こうしたアジアからの反駁にも関わらず欧米の価値観の押し付けはなくならず、アジアの人々の感情を一層逆なでした。その極めツケが「マイケル・フェイ事件」である。18歳のアメリカ人、マイケル・フェイは車にスプレーで落書きをしているのが見つかり、バンダリズム(蛮行)法違反のかどで逮捕された。これに対し94年3月シンガポールの裁判所は鞭打ち6回の刑を言い渡した。このニュースがアメリカに流されたとたん、野蛮なむち打ちからアメリカの青年を救おうという声が全米で巻き起こり、フェイは一躍悲劇の主人公になってしまった。ギャロップの世論調査の数値が気になるクリントンは早速シンガポール政府に「特別の配慮」を求める書簡を送り、圧力をかけた。シンガポール政府はそんなことに動じるほどヤワではない。外国の圧力で判決を覆せば国家の威信が失われると、断固拒否する姿勢を貫いた。これを見てアメリカのマスコミはフェイが可哀想だと人々の感情に訴えかけた。高級紙やニュース雑誌の一部は”価値観の押し付け”は好ましくないと警鐘を鳴らしたが、大衆紙のヒステリックな報道の前には影が薄かった。シンガポール政府が毅然とした態度をとり続けた陰には、この国を創った男、リークアンユーの意向が強く反映していると見て間違いない。わずか30年あまりのうちに、犯罪と貧困がはびこる汚れた港町から、”東洋のスイス”と呼ばれる美しい都市国家に変身させた男だ。
いやー、そうだよなー、主権国家の首長たるものそういう態度でのぞまないといかんねぇ。外圧や民の感情論に流されて媚を売ってないで、国家の威信を保つこと。それが、民にはできない首長の役割だろう。
APECを使ってEAEC潰し
APEC(アジア太平洋経済協議体)拡大首脳会議。加盟国の全首脳をシアトルに招集して、アメリカが太平洋地域の盟主であることをアピールしようというわけである。ほとんどの加盟国は消極的で関税の相互引き下げ、大型資金協力などの重要な経済協力プランが決議されたことはない。提唱者のオーストラリアはアメリカのブッシュ政権に繰り返しAPEC強化のため、より積極的な役割を担って欲しいと要請したがアメリカはさほど熱意を示さなかった。またASEAN諸国も冷淡な態度だった。ところがクリントン政権になって状況が一変、形骸化していたAPECを対アジア政策の土台にすることにしたのだ。閣僚レベルだった加盟国間協議を非公式とはいえ、全首脳が一堂に会するサミットに一挙に格上げすることによって、APECを緩い協議体から経済ブロックへ移行させることに弾みをつけるつもりだった。早速オーストラリア、日本、韓国、カナダ、ニュージーランドが参加を表明。中国は当初やや消極的だったが、人権問題をめぐってぎくしゃくしているアメリカとの関係を改善し、最恵国待遇の高進を確かなものにするため、江沢民国家主席自らが参加すると発表し、クリントンを喜ばせた。しかしASEAN諸国は初めから消極的だった。もちろんその急先鋒はマハティールである。マハティールはアメリカがなし崩し的にAPECを設立当初の合意とかけ離れたものにしようとしていることに不快感を表明し、参加する意思は無いと述べた。
そりゃ、そうだな。アメさんと中国が出てきた時点で、経済協議体っちゅーか、政治・軍事牽制の場? 東南アジアの小国家はさすがに出番ないでしょう? あー、この早速参加表明した日本以下4か国か。コイツらも「うんうん」言うだけで、アメさんと中国になんか言える立場なんだっけ?
マレーシアが発展する上で特に重い足枷となっていたのは複合民族・複合宗教国家であることだろう。しかもマジョリティであるブミプトラ系は総人口の58%程度で、中国系が約33%、インド系が約10%を占めている。これがベルギーのようにワロン系とフラマン系で同じキリスト教徒で経済格差もほとんど無ければ安定は保てる。しかし、マレーシアの3つの民族系はマレー系がイスラム教、中国系が仏教・道教、インド系は主としてヒンドゥ教と三者三様で、当然文化的伝統にもかなり違いがある。実は”マレーシア”という単語が歴史に登場したのは1963年のことである。独立をめぐる民族対立の末、妥協の産物として4つの地域が合体して生まれたのがマレーシアという人口国家なのだ。この4つとはマラヤ(マレー半島)、シンガポール、旧英領ボルネオのサバ、サワラクである。マレー半島部とボルネオは遠く海で隔たれており歴史的に密接な関係を持ったことは一度も無い。またシンガポールは人口の78%を中国系が占め、他の地域とは異質な社会を形成していた。そのため、マレーシアの成立からわずか2年後の65年に、シンガポールはマレーシアから離脱し、分離独立することになる。
この民族対立の背景にはどんな要因があるのだろう。マレー半島でマレー人と中国人の対立が激化したのは第二次大戦後のことである。そもそもの原因は第二次大戦中ここを占領した日本軍の統治方式にあった。日本軍は中国と交戦中という理由で中国人を敵国民として抑圧、一方でマレー人を優遇した。そのためマレー人の間には当初、日本軍をイギリスからの解放者とみなす空気があり、占領にも協力的だった。日本軍はマレー社会のスルタン(イスラムの権威に裏打ちされた各地の土侯)による支配体制を利用したのでマレー人の間には大きな抵抗は生まれなかった。一方で同じアジア人である日本軍がイギリス軍を降伏させたことはイギリスの権威を失墜させ、マレー人の間に強い民族意識を芽生えさせることになる。
自我の目栄えですね。育児理論的には2歳児というところでしょうか。
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