ語族の信仰が優勢になり、男性神を頂点とする家父長制的な宗教体系が確立されたが、原住民の信仰対象は形を変えながらも、オリュンポスの女神たちに受け継がれた。
言語系統について・・・インターネットで調べてみると・・・、どうも納得いかない”系統だて”です。三大語族は、「インド・ヨーロッパ語族,セム語族,ウラル語族など」と書いてありますが、英語、ラテン語、ヘブライ語などはこれらに網羅されているようであるが、中国語や日本語、アジアの言語は含まれていない。語族という分類法で見ると、日本語族となっている。これ、言語学の本を読まないとわからないが、それぞれの国の愛国心が邪魔をして、主観的な起源説を唱えると喧嘩になるから、分類がうまく進まないのかね?