三木「次の会長は君に頼みたいんだよ」
五月女「え、こんなところで突然、言われましても・・・」
三木「わが社の状態は君が一番わかっているはずだ。誠実な君なら社員の信頼もある。ぜひお願いしたいんだ」
五月女「新社長はどうするんですか」
三木「野澤君に頼んであるんだ。この話はまだ、私と行平会長しか知らない。よろしく頼みますよ。」
三木はその直前に野澤にも電話を入れていた。
三木「僕の後任は君がやってくれないか。いろいろあって君しかいないんだ」
野澤「えーっ!私はその器じゃありませんよ」。そういう野澤の答えの中に、僥倖の喜びがにじみでている。行平も野澤に電話を入れていた。じっとり粘るような口調であった。
行平「頼むな。逃げないで仕事に向かってくれ。いろいろあるんだよ」
二人のトップが言う「いろいろ」とは、緊急副社長会で明らかにされた「指三本」の簿外債務のことだったのだろうが、野澤が深く聞くことは無かった。本心をめったに口にしない三木が、側近にポツリと漏らした。
三木「野澤が社長になっちゃったよ
「取引で儲ければ自分の才覚、損をすれば証券会社のせいだ」。苦情客の中にはそう考えるものもいる。
> いつの時代もいるねぇ。でもそうである限り、証券業のブローカレッジビジネスはなくならねぇな。


菊野は「山一エンタープライズ」という山一の子会社が、1200億円の国際取引をしていたことに気付いた。他の取引資料を精査していたときに偶然見つけたのである。山一エンタープライズは、設立こそ大正8年と古いが、茅場町の山一のビルに間借りしている。主な業務は山一グループ内の売店運営と管理で約20人の社員の大半が女性である。そんな会社が巨額の資金運用をすることなど考えられなかった。-おかしい、何かが起きている。山一エンタープライズの常務にやんわりと聞いた。「この国債の取引ですが、どういうことですかなあ?」「それは会長か、社長に聞いてくれよ」 冗談や嘘が言えるような相手ではない。この国際取引はトップシークレットだと彼は言っているのだった。菊野は、この常務が会長の行平に近い人物であることを思い出した。この先輩は行平に直接呼ばれて現職に任命されている。
山一證券 巨額『飛ばし』東急百貨店に利回り約束 4年半で取引3660億円.」 産経新聞は大きな見出しをたてて、山一が取引先の損失を隠す「飛ばし」取引を繰り返していたと報じていた。その内容は次のようなものだった。ある企業が山一との取引で多額の含み損を抱えてしまった。そのままでは決算期に有価証券の損失が表面化してしまう。そこで山一は東急百貨店に利益を約束した上で、含み損の出たこの有価証券を一時的に買い取ってもらう経理操作をしていた。それは4年半も繰り返され、山一が東急百貨店に移し替えた金額は総額3660億円にも上った-というのである。
山一社員のパソコンには、電子メールで経営陣批判が流れている。トップの無能を皮肉った替え歌や川柳も次々に流れてきた。それは本社から支店へ、支店から関連会社へと波のように転送されていった。例えばチェッカーズのヒット曲「涙のリクエスト」の替え歌である。
> 本文には替え歌しか載っていないので、暇な私が横に並べて表記しよう。
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長澤は嘉本より3年早く、社内の司法組織であるギョウカンに回された。そこで山一の看板だった事業法人部門-通称「ジホウ(事法)」は触れてはならない部署であることを痛感していた。ジホウとは、事業法人本部を中心に法人営業本部など、事業法人相手に営業する法人営業グループ全体を指している。「ジホウは監査しない」という引継ぎや取り決めがあったわけではない。しかし、バブル経済の下で、山一證券の事業法人部門は事業会社から無尽蔵の資金を引き出してくる営業のエリート部隊とされ、急速に組織を拡大した。1984年から6年間に山一の全従業員は6504人から9100人と4割増えたのに対し、法人部門の人員は2倍にも増えている。一時、ジホウのトップだった行平でさえ、ブレーキをかけようとしなかった部署なのである。清濁併せ呑むアンタッチャブルな組織とされ、監査の範疇から事実上、外れていたのだ。ギョウカンが監査してきたのは、せいぜい個人営業部門である支店や本店営業部であった。1988年から10年間に山一證券で証券事故として社内処分が行われた件数は1275件に上るが、そのうち事業法人部門の処分はわずか10件にすぎなかった。
【日本の企業経営】
2015.07.16 世界最大級プライベートエクイティ投資会社の日本戦略 カーライル 1/2
2015.06.08 溶ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 2/4~経営者として
2015.03.20 リクルート事件・江副浩正の真実 1/5~NTTと政界とのつながり
2014.04.09 株主総会
2013.09.20 解明・拓銀を潰した戦犯 1/4 ~破綻への道
2013.04.12 徴税権力 国税庁の研究 2/2 ~大企業
2012.04.11|財務会計基準機構加入止めない??
2010.01.21: 上場会社のあり方 
2009.12.17: 俺の恋のライバルはツワモノ揃い
2009.07.31: 角栄の逃税学2 ~逆さ合併
2009.05.01: 私のケチの定義
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2009.02.25: 日本の長者番付 ~金融危機の果てに変わった勢力図