夜21時過ぎ、デリのインドラ・ガンジー空港に着いた。空港の出口を出るなり、むっとする熱気がお出迎えだ。
デリという代表都市と国際空港でありながら、電灯は少なく、出口近辺は既に薄暗い。
並ぶタクシーは、30-40年前の作られていそうなボロボロの冷房もついていない車だ。
暗闇の中、舗装もされていないホコリっぽい道の上で、プスンプスンという古めかしいエンジン音とクラクションの嵐。
観光産業など全く意識しないがごとくのご丁寧なお出迎えで、私が今まで行った国の中で最も観光客冷遇で
あることは間違いなかった。
「えっ? 何これ・・・?」が私のインドの第一印象である。
これが南アジアで抜群のGDPと人口をほこり、World Billionaire1ページ目に何人も輩出するインド?
入国の際に、入国書類に加えて、健康申告書のようなものがあるが、それについての言及も看板も一切ない
まま入国手続きに並ばされ、持っていないことが判明したらもう一度並びなおしだ。
Visaといい、入国手続きといい、その非効率性と閉鎖性に苛立ちを隠せなかったことも影響しているだろう。
SouthAsiaGDP.JPG
中国と比較すると確かにGDPは3-4倍の差があるが、この数値の差がもたらす街の概観は思っていたよりも遥か
に大きな違いであった。
一人当たりGDPで計算し、かつWorld Billionaire Best30に複数人が入ることを鑑みれば、
平均の低さと分散の高さは中国よりも遥かに度合いが強いことは数値的にも想像できることであったが、
GDPという統計指標の実体である民の姿、貧困層の厚みは、想像を絶するレベルで私の目の前に転がっていた。
今回は、どこへ行っても、ホテルとオフィスが立ち並ぶ高層ビル群などは見ることができなかった。
高級ホテルと最貧困層はいまだ隣り合わせで存在している
デリの5つ星ホテルから煙草を半分吸い終らないほどの時間歩けば、そこには路上生活者がいる。
しかし、襲われたり、ものを奪われたりするような危険な気配は感じない。そのような気力すらない絶望的な姿で
地面に横たわっているように見える。赤ん坊は土ぼこり舞う固い路上に無造作に”置かれて”いる。
昼間でも街を歩くと、多くの人が地面に転がっている。カンカン照りの中、汗一つかかず、まぶしそうな表情一つ
せず、ゴロンと転がっている様子はあたかも既に死んでいるようにも思える。本当に死んでいたかもしれないが、
触って体温を確認することは今回棄権しておいた。
かなりな人通りと交通量であっても信号は街中に少なく、インドでは、車はごちゃごちゃと非効率に走るもののようだ。
貧困による犯罪をおこせるものは、インドではおそらく順貧困層で、路上に無気力に転がる最貧困層とは異なる。
私が今回引っかかったのはインドでは典型とされるパターンで、駅の入り口あたりに立っており、列車の乗り場所を聞
いたりすると、「この列車は来ない」と嘘をつき、「払い戻しはここ」「新しいチケットはあそこ」などと悪徳業者を紹介
してくる
。本当は列車は来ていたのだ。
電車、バス、タクシーの乗り方がわからないし、違う窓口に試しに並ぼうにもごちゃごちゃしていて人も多いので、冷房
の無いなか長い行列で長時間待つことを思うとその気力が失せてくる。効率的に過ごすために人に聞こうにも、この
ようなパターンが多いので人に聞くことができない。何人もに同じことを聞いて、確からしいものを直感的に判断せざるを
得ず、非常に疲れるし、行動しにくい。
インド人に対し、「どうせお前も嘘をついているんだろう?」と思いながら話さなければならず、インドに対する興味と
親しみを持って、訪れた私にとってはずっと心が痛い状態であった。