米国アリゾナ州北部に有名なグランド・キャニオンがある。深さは1200メートルである。ある日、
私は現地へ行ってみた。そして、驚いた。国立公園の観光地で、多くの人々が訪れるにもかか
わらず、転落を防ぐ柵が見当たらないのである。しかも大きく突き出た岩の先端には若い男女
がすわり、戯れている。私は辺りを見回してみた。注意をうながす人がいないばかりか、立札す
ら見当たらない。日本だったら柵が施され「立入厳禁」などの立札があちこちに立てられている
はずであり、公園の管理人がとんできて注意するだろう。私は想像してみた。もし日本の観光地
がこのような状態で、事故がおきたとしたらどうなるだろうか。おそらくその観光地の管理責任者
は新聞やテレビで轟々たる非難を浴びるだろう。観光客が来るのになぜ柵を作らなかったのか、
なぜ管理人を置かないのか、なぜ立札を立てないのか。だから日本の公園管理当局は、前も
ってありとあらゆる自己防止策を講ずる。いってみれば行動規制である。観光客はその規則に
従ってさえいれば安全だというわけである。
大の大人がレジャーという最も私的で自由な行動についてさえ当局に安全を守ってもらい、それ
を当然視している。これに対してアメリカでは自分の安全は自分の責任で守っているわけである。
> うーん、正しい・・・日本の特徴であり、良さであり、またウザいところでもある・・・
なぜ、日本の社会はこのように規制を求める社会なのか。断っておくが、私は、規制を求める社会
が間違っているというのではない。社会のあり方の問題としては、正しいとか間違いとかいうもので
はない。日本には日本の歴史と伝統に基づく社会のあり方がある。日本人が規制を求めるのは日
本社会の特性に原因がある。日本の社会は多数決ではなく全会一致を尊ぶ社会である。全員が
賛成して事が決まる。逆に言えば一人でも反対があれば、事が決まらない。こういう社会であくまで
自分の意見を主張するとどうなるか。事が決められず、社会は混乱してしまう。社会の混乱を防ぐに
は、個人の意見は差し控え、全体の空気に同調しなければならない。同調しない者は村八分にして
抑えつけられる。その代わり、個人の生活や安全はムラ全体が保証する。社会は個人を規制し、規
制に従う個人は生活と安全が保証される、という関係だった。
> そんな日本が気に入らない場合でも、日本を変えようとするのは、もったいないと思っている。
> ここまで不合理な社会を維持しているのは、世界でも類を見ない稀少性があるからである。
> 黙って外に出て、外から見ている分には、それが美しく見えてくる。
いまや時代は変わった。日本型民主主義では内外の変化に対応できなくなった。どのように変革す
るか。政治のリーダシップを確立、地方分権、規制の撤廃。これら3つの改革の根底にある究極の目
標は、個人の自立である。すなわち真の民主主義の確立である。個人の自立がなければ真に自由
な民主主義社会は生まれない。国家として自立することもできないのである。人々はいまだに「グラン
ド・キャニオン」の周辺に柵を作り、立入厳禁の立て札を立てるように当局に要求する。自ら規制を求
め、、自由を放棄する。そして地方は国に依存し、国は責任を持って政治をリードするものがいない。
真に自由で民主的な社会を形成し、国家として自立するには、個人の自立を図らなければならない。
その意味では、国民の”意識改革”こそが現在の日本にとって最も重要な課題といえる。
> 改革のために必要なのは民の意識改革というのは同意だね。しかし民の望むものを与えるのが
> 良い政治とするならば、どうだろうか? 私は小沢先生のように国家を司る立場ではないが、家庭
> という小さな社会にあてはめて考えてみたらどうだろうか? 夫が妻に対する柵を全て取り除き、自
> 由を得ることを妻は望んでいるだろうか? 履き違えた自由と権利ばかりを主張し、それに伴う責任
> は放棄する。それが民の本質だ。私もそんな国家の改革に必要な意識改革のために、全ての柵
> を取り除くように努めているが、女性や社会からはあまり良い反応は得られていない。
日本改造計画 | |
小沢 一郎
講談社 1993-05-21 |
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