p108 発電所の一帯には漁業権が設定されていない。電力会社は発電所の建設と同時に、近隣の漁師に補償金を払い、かわりに漁師は漁業権を放棄するからだ。漁業権が宙に浮いた状態でも、穀長違反といった漁業調整規則違反にはなる。しかし、その他の漁業関連法案を厳守している限り誰が何をとっても密漁にはならない。
p148 漁業権と漁業組合について解説したい。漁業権は世界中に日本にしかない独自の法律だからである。諸外国ではそれぞれの漁船に操業許可が与えられ、街の前浜で獲れる海産物を住民が独占するという概念は無い。文献では漁業権をさかのぼると、大宝律令に行き着くという。船の櫂の立つところを基準とし、そのエリアに面している集落が定着性の動植物-昆布やワカメといった海藻類、ウニ、アワビ、サザエなど貝類、入り江に入り込むアジやイワシなどを独占的に漁獲できる権利を指している。歴代、漁業権は村の有力者に与えられ、網元や庄屋が独占していた。
明治8年、政府は日本の海を官有化しようと試みるも、各地の強硬な反対にあってとん挫した。諸外国の法律を参考にしようとしたが、前述したように漁業権は日本独特の概念であり、該当する法律がなかった。そのため政府は漁師町の慣習・掟を丹念に調べて明文化し、明治38年、ようやく日本初の漁業法が完成した。敗戦後、GHQは農地改革に準じた改革を漁業にも当てはめようとした。ところが長年漁業権が慣習として定着していたため、各地の上位階層が占有していた既得権を解放することはできても、日本独自のシステム撤廃することができなかった。漁業の民主化を目的とした昭和漁業法が公布されたのは、昭和24年12月15日である。漁業権を引き継ぐ受け皿として生まれたのが今の漁業協同組合で、都道府県知事から与えられた漁業権を一括管理する。恩恵にあずかれるのは、ここに加入した組合員だけだ。