これからジョン・ポールソンの本、「史上最大の金儲け」について書こうと思うのだが、そこにはCDSやCDOについて一切の
解説がないゆえに、一般読者のために、ここで軽く解説代わりに書いておこう。
CDSとは、Credit Default SWAP(クレジットデフォルトスワップ)で定期的な金銭の支払と引き替えに、
一定の国や企業(「参照組織」)の債務の一定の元本額(「仮想元本額」)に対する信用リスクのプロテクションを購
入する(すなわち、信用リスクを移転する)取引である。
とWikipediaに書いてある。2008年のクレジットクライシスの元凶、主役と言えるデリバティブで、何かと話題になる
ことが多いが、それでもなんだかよくわからないという一般読者のために今日はCDSを絵で解説することを試みよう。
まずCreditとは信用、つまり金貸しの話なので、金貸しの基本原則からお話しよう。
下記の絵をCash Flowと言い、線は時系列で左が過去で右が将来を示す。線より下は払い、線より上が受けを示す。
図1 金を貸した時のCash Flow
青の部分:金貸しは最初に金を出すので、マイナス。
黄色の部分:これを一般に利息とか利子と言う。タダで金は貸さねぇぞということ。
赤の部分:約束した期限で最初の元本と金利を返してもらう。
例えば4年で10%で金を貸すと言ったら、金貸しは、最初に100払い、毎年10ずつもらい4年目に110返してもらう。
ということになる。専門用語で言うところ単利の考えだが、単利とか複利はCDSの本質とは関係ないので気にしなくてよい。
一方、金貸し自身も金を借りている。日本銀行は銀行の銀行って教科書に載っていたかと思う。
金を借りた場合は下記のようになる。ただの反転なので、最初に入ってきて、金利を払って、最後に元本と金利を払う。
図2 金を借りた時のCash Flow
金貸し自身も誰かから借りているのでこれと同じように金利の支払い義務を持つ。だから自分自身が借りた金利よりも高い
金利で誰かに貸せばそれが儲けになる。預金金利はゼロでも住宅ローンはゼロにならないことから直感的にこのことは理
解できると思われる。
であるからその上乗せ部分は下記でいうところの緑の部分になり、これは金貸しの儲けとなる。
図3 銀行が金を貸した時のCash Flow
CDSとは、この緑の部分だけを取引するデリバティブなのである。
上記の絵で見ると、CDS取引の核たる定義はご理解いただけたと思うが、存在意義がわからないであろう。
絵が想定しているのは、あくまで貸した相手が約束通り金利と元本を支払う場合だからである。
では、相手が約束を反故にした場合、すなわち倒産の場合にCash Flowがどのようになるか書いてみた。
下記のように、利払いが途中で終わり、貸した元本よりも遥かに小さい金額が戻ってくるかもしれない。
(倒産直後の会社に乗り込んで、債権者会議で「金目のものを出せコラ」とがなり立てた苦労の結果である。)
しかも裁判などになれば、なけなし赤の回収金額が支払われる時期は、もっともっと遠い将来かもしれない。
これは、そういうの面倒だから債権回収業者(サービサー)に焦げ付いた債権を売った時のエコノミーと
みなしてよい。
図4 貸出先が倒産してしまった時の銀行のCash Flow
一方で先ほど、金貸しも誰かから金を借りていると言った。
もしこの通り将来支払いをしなかった場合は今度は自分自身が債権者会議で糾弾される側にまわることを意味する。
正常通りの貸出先であれば、図2+図3で青、赤、黄色、全てが消しあって緑の部分だけ残り、それが利益となるの
であるが、貸し出し先倒産した場合の金貸しの損益を考えれば、図2+図4となり、将来の黄色部分がまず入ってこ
ない。一方、自分自身は約束通り赤いの(元本)を返さなければならないのでその差は金貸しの”損”になる。
CDS取引において、緑を払った側は、この損失を相手に押し付ける権利を持つデリバティブなのである。
先ほどの例と同様で、4年で10%で金を貸すと言ったのに、2年後に倒産、100貸したのに10しか戻ってこなかったら
損失は90になる。この債権を相手に押し付けることができる=相手から100もらって時価10の債権を渡す
=90をもらえる ということになる。この差額の部分はオレンジで示したが実際には倒産と言うイベントで発生するた
め、時期や金額に対して明確なことは言えず、事後的に決まる。
図5 CDS Protection Buyer(損失を相手に押し付ける権利を持つ)のCash Flow
ローン債権の価値というのは、最初の元本以外、つまり将来のキャシュフロー、赤、黄色、緑の総和で決まるが、倒
産確率を考慮して、途中で利払いが終わり、元本も返ってこない場合のシナリオも考慮する。であるが、倒産確率は一
般にそれほど高くないので、ローン債権は往々にして貸し出した元本に近い金額で売買されることになる。
CDSはこの元本に近い金額は一切必要なくローン債権のリスク・リターン部分だけ取り出すことができる。言い換えれば
金貸し同士、互いにどのように資金調達しているかはさておき、
Protection Buyer 「貸出先が倒産すると思うから、お前、被れよ。」
Protection Seller 「だったらお前、俺に年率XX%払いな。」
Protection Buyer 「わかったわかった」
で、実質的にSellerが貸出先に貸しているエコノミーをBuyerが提供する、貸出先のリスク移転ができるようになった
