カリスマ的独裁者の死を契機に改革を求めるドミノ現象が及び、「空っぽの鍋は戦車より強い」(ヤコブレフ)という大変動が近い将来に起こってもなんら不思議ではない。ソ連・東欧の激変は地理的に離れた日本にとっては、対岸の火災かもしれない。しかし、北京・平壌が改革のドミノ現象の終点となったときは、その火の粉は当然難民流出、亡命騒ぎ、在留邦人保護などの重大事態となって日本に降りかかってくるだろう。
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エリツィン体制の不安 1991年の8.19クーデターはなぜ失敗したのか
1.ノーメンクラトゥーラの「宮廷革命」であり、失われゆく特権擁護のための私利私欲政変劇であって、高邁な新国家目標や政治改革の理念や信条が見られない。
2.命懸けのカリスマ的指導者がいない。国家非常事態委員会の3人衆、ヤナーエフ副大統領(54)、パブロフ首相(54)、プーゴ内相(54)、クリュチコフKGB議長(66)、バクラノフ国防会議第一副議長(59)、スタロドプツェフ農民同盟議長(60)、ヤゾフ国防相(67)、チジャコフ国営企業産業建設輸送通信教会会長(?)と平均年齢が59.1歳。1917年ロシア革命を指導したボルシェヴィキたちの年齢は、レーニン(47)、トロツキー(38)、スターリン(38)、モロトフ(27)、ブハーリン(29)、ブルガーニン(22)、トハチェフスキー(24)といずれも若い。1918年7月成立したメンシェヴィキ内閣のケレンスキー首相も36歳だった。クーデターは「大佐革命」であるといわれるように第一線実力部隊の将校・下士官・兵をその指揮系統によりしっかり掌握している連隊長級の左官が主謀者グループに入っていないと成功はおぼつかない。エジプトのナセル、リビアのカダフィ大佐、キューバのカストロ、1944年ヒットラー総裁暗殺未遂クーデターの主謀者もフォン・シュタウフェンベルク大佐などの例に見られるように、実兵指揮をするためには将校・下士官の名前もよく覚えていない将官が命令しても”指揮の鎖”がないと兵は動かないのである。
フリードリッヒ・ニーチェは「真の指導者は、強烈な個性を持ち、弱者達の相互庇いあいのような奴隷と服従の道徳を排し、自己の信念を貫く君主の道徳を体した超人であるべきで、権力意思の権化であるべきだ」と主張した。(日本の)総理大臣もただの人の1人だから超人であることは無理としての権力意思の持ち主であることは最低限の資質だ。ニイチェは権力意思を権力欲と明確に区別して、権力欲とは権力に付随する利益や享楽を求め、権力そのものが目的である欲で、権力意思の持ち主にとって、権力は己の政治的抱負、経綸を世に問うための手段であって目的ではない。
「共産主義はいまや死滅し、社会主義体制は崩壊した。これは我が自民党の主張が正しかったことを証明するものであり、今度の選挙は自由民主主義と市場経済で今日の日本を築いた人民党を選ぶのか、破綻した社会主義を奉ずる社会党を選ぶのか体制選択の選挙である。」
ソ連を改革路線に追いやったのはアメリカであって自民党ではない。ソ連を経済的に財政的にも”双子の赤字”に追いやって破綻させたのは、同じ”双子の赤字”の痛みに耐えながら、厖大な予算を要するSDI構想を打ち出し、核通常両面での軍拡競争をソ連に対して挑んだレーガン戦略の大博打の勝利である。それがソ連のアフガニスタン撤退、INF全廃、ICBM半減交渉、カムラン湾からの撤退、ベトナム・キューバへの軍事援助停止、そしてその結果としてのキューバのアフリカ撤兵、ベトナムのカンボジア撤兵。ペレストロイカ、東欧の自由化、ベルリンの壁撤去と東西ドイツの歩み寄り、化学兵器全廃、通常兵力削減、ソ連共産党の一党独裁廃止・大統領制導入、市場経済への転換・・・といった一連の大変動への原動力となった。
食糧管理法は戦中戦後1人1日2合3勺という米を必要最小限の主食として配給するために制定した「食糧危機管理立法」だった。今やそれは国会議員や農協、農水省の私益、省益のため国益を損なうマジノ線要塞に堕している。しかもその阻止線は突破されていて(1)煎餅・酒醸用の砕米5万トン(2)ピラフなど冷凍加工飯米(3)凶作の際韓国から緊急輸入-など例外が多く、食管法違反の良質な自主流通米が堂々と市場で売られているのが現状だ。コメ問題については「日本農業の死活問題」「1粒たりとも輸入させない」「食糧安保だ」などと、自民党農村議員ばかりか社会党、共産党議員まで徹底抗戦の気構えだが、果たしてそのうちの何人が本音でものをいっているのだろうか。

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佐々 淳行

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