田中の遺産を相続したのは、妻のはな、長女の真紀子、養子になっている夫の直紀、田中の愛人の間にできた息子2人
の5人である。
「田中家相続劇」の第一幕は、94年7月、真紀子らが小石川税務署に相続税の申告書を出したことで始まる。
遺産総額は約119億4千万円である。生前600億円、800億円と言われていた「角栄財産」に比べると余りに少ない。
仕掛けは田中系非上場5企業の株式にある。
田中金脈の象徴と言われている信濃川河川敷、資産総額400億円の支配構造は、
土地の80%を千秋が原工業が、20%を室町産業が所有している。20%は田中の分身ともいえるペーパーカンパニーで
あるが、千秋が原は長鉄工業の100%子会社だ。長鉄工業は、田中が87%、残りは浦浜開発が所有していた。
浦浜開発はの株主は田中が20%、豊川商事が50%、真紀子・直紀夫妻が30%、豊川商事は全株田中が持っていた。
千秋が原工業分の敷地は5重6重構造で田中がほとんどを支配し、真紀子夫妻は少ししか参加していない。
その支配構造が、93年6月から9月の間にどう変わったのか。
6月豊川商事の10%を東新開発に売却する
7月長鉄工業の10%を東新開発に売却する
9月東新開発の40%を真紀子夫妻の資産管理会社であるハルシヨンに売っている。
以上のような売買で、信濃川河川敷の支配は田中から真紀子夫妻に移った。
長鉄工業の株主構成がわからないが・・・
税金対策に有利な株所有を通じて財産を支配するやり方もそのまま真紀子に引き継がれた。自信を持っての申告だっただろう。
しかし土台となる河川敷の広さを確認していなかった。
遺産相続で非上場株をどのように評価するかについては、資本金に応じた2つの方法がある。
一つは資本金1億円以上の企業の株が対象の類似業種比準方式。もう一つは資本金1億円未満の「純資産価額方式」だ。
類似業種比準方式ではペーパーカンパニーなどの場合、業績の実体が無いため、上場企業の似たような会社と比較すると
株の評価は著しく低くなる。相続税対策にはもってこいの手法だ。そこで国税局は90年9月、非上場企業の全資産のうち
株式の占める割合が25%を超えた場合は「株式保有特定会社」と位置づけ、株は時価ではじき出す「純資産価額方式」
で算定しようというものだ。
真紀子は相続税申告に当たって、実体のある越後交通と長鉄工業は類似業種比準方式で株価を算定している。
ところが長鉄工業の株価評価が25%条項にひっかかったのである。長鉄工業は千秋が原工業の株式を100%所有。
千秋が原工業の唯一の資産は信濃川河川敷である。敷地の価格から長鉄工業の全資産に占める千秋が原工業の株式
の評価額の割合は24%だった。長鉄工業の株価は類似業種比準方式によると8億円と評価されていた。
真紀子側は千秋が原工業が保有する信濃川河川敷の価格を26ヘクタールで計算していたが、実際は30.4ヘクタール
で、千秋が原工業の株の資産価値があがってしまい、長鉄工業に占める株式の割合は28%になって25%を超えてしまった。
そこで東京国税局は類似業種比準方式を否認し、純資産価額方式で計算した長鉄工業の株価は総額51億円に
跳ね上がった。43億円の申告漏れである。ファミリー企業の東新開発、浦浜開発、豊川商事の株価も玉突き的に上昇し
長鉄工業分を含め、49億円の申告漏れが表面化した。
もっとも東京国税局は、千秋が原工業の帳簿には河川敷の広さが26ヘクタールと記載されていることも、実際はそれより
4.4ヘクタール広いことも事前に知っていた。真紀子らが正確な広さを知らないまま25%条項を利用してくるのを予想して
「罠」を仕掛け、田中がなくなるのをじっと待った。
おそろしや、おそろしや・・・
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