大きな利益をもたらすプロジェクト
アルカイダがダイヤモンドなどの宝石に目をつけたのは西アフリカが最初でなかった。しかし、それ以前の彼らの動きに
ついては米国情報筋はほとんど無視していた。最も強力な証拠が出されたのは、米国に帰化したレバノン人で数年間
ビン・ラディンの個人秘書として働いたことのあるワディーフ・エルハッジの裁判だった。彼は1998年9月20日、6週間前
に起きたケニアのナイロビとタンザニアのダルエスサラームの米大使館爆破に関与したとして逮捕され、有罪の判決を
受けて終身刑が言い渡された。裁判ではアルカイダから寝返った政府側証人の口から繰り返しダイヤモンドの話が出た。
これらの証言はアルカイダがかなり早い段階からダイヤモンドの取引に注目していたことを示すものだった。しかし、当時
の検察官の関心はもっぱら、エルハッジとビン・ラディンの直接的な関係にあったため、ダイヤモンドに関する追求はほと
んどなかった。
2001年夏、シエラレオネの地元のダイヤモンド商人たちは何か変事を感じ取っていた。本来ならダイヤモンドが大量に出
回るはずなのに、まったく姿を見せないのだ。シエラレオネ東部のボーやケネマで、一握りのレバノン人が正体不明のあ
る筋から金を受け取り、できるだけ多くのダイヤモンドを購入するように指示されている
。売り手の中には最高で30%のプ
レミアムを受け取ったという者も居た。ダイヤモンド鉱山の上をヘリで通ったとき、あまりにも多い鉱夫の群れに米国大使
はびっくりした。不安定ながらもRUFとの停戦は数ヶ月守られていて、RUFは少しずつだが国連の武装解除に応じていた。
武装解除した兵士たちは故郷に帰る代わりにに鉱山に集結していたのだ。鉱山の賑わいをよそにシエラレオネのダイヤ
モンドの輸出量は激減していた。いったいダイヤはどこに消えたのだろう。その謎の答えは1年後にわかった。ベルギー
の当局者がアーテシア銀行の行員から、アジズ・ナッソウルのASAダイアム社の口座の動きがおかしいとの通報
を受け
たのだ。1997年から2000年まで口座に全く何の変化もなかった。ところが2000年初めから2001年4月にかけてアントワ
ープのアーテシア銀行の同社口座に7000万ドルが振り込まれた。ASAダイアム社はダイヤはコンゴ産と言っていたが
当局の捜査員は実はモロンビア経由のものであることをつきとめた。アルカイダはそれまでのようにダイヤモンド市場を
経由するのではなく、産地から直接買い付けるようやり方を変えていた。
西側社会ではあまり知られていないが、ハワラというのは近代金融システムよりもっと以前から数世紀にわたってアラブ
やアジアで機能していた。政府の規制は受けていないが通常不法な存在とされるハワラはアジアやアラブ世界ではなく
てはならない経済組織として根を張っている。ハワラのなかを流通する金は実際には移動しない。ハワラ・システムは
インド・パキスタン・アフガニスタン・イエメンなど、数百万人の国民が出稼ぎに出ていて、稼いだ金を母国に送金するよう
な国では完全に国家経済に組み込まれている。ハワラが扱う資金量は年間数千億ドルに達する。インドのハワラを通過
した資金は1998年には6800億ドルにも達した。これはインドのGNPの約40%にあたる

米国内で活躍するイスラム系テロ組織としては、アルカイダは比較的新顔だ。ハマス、ヒズボラ、パレスチナ・イスラム・
ジハードといった組織が、米国内の慈善事業、シンクタンク、宗教研究プログラムなどを利用して数億ドルの資金集めを
してきた
。「何人か核になる人物がいて、資金をどう振り分けるか決めるのだが、アルカイダは他の組織と並んで資金の
配分を受ける資格があると認められた。なぜそうなったか、財布のひもを握っている人物、-通常はサウジの人間だが-
に、強固なワッハービズムを信奉するスンニ派の人々からそういう要請があったからだ。サウジが数千万ドルの金を使っ
て、ワッハービズムを世界中に広め、それが引き起こしかねない暴力に対する責任を放棄していることを批判する。
サウジの富豪20人をリストアップした金(きん)の鎖という表題のついた資料、リストに載っている者は全員、9.11の犠牲
者の遺族がテロ資金提供者に対している集団訴訟の被告として名を連ねている。

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