のである。
*Buyerは緑を支払う側、Sellerは緑を受け取る側という意味。
字でわかるCDSは、こちらのサイト クレジットデフォルトスワップ(CDS)とは? を参照されたし。
もう一歩踏み込んで書かれていますし、短い文章でよくまとまっています。
【クレジット系関連記事】
2011.01.12: 最強ヘッジファンド LTCMの興亡 ~天才が描く収益設計
2010.11.15: 三田氏を斬る ~多彩な商品、CB/PS系
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2010.02.08: ジャパン・プレミアム・トレード
2009.02.27: VolatilityとCredit Spreadの関係
2008.12.04: CBとCall Option+Bondの違い for Beginner
2008.12.03: CBとWarrant+Bondの相違@8591
2008.09.26: 凡人のShopping@9001 Hybrid Finance
2008.09.25: 世界一のお金持ちの楽しいShopping@GS PPS+Warrant
2008.09.21: CDSはCorrelation Derivatives
2008.04.17: 一族家における投資教育 ~CDO
2008.03.20: 一族家における投資教育 ~新発CBとIPO
2008.02.02: 信用取引 証券会社の儲けと投資家(顧客)のうまみ
2007.12.14: 久々のお買い物 C 5.875 FEB 2033
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いつも興味深く読ませていただいております。
初めての質問です、宜しくお願いいたします。
もし参照企業が倒産したときに、Protection Sellerも倒産していたら、参照企業との取引での損失に加えて、Protection Sellerへの支払いも損失となってしまうんでしょうか。
もしそうならば、CDSの値決めは、参照企業の信用力に基づいたプライス(参照企業宛の無担保貸金の利率でしょうか?)からProtection Sellerの信用力に基づいたプライス(Protection Sellerを参照企業としたときのCDSのプライス!?いや、無担保貸金の利率かな?)を「引いたもの」になるのでしょうか?
金融機関が債権を売却する際は、一般に売却後は債務者とも売却先とも契約が残らないため、債権の質(借入人や担保等)だけを勘案して値段を決めればいいと思いますが、CDSの場合はProtection Sellerによってプライスが大きく変わりそうですね。
ANA宛ての債権を持っている人が、JALをProtection SellerとしてCDSは購入しませんよね。
AIGの名前が挙がっていましたが、一般的にCDSのProtection Sellerはどんなentityなんでしょうか?
もし、だれでもCDSを販売できるのであれば債権額の0.01%でトヨタを参照企業にしてCDSを販売したいところです(そもそもトヨタの場合はCDSの買い手がいなさそうですが・・)。
おっとGT先生来ましたね。
>Protection Sellerへの支払いも損失
こっちはProtection Buyerなわけですから、図5です。
今まで払った緑は払い損で、オレンジの部分が来なくなるだけです。
つまり、参照企業に100貸して、15になってしまった。本来、CDSでは85得られるはずです。
ですから金貸して、CDSを買えば、時価評価は常に0なはずです。
ところが、CDSのSellerも死んでしまうと、時価評価は‐85になります。
‐200とかにはなりません。
CDS契約は無担保ではありません。インターバンク間で取引し、CDSを時価評価して、
その損益に関しては担保を入れる必要があります。
例えば5年のCDSを100bpsで取引し、翌日200bpsまでワイドニングしたら、
1%(200bps-100bps)×5年=5%×取引NotionalをSellerはBuyerに払う必要があります。
よってCDSは、あくまで参照企業のクレジットでプライスされます。
が、信用危機などの時に露呈したように、
http://www.ichizoku.net/2008/09/cdscorrelationderivatives.html
で軽く議論しましたが、
参照企業のローン債権・債券の利回り=CDS+CDSのSellerの調達金利
となります。
債券が暴落して利回りベース20%もあるのに、CDSは1500bpsで止まるなんてことが
ありました。なぜならば、CDS取引参加者であるインターバンクの調達金利が上がって
いたからです。違いは、債券を買うにはCashが要ります。CDSは評価差分の証拠金
だけで良いからです。
だから↑で書いた
>ですから金貸して、CDSを買えば、時価評価は常に0なはずです。
は、ちょっと嘘だってことです。
>CDSの場合はProtection Sellerによってプライスが大きく変わりそう
私はCDSの取引をしたことはありませんが、プライスが違うというより実務上は、そこの
Sellerとはデリバティブ取引を停止、Limit、枠を縮めるというデジタルな対処になること
が多いように思います。
> 一般的にCDSのProtection Sellerはどんなentityなんでしょうか?
インターバンクです。
ですが、場合により、Sellerになれません。参照企業に対して多大な債権を持っている銀行は
連鎖倒産の恐れがあるからです。またソブリンCDSなどが一番良い例で、日本の銀行は日本
CDSのSellerになれません。
> だれでもCDSを販売できるのであれば
誰でもCDSを売ることができる方法がクレジットリンク債の購入です。
これは初期に100%担保を差し入れているので誰でも売れるという仕組みです。
ですが、トヨタのCDSを100%担保を差し入れてまで売りたいなら、TMCCの債券を買うのがSimpleです。
取り急ぎ、ちょっと飲みがあるんで…。GT先生も来る?
エキゾ様
早速のご返信ありがとうございます!
非常に良くわかりました。
小職、損失と払い損を混同していたようです。
インターバンク = 決済が必ずできるということなんですね。たしかにProtection Sellerが倒産するって事は、借り手が倒産しました~、でも同額の預金を担保に取ってるんで大丈夫です~、いや待て、よく見るとお金じゃなくて葉っぱだった~!、っての同じことですよね。
東京金融先物取引所のHP(J-CDS)等も調べてみましたが、pricingや決済の方法に歴史・工夫があって面白いですね。Physical SettlementからCash Settlementへ、ショートスクイーズ、ISDAの果たす役割・・、興味が尽きません。
CDSがDerivativeがどうかは分かりませんが(ガンマ無き者は・・)、CDSに関してだけでも、調べていると脳の奥がきらきらと輝くように知的興奮を覚えます。
今週の週末は本HPのデリバティブ関連記事を熟読してみようと思います。
PS. 次回は麻雀に参加させてください(期末が終わった4月以降がベストです)!
Quanto ForwardとNDFは、ガンマ無いけどデリバティブと思っていましたが、CDSも
完全なデリバティブと認めざるを得ません。
ですが、ガンマ無き者デリバティブに非ずというポリシーからくやしまぎれに言うと、
「CDSは英語のデリバティブ、オプションは数学のデリバティブ」が答えかと思います。
おっしゃる通り、CDSは、仕組みのデリバティブであり、ISDAの世界なわけですが、
オプションは、複製とArbitrage Portfolioというプライシングの世界です。
クレデリ関係でお仕事をなさっている方には、恐縮ですが、CDSというのは引き算で
計算します。Credit Spreadの引き算です。
逆に言うと持ったら最後、売るまでそのポジションはど~しよ~もないのです。
プライシングとかヘッジという概念は無いんです。(言い過ぎか??)
保険契約もそうですよね。ヘッジできるのですか? 分割して売る、あるいは大量にとって
統計上期待値に収束させることが唯一のヘッジとトレーディングになるわけです。
それってデリバティブ・トレーディングっていうか営業??
オプションというのはそれもできるし、加えてアンダーライングを用いた複製という楽しみ
があるわけです。その独自性を楽しむためには、ガンマというリスクは必要不可欠だと
思っているのです。
SWAPは…Covexityあるけど、デリバティブじゃねぇ!!
とはいえ、私も、「クレジット・デリバティブのすべて」 でも読んで、いじめられないように
ちゃんと勉強します。
http://www.ichizoku.net/2009/09/jealousy.html
トレーディングしたことないわ、基本の本も読んでないわ、で、こんな言うって俺も酷いな・・・。
一族家・雀荘化状態がいつまで継続できるかに一抹の不安があるものの是非やりましょう!!