よく耳にする「バイ・アメリカン」や「バイ・フレンチ」の類のキャッチフレーズも、絆の弱体化に対する不安の表れだろう。だが、絆が弱まることにはメリットもある。まず、贈与経済では依存関係が生まれやすい。社会学者ピエール・ブルデューは、与える者と与えられる者との間に上下関係が生まれる可能性を指摘する。そのような関係には「打算の無い寛容の装いの下に隠された暴力」が存在するという。一般的に言えば、社会のきずなには多くの美点があるにしても、息苦しさや束縛につながることもある。
最後通牒ゲーム プレーヤー1が10ユーロの配分を任され、自分とプレーヤー2の取り分を提案する。ここまでは独裁者ゲームと非常によく似ている。しかし、この先が違う。分配の最終決定はプレーヤー2がプレーヤー1の提案を受け入れるかどうかにかかっているのである。プレーヤー1の提案を2が拒絶したら、どちらのプレーヤーも何ももらえない。実際にこのゲームをやってみると、半々に分けるという提案は必ず受け入れられる。一方、プレーヤー1が9ユーロで2が1ユーロという提案はまず拒絶される。8ユーロと2ユーロの組み合わせもしばしば拒絶される。プレーヤー2にとっては1ユーロか2ユーロでもゼロよりましであるにもかかわらず、拒絶するのである。
心理学の分野で開発されたゲームでは、ばれる恐れがない場合には人はあっさりとインチキをすることが確かめられた。1~10ユーロが等しい確率で当たるくじを引いてもらう。被験者は当たった金額を実験者に申告すると、申告通りの金額をもらえる。被験者がみな正直者で、かつサンプル数が十分に大きければ、おおむね10%が1ユーロと申告し、10%が2ユーロという具合になるはずだ。ところが実験では高い金額になるほど出現頻度が本来以上に多くなったのである。だが話はここで終わらない。二回目の実験では、同じゲームをするのだが、その前に実験者が被験者に対し「モーセの十戒」または大学の倫理規則を読み上げる。すると、被験者のインチキが1回目より大幅に減った。インチキがいかによからぬことかが強調され、記憶に焼き付けられたのだと考えられる。この実験で、完全に合理的なホモ・エコノミクスという古典的な概念は破られたといってよかろう。
公務員は「国家に奉仕する」のではない。そもそも「国家に奉仕する」という的外れな表現は、公職の目的を完全に取り違えていた。公務員は「市民に奉仕する」のである。
議員の数も多すぎる。アメリカの上院は非常に活発に活動しているが、議員数は100名である。一方、アメリカの上院に相当するフランスの元老院は、人口がアメリカの1/5にもかかわらず、348名もいる。下院に相当する国民議会は577名。国民一人当たりの議員数で見ると、アメリカはフランスの1/10である。個人的には、フランスの議員数を減らす代わりに、専門知識を備えたスタッフを増やすのが良いと考えている。
大多数の経済学者は、グローバルなレベルでのカーボン・プライシングを提言している。そのための方法で意見が分かれるにしても、それは価格付けの原則と比べれば副次的な問題にすぎない。多くの社会運動団体(たとえば環境運動家の二コラ・ユロ)、NGO,シンクタンクなども意見を共にしている。たとえばIMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事と世界銀行のジム・ヨン・キム総裁は、2015年10月8日に次のような共同声明を出した。
「よりクリーンな未来を目指すためには、政府が行動を起こすとともに、民間部門に適切なインセンティブを設けることが必要である。その柱となるのが、強力な公共政策の下でのカーボン・プライシングだ。燃料、電力を始め、炭素を排出する産業活動に対して、現在より高水準の炭素価格を設定するなら、クリーンな燃料の活用、省エネルギー、クリーン技術への投資を促すことができよう。炭素税、排出権取引など価格付けメカニズムを導入する一方で非効率な補助金を廃止すれば、企業も世帯も、地球温暖化との戦いにおいて長期的に何に投資すべきなのか、明確に判断できるようになる」
どの国も、どの産業も、どの企業も世帯も、炭素を排出したら同じ価格を払う-これこそ、最高にシンプルな方法ではないだろうか。だがこれまでのところ、世界は明らかに複雑なやり方の方が好きらしい。
フランスの失業問題 CDD(有期雇用契約)とCDI(無期雇用契約) ILO定義で290万人、10.6%(2015年)
失業補償310億ユーロ、消極政策(失業保険)がGDP比1.41%、積極政策(職業訓練、補助金付き雇用)が0.87%。これに雇用主負担軽減措置やCICE(雇用促進税額控除、企業の競争力を高めるために支払い報酬額に応じて税額控除を適用する措置)を加えれば、GDP比3.5~4%となる。
雇用の保護を定めた法規と職場のストレスは正の相関関係があるという。雇用が硬直的なうえに新規雇用機会が少ないとなれば、雇用者と被雇用者の関係は様々な形で悪化する。
企業が直接的な解雇コストを負担しないフランスの現在の仕組みは、この他にも見えない重大な影響を引き起こしている。経済活動の変動が大きい業界ほど得をする仕組みになっている。こうした業界は構造的に頻繁に解雇せざるを得ないので、結局は失業保険のコストをごく一部しか負担しないことになり、他部門が払い込んだ保険料を食いつぶす形になる。このような仕組みで割を食うのは、雇用が比較的安定していて解雇が滅多にない業界である。
雇う側と雇われる側の共謀 この「労使の共謀」ではまず辞職つまり自主退職を「解雇」とする。自発的に辞めたら失業保険は受け取れないからだ。解雇扱いにすることによって雇用主も退職者も得をする。2008年に「合意による労働契約の解消」が導入されて、この種の共謀が事実上合法化され、もはや労使で解雇を偽装する必要もなくなった。
同じヨーロッパの国同士で殺し合う戦争に疲れた欧州大陸では、新しいヨーロッパの建設が人々の希望の星となった。人の行き来やモノやサービスの貿易や、資本取引の自由を保障して、保護主義を未来永劫追放しよう。市場開放などの改革を通じて経済を近代化する困難な仕事を第三者機関、つまり欧州委員会(EC)にやらせようという意図である。統一通貨ユーロは希望そのものだった。経済が好調な国から不調な国へ自動的に移転を行う財政同盟が存在しない。さらに、文化や言語の違いから、労働者の移動可能性が限られている。したがって雇用機会に関する限り、地域的なショックをユーロ圏全体で吸収する余地は小さい。現時点でヨーロッパ各国間の労働者の移動は、アメリカの州間移動の1/3にとどまっている。連邦制をとる国では財政移転と労働者の移動性の二要素がショックの安定化装置となるのだが、ヨーロッパではそのどちらも機能していないのである。しかも通貨統合の結果、貿易収支が赤字に陥った国にとって国際競争力回復の手段である為替切り下げの可能性も、排除されている。
競争不在のデメリットを示す面白い例を挙げよう(不利益を被った世帯にとっては少しも面白くないかもしれないが)。フランスでは1973年に制定されたロワイエ法および1996年に制定されたラファラン法により大規模小売店舗の出店が厳しく規制されており、売り場面積300㎡以上の店舗は当局の出店許可を得なければならない。この法律の目的はスーパーマーケットの市場支配力を弱め、街の小さな店を保護することだったと思われるが、実際には法案成立と同時に既存の大型スーパーチェーンの株価が跳ね上がった。誰もがこれで既存店はこの先競争から守られ、しかもすでに大型店舗で営業している以上、規模のメリットが活かせると正しく判断したからである。実際にこの法律のせいでその後10年間、ハイパーマーケットは出店できなかった。さらにラファラン法と同じ年にギャラン法(流通関係の正義と公平に関する法律)が制定され、サプライヤーから得た値引きを売値に転嫁することが禁じられた。その結果、大型店で小売価格が押し上げられたことは言うまでもない。私自身は大都市に住んでいるので近くにたくさん店があり、値上げされれば別の店で買うことができた。だが都市部の住人はごく一部に過ぎず、フランスの規制当局は他の大勢の消費者の犠牲を強いたと言わざるを得ない。
政府には未来に大ブレークするものを当てる能力など備わっていない。そこでアメリカやイギリスなどでは政府が特定の産業の振興に影響を及ぼすべきではないとされている。つまり勝ち馬を当てようとするな、ということだうまく行ってもまぐれ当たりに過ぎず、悪くすれば利益団体を喜ばせるだけになりかねない。この主張の根拠となっているのが、政府主導の壮大なプロジェクトの大失敗である。その代表格が超音速旅客機コンコルドだ。また膨大な公的資金を投じて生き残ってきたフランスのブル社は、国家助成を得てIBMに拮抗するスーパーコンピューターを開発するという。また一時国有化され、その後民営化された者の事業の相次ぐ分離など経営が一向に安定しないテクニカラー(旧社名トムソン)の例もある。きわめて示唆的な例として2005年に発足した産業革新局が挙げられる。インターネットのためのマルチメディア検索エンジン開発プロジェクト「Quaero(クエロ)がそうだ。このプロジェクトには、フランスからトムソン、ドイツからドイツ・テレコムなどが参加し、既にフランス政府から9900万ユーロの資金が投じられている。一体フランス政府は、スタート時点からすでにグーグルに気の遠くなるほど遅れを取っているというのに、本気でクエロがグーグルを追い越せると信じているのだろうか。