P.73~74 そもそも、オプションマーケットが存在していれば、取引価格から逆算されたボラティリティ(インプライド・ボラティリティ)が参考になるから価格評価するのに、ヒストリカル・ボラティリティなど見なくともよい。これといった推定法が存在しない中で、推定をしていかなければならないデリバティブズトレーダーは、やはり職人なのだ。
デリバティブズ・ビジネスII 三田 哉 (著) – 2015/9/12
うむ、俺も自らをデリバティブ・デザイナーと言ったり、寿司職人みたいなもんだ、と言っていた。しかし、それは2015年までの話だ。今はもう考え方が違う。こういった推定法が存在しないのは事実だが、その中で、適当にプライシングして、それを「職人芸」と言ってしまった時点で、それは”思考停止の罪”だ。2015年までの私なら、こんな一文は全く気にせず、読み飛ばしていただろうが今は違う。
少し話は長くなるが昔話を思い起こそう。私が入社1年目の最後、課長から「何か希望は?」と言われたので「やはりデリバティブを扱う仕事を…」と言ったら、課長が「では自己ポジションの管理システムの担当にしよう。しかし、あくまでも自己ポジションのシステムであり、デリバティブのシステムではないッ!」とくぎを刺された。しかし、いざ担当すると99%の仕事がデリバティブであった。というのは株の取引は自動的に約定が入力できるのだが、OTCデリバティブは業者間だろうが対顧客だろうが、1個1個の契約なので、それを入力するのが私の最初の仕事だった。それを1か月くらいやった後だろうか、課長から「株の引当金の計算やって。これ、超重要だからねっ!デリバティブよりも!」と言われた。私はヒラ中のヒラだったので、私ー上司(主任?)-課長ー部長というラインになるのだが、日本の会社はこのツリー構造というより網の目のようなネット構造なので、ヒラに課長や部長が直接的な指示を与える所があるのが面白いw
株の引当金の計算とは何のことかというと、1000円の株を50万株持っていたら、その価値は1000円×50万株で計算されると思うかもしれないが、その株の流動性次第では50万株も売ると株価が下がってしまう。そのマーケットインパクトを引当金として計上する株の評価モデルを作れ、ということなのだ。ただ、これは引当金計上の目的なのだが、同時に、ブロックトレードの際に、お客様にお支払いいただくスプレッドのモデル化でもある。ブロックトレードのプライシングを数理モデル化するということだ。もちろん、現株のトレーダーが私のモデルに従って取引していたわけではない。ただ、トレーダーのプライシングと引当金の差が、そのトレードの収益としてその日は計上されることにはなる。
何の話をしているのか、何がつながっているのか理解できたかね?
つまりブロックのプライシングなんてのは現株トレーダーの「職人芸」なわけだよ。だけど彼らは20年も前に、モデル化して、対外的に説明力のある「評価」をしたいと私のところに言ってきたわけだ。彼らは私のモデルに従ってプライシングしていたということを意味しない点をしつこくもう一度強調しておこう。一方のデリバティブは? インプライドが存在しない銘柄や行使価格の「評価上のインプライド・ボラティリティ」は、どう決めてる? 未だに「職人芸」だろ?
ま、株のトレーダーの連中も、意識が高いというより、ポジションがでかすぎて、会社全体のPLにも影響あるので、そこに「職人芸」の要素が入ってしまうと上場会社として会計的に問題があるからという必然性はあったのは事実である。だが、それは鶏と卵だ。そういう努力をしてないから、デリバティブ部門は、そんな職人芸が許されるポジションしか持たせてもらえないんだ! 「MSCBの引受を株の部門に取られた!」と憤慨していたのは私だが、今なら「当然だ」と理解できるよ。