ヘルベルト・マルクーゼの洞察「市場はあなたが本来必要としていないものを買わせようとする人々で満ち満ちており、その結果あなたは時間と快楽、そして創造性を犠牲にしているのだという認識だ。一方、フリードリッヒ・ハイエクは「市場は他の形では伝えられない情報を流すことで個人の多種多様な活動を調整し、目的が全く相反する人同士であっても共通する手段に注目すれば互いに協力し合うことも可能であり、同意の必要性を最小限に抑えることができる、という洞察である。
ヴォルテール 近代ヨーロッパの知識人が資本主義をどのように考えていたのかという研究は、ヴォルテールから始める必要がある。これは特に彼が「知識人」の役割を作り出すことに貢献したからに他ならない。独立した著述家、あるいは「世論」という現象が存在するようになったのである。フランスの蔵相ジャック・ネッカーは世論を「財力、警察、軍隊を持たない見えざる権力」と呼んだ。世論の形成に献身した独立の文筆家としての知識人の 興隆は18世紀に同時進行した2つの展開によって可能となった。一つは文筆家の経済的基盤ががパトロンによる庇護から市場に移ったこと。もう一つは統治者である王に直接訴えるのではなく、知識を与えられた公衆に依拠した新しい政治形態の成長である。
エドマンド・バーク 賃金を労使間の交渉ではなく、治安判事に設定させるのは農業経済についての重大な決定を知識も関心もないような者の手に委ねることに等しい。政治家が、食糧価格を下げるように政府の介入を求める都市住民の声に耳を傾けるのはばかげている。農業は商業の共通原則、すなわち関係者すべてが最も高い利潤をめざすという原則にしたがって動かなければならない。
ヘーゲル ヨーロッパのドイツ語圏の大半がナポレオンに征服され、多くの従属国がフランスの庇護の下に生まれた。そこでは「ナポレオン法典」が採用されたが、これは史上初めて宗教や出自にかかわらず人は法の下で平等であるとうたったものである。しばしば歴史的にみられるところであるが、外国に征服されるという脅威は国を守るための近代化を促進させることになるのだ。
シュンペーター 知識人集団は…批判で生計を立てており、その地位はすべて、批判の鋭さに依存している」。資本主義に対する反感は、また、教育ある男女が周期的に過剰生産されることによっても助長される。
ドイツやオーストリアでは、ユダヤ人は資本主義の代表者としてみなされていた。それは国民の多くの階級が伝統的に商業を嫌っていたため、より高く評価される職業から実際に排除されていたユダヤ人が、それらにたやすく参入することができたからであった。ドイツにおいて、反ユダヤ主義や反資本主義が、この商業活動への軽蔑という同じ根源から生まれてきたという事実は、現在までそこで何が起こってきたかを理解するうえで極めて重要な点であり、外国の観察者にはほとんど認識されていないことなのである。
ハイエクによればファシズムとナチズムは、資本主義の発展過程で社会的に損失を受けた者たちが、市場で否定された報酬を力ずくと手前勝手なイデオロギー理論によって取り戻そうとする絶望的な試みなのだ。
近代の資本主義社会は戦争のような国家の危機の時期を除いては、「目的の一致」というものがない点が特徴だと考えていた。計画経済は様々な財の正確な相対的価値についての社会的コンセンサスを必要とするが、これは自由社会では不可能だからである。自由社会の利点は必要な同意が最低限で済むということである。これならば自由社会での個人の選択と多様性と両立できる。
ギュスターヴ・ル・ボンの著書「群集心理ー人心の研究」、1895年にフランスで刊行され、すぐに世界各国で翻訳された同書もまた多くの点で、階層の解体や、「群衆の神権」が「王の神権」に取って代わることに関する、きわめて保守的なエリート主義者の嘆きを表していた。関心を集めたのは非合理性の原因が群衆の心理にあると分析した点である。ル・ボンは意識的な行為にはるかに重要な影響を及ぼすのは意図的な動機ではなく、「概して遺伝の影響によって形作られた無意識の基盤」だと説いた。個人が群衆になるとそのような影響が強まり非合理性が幅を利かせるようになる。さらに群衆の一員になるという事実だけで、人間は文明の階段を何段も下ってしまう。孤立している間は教養ある人物だったとしても、群衆に加わると野蛮人、つまり本能のままに動く生き物になるのだ。ル・ボンは大衆の手綱を握る可能性を提示した。大衆の見方は自分たちの利益、ことによるといかなる真剣な考えも反映してはいない。理に適っていることを訴えても意味はない。必要となる条件は、劇のように抗しがたく衝撃的なイメージ、「人心を満たし、それをつかんで離さない」ような「絶対的でゆるぎない単純な」イメージである。
資本主義の思想史: 市場をめぐる近代ヨーロッパ300年の知の系譜
